生命科学クライシス
リチャード・ハリス(著)
,寺町朋子(著)
/白揚社
作品情報
製薬企業が53件の研究を追試したところ、結果を再現できたのはそのうちわずか6件。 再現失敗率、約90%――命を救うはずの研究が、低すぎる再現性のために、無用な臨床試験、誤った情報、虚しい希望を生みだし続ける。ずさんな研究はなぜ横行するのか? その影響はどこまで及ぶのか? 改革は可能か?トップ研究者から、政府組織の要人、業界の権威や慣習に立ちむかう「反逆児」、臨床試験に望みを託す患者まで、 広範な調査・取材を基に、ひそかに生命科学をむしばんできた「再現性問題」の全貌をあぶりだす。【次々と明らかになる、ずさんな研究の実態】・乳がん細胞と黒色腫細胞を間違えて、1000件以上の乳がん研究がおこなわれた・糖尿病や心臓病などの疾患との関連が報告された遺伝子の98.8%が、のちに関連が否定された・実験の結果が出た後に、それをうまく説明できるように仮説を立てなおすことが横行している・わずか数匹のマウスの実験結果をもとに、人での臨床試験がおこなわれた・マウスで開発された敗血症治療薬150種類すべてが人では効果がなかった・・・・・・生命科学では、いったい何が起きているのか?
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商品情報
- シリーズ
- 生命科学クライシス
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- 白揚社
- 書籍発売日
- 2019.03.26
- Reader Store発売日
- 2019.07.11
- ファイルサイズ
- 0.7MB
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この作品のレビュー
平均 4.3 (4件のレビュー)
-
生命科学・生物医学は現在、大きな発展を遂げ、その研究成果は社会に大きく貢献してきた。あるいは、してきたように見える。
なるほど、生物の設計図ともいえるゲノムの解読は進み、新しい診断検査や治療法も生まれ…ている。優れた薬や公衆衛生上のアドバイスも得られる。
だが一方で、例えばアルツハイマー病や転移がん、ALSをはじめとする神経疾患の原因や治療については思うように研究は進んでいない。
こうしたことの理由となっているかもしれないのが、本書で取り上げられる、生命科学研究全体の諸問題である。
研究は科学雑誌に載ることで一定の評価を得る。
だが、雑誌への掲載は研究の「正しさ」を必ずしも担保しない。
多くの人に引用されるような影響力の大きな実験であっても、もう一度行って同じ結果が得られる「再現性」がない場合も実は多い。別の研究室で行う場合だけでなく、その研究を発表した研究室でさえ、再現できない例もあるのだ。
これにはさまざまな要因がある。実験に用いられる細胞株が、元のものとは変わってしまっている場合。用いる抗体などの物質が、定義されている性質を持っていない場合。血清など、複雑な構成要素を持つ試薬のロットの違い。研究者自身が期待する結果に引きずられてしまう場合。
再現性に問題がなくても、例えば細胞での結果を個体に適用できるのか、マウスでの結果はヒトでの結果に当てはまるのかという問題もある。
統計処理の十分な知識がなく、解釈が誤っていると思われる例も多い。
誤った論文の誤った結果を前提にして、さらに誤った研究が計画され、誤った結果をさらに生じることもある。
研究不正など、明らかに意図的なものでなくても、「落とし穴」は数限りなくあるのだ。
研究の難しさの根底には、生物自体の複雑さもあるが、生物医学研究の構造的な問題もある。
研究は、多くの研究室によりそれぞれバラバラに行われる。各々独立した研究室が公的な資金をめぐって競争状態にある。また、個々の研究者もそれぞれ成果を上げなければよいポストは得られない。
それにはなるべく多くの論文を書かねばならない。たとえ発表後に誤りに気が付いたとしても、それを認めればキャリアに傷がつく可能性もある。
だがそうして誤った論文が撤回されなければ、誤りの上に誤りが築かれることになる。結果、疾患の解明など、真のゴールは遠ざかる。
本書は、生命研究にかかわる絡まり合った問題を丁寧に解きほぐしていく。
著者の丹念な取材あってのことだが、同時に、本書の執筆に関わった研究者たちの協力的な姿勢も印象的である。
大部分の研究者は、不正やズルで利益を得たいわけではない。真実に近づきたいのだ。
終章で2つの視点が提示される。
1つは、雑誌に発表される多くの研究は、長期的に見れば誤りであること。それらの研究に価値がないわけではなく、それを議論することで先に進むことにつながる。結局のところ、生命研究は「得体のしれないもの」に向き合っているわけで、進むべき方向がわかっているわけではないのだ。そうした意味で、個々の研究者・研究室の個々の成果というよりも、大きな流れとして生命医学の解明に向かっていくという視点が大切であることになる。研究法の研究のようなメタな視点もさらに重要になっていくだろう。
もう1つは、生命医学研究の進展を加速させるために、逆に、生物医学研究のペースを落とす必要があるのではないかという点。それにより、「量」よりも「質」を追求することが可能になるのではないか。
いずれも一朝一夕で達成されることではなく、おそらくは制度自体の改変も必要になってくるのだろうが、著者の論調はどこか明るさも感じさせる。それはこの問題に携わる多くの科学者たちが、問題に前向きに取り組もうとしていることによるのだろう。続きを読む投稿日:2019.10.23
医学生命科学における再現性の問題について、現場レベルの要因から研究者コミュニティの置かれた構造的要因まで幅広く分析した本。
膨大なインタビューや文献調査に基づき、再現性のなさの原因だけでなく、再現性を…向上させるための多様な施策についても紹介している。
「だから医学・生命科学はダメ」という内容ではなく、きちんと研究を人類の未来につなげるための可能性を高めるための本。続きを読む投稿日:2024.03.17
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