【感想】くにはちぶ（１）

女子中学生の主人公が、親や友人を含む全国民から無視される法律の対象者に選ばれて悲惨な生活を送る話。
作者はコマ割りが分かりやすいのと絵力があってなんとなく見入ってしまう魅力がある。ただ設定は惨憺たるも…のだけど・・・。

読み手としては、周囲からムシされる設定なら不法侵入し放題だし、店だって会計せず盗めばいいのにと当然思うけど、彼女はそんな抜け道を考えず、家の扉を開けてもらえずに外で凍えていたり、コンビニで会計できずに泣いて逃げたりする。
いわゆる”考えるのを止めて泣くだけの受け入れ型”だからイライラするんだろうな。

また、そんな主人公の姿勢が作品全体に波及している。
人間関係を抑えつける悪法に対して、国民全員が「よく分からないけど法だから受け入れる」という態度で、完全に思考停止。これは読者として、「この作者、シリアスな話を描くのに何も考えてないのかな」というシラケに繋がってしまった。
それを誤魔化しているのか、よくわからないけど何だか辛い話っぽくしているのはシュールさすら感じる。

まあ設定の酷さは造り手が一番感じているだろうから、余り責めても仕方ないけど。
この手の一発ネタは引き伸ばさず１，２巻に収めれば良作になると思うけど、もう５巻以上出ているんですね。
星１かなと思ったけど、絵力で星２にしました。続きを読む

無作為に選ばれた国民を1年間国中で無視しなければならない法律のある架空の日本。
設定がザルすぎるが、それに目を瞑れば不思議な魅力がある。

もうちょっと法の制定と仕組みについては設定を練った方が良かっ…た。
法の目的が「イジメ被害者の気持ちを加害者にも分からせ他者の心を思いやる」だが、その目的達成と方法が噛み合わない。
イジメ関係なく完全無作為抽出だし、1年間に1人とかコスパ悪すぎ。複数対象でもっと短い期間、特定の範囲における無視を繰り返すべきだろ。
しかも全国民の負担のために、顔写真垂れ流しって1年間経っても後々の影響でかすぎんよ。
大体顔写真あっても、コンビニ店員とかすぐその人が分かるとは限らないし、通行人もいちいち顔とか見ないでしょ。指名手配犯が早々に捕まらないように、対象者もそんな簡単に認識されないだろうし、法の執行が現実的でない。
無視によって日常生活もままならないし、中学高校は必然的に留年、中退などなってしまうし、対象者に過度の攻撃であって目的に関連しない。
この国における憲法上の権利とも整合性がとれているのか？
あと無作為抽出から無視開始までの期間ないのおかしいだろ。全国民協力なんだから、事前周知徹底のために、対象者発表から開始まで猶予期間ないとできないだろう。
裁判なしの実刑とあるが、裁判を受ける権利は保障されないのか。
前対象者はこの法律で殺されたようなものだが、遺族は国に賠償を求めないのか。違憲の主張をしないのだろうか。法律の批判は事後にも許されないのであれば益々おかしい。
こんなガバガバな法律なのに、与党だけでなく野党も拍手喝采とは現実感が全くない。
子どものみならず大人もおかしいと感じるのに、反対派が議員にいないとか不自然やろ。

この法律を全うなものとして描きたいなら、国が全てを管理するような独裁政権を据えるか、法律を必要とする背景事情(立法事実)をもっと丁寧に、しかも国民が法律を求めるように説得的に据えるべき。
そこが足らずに始まってるのはいささか残念です。

良いところは、主人公の傷つく表情が可愛いところと、「二日酔いの犬みたいな顔しやがって！！」ていう罵倒がなんか好きです。
最後のおじさんが無視対象者を助け、泣きながらお礼いわれてるの回想するシーンも切なくて好き。続きを読む