【感想】ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか――取材現場からの自己検証

危険地報道を考えるジャーナリストの会, 石丸次郎, 川上泰徳, 横田徹, 玉本英子, 及川仁, 内藤正彦, 高世仁, 綿井健陽, 高橋邦典, 土井敏邦 / 集英社新書
(5件のレビュー)

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  • つー

    つー

    戦場やテロ、災害地など危険な場所に自ら深くまで入り込み、最前線の実態を見続けるジャーナリスト達。日本でも稀にニュースで彼らが拘束されたり、殺害されると大きなニュースになる。一時期イスラム過激派に拘束されて殺害されたジャーナリストの報道では、多額の身代金が要求され、世論は自己責任で行う行為に、何故国民の血税で彼らを救わなければならないのか、といった風潮が沸き起こった。私も心のうちでは何処かそうした想いがあった様に記憶している。本書を読んで果たして同じ気持ちのままいる事ができるだろうか。
    世界各地で未だ止まない紛争や自然災害。誰もがその実態がどうなっているのか、今現場で人々がどの様な状況に陥っているか知りたがっている。大半は欧米メディアの伝える報道や、現地のテレビ、ニュースメディアの流す映像を、時には邦人カメラマンの撮った映像・写真などから想像している。それらは画像という意味では真実に限りなく近いであろうが、一緒に掲載される文章はそのまま真実として受け入れてしまって良いものだろうか。実際にイスラム世界が流す報道と欧米メディア、ロシアとウクライナでは同じ映像でも違った見方、表現で流しているのを、インターネットで繋がれた世界で同時に見ることができている。
    流す側、報道する側の立場によって、映像や写真は如何様にでも変わる。真実は自分の目で見て話を聞く以外に無いのが現実だ。危険地域に飛び込むジャーナリスト達は何を目的に死の危険を伴う現場を訪れるのか。歴史的な現場を収めれば確かに巨額の金にはなる。だがそれだけで死地に飛び込むことができるのだろうか。
    本書はそうした危険を犯しながらも、真実を伝えようとするジャーナリスト達の何故に迫る一冊だ。だが確かに本書すらも真実であるかはわからない。本の売れ行きにも利益がつきまとうからである。だが読み終わった瞬間に、彼らがそれぞれ様々な使命感やリアルな感情によって動かされていることを知る。表面に見えている映像だけでなく、その背景にある「構造」を知るために彼らは危険を顧みず現場にいる。そこに至るまでには国家権力との戦い、言葉の壁、現地の真の情報、ゲリラが構える武器、そして必要となる資金、様々な困難を乗り越えてようやく目にすることが出来ても、そこで命を落とす者も多い。
    それでも尚追い続ける姿勢には、感動や衝撃以上の何か特別な感情を抱く。自分には無い何かが彼らを支配し突き動かしているという事実。
    私にそこまでして相対する物事が、取り組む仕事があるだろうか。自分に対する疑問が湧き起こる中、いつしか彼らに対する尊敬の念すら起こっている。理由はどうあれ、彼らの生き方、考え方に触れて刺激を受ける事は無駄では無い。
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    投稿日:2023.09.01

  • 中尾

    中尾

    非常に難しい問題。戦場へ向かうジャーナリストの主張も分かるし、それを引き止める側も理解できる。リスクを冒した報道がなければ、「世界を見る目」は失われていくだろうし、世界情勢から目を背けてはならない点は大いに賛同。政府が必要以上に干渉や行動規制をかけることにはジャーナリズムの観点からも批判的であるべき。ただ現地での安全が十分に確保されているのかどうかも重要な点で、時に周りが止めることも必要になるとは思った。いずれにせよ、迷惑とか自己責任とかそんな簡単な言葉処理する問題ではないと認識。続きを読む

    投稿日:2022.03.04

  • farmertanaka

    farmertanaka

    日本では拘束等が報じられると自己責任論が前面に突出し、半面万一不幸にして亡くなれば、英雄視といったワンパターン報道になり、戦場に何故ジャーナリストが向かうのか、その戦場の現実はどうなっているかなどの本質論は捨て置かれている現状がある。
    10人のジャーナリストの生の体験と声を聴くことで、その心理をある程度理解することができる。
    ただ、拘束拉致された場合の国や住民側の対応についてはほとんど触れられていないので、その辺の本音も聴ければなお理解が深まったかもしれない。
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    投稿日:2016.03.13

  • rakuta

    rakuta

    10人のジャーナリストによる共著で、一貫性を持たせているというよりは、それぞれの体験や主張が展開されていて、各自のジャーナリストとしての個性が見える。
    ただ、内容的には不満が残る。著者の多くが、外務省による旅券返納命令事件を取り上げ、取材の自由の侵害や政府による都合の悪い情報の統制であると問題視している。また、その契機となった「後藤さん事件」に対するマスコミや世論の自己責任論やジャーナリストへの批判に違和感を表明している。確かに、そういう側面もあるのだろうが、「ジャーナリスト」特有の政府批判、批判をしてもあまり非難を受けるおそれのない主張に聞こえる。それよりも、こういう場面にあって、一般の読者が知りたいのは、リスクを侵して危険地域に入ったジャーナリストが拘束され、人質となって、身代金や日本の政策変更を要求されたときに、政府や国民がどうすべきか、どうしてほしいのかについて、ジャーナリスト側の意見ではないだろうか。人質を盾にした要求には一切応じないという国ならともかく、日本は、人の命は地球よりも重いとして、超法規的措置で犯罪者を釈放するような国だ。人質救出のために、大臣やら副大臣やらが現地入りし、また、政府の対応について一々国会で議論になったり政治問題化して、国全体にとってもっと重要な政策課題が停滞したりするコストまで考えれば、自己責任論が出てきてもおかしくないと思うのだが、そこで日本という国がどうすべきなのかについて、本書では誰も何も言っていない。そういうことに思いが至っていてないのか、それとも、これに関する主張をすることを逃げているのか。
    本書については、このような不満があるが、土井敏邦氏が、ジャーナリストは一種の生業で、真実を伝えたいという純粋な気持ちの一方で、スクープを取りたいという色気があるのも事実であると告白していることは高く評価したい。また、玉本英子氏の誠実なジャーナリストとしての姿勢も、「旬の現場」や特ダネを追って危険地域を駆け回る「戦場ジャーナリスト」とは異なり、地道な取組みに共感を覚えた。
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    投稿日:2016.01.24

  • 湖南文庫

    湖南文庫

    2015年年初にフリージャーナリストの後藤健二氏らがISに拘束・殺害されたことをきっかけに高まった、危険地域の取材・報道に否定的な世論に対し、危険地域報道を主たる仕事とする現役のジャーナリスト10名が、その意義や自らの体験、更に今後の在り方などを語ったもの。
    執筆者は、2014年にジャーナリストとして世界で初めてISの拠点ラッカを取材した(同時に、拘束されかけた)報道カメラマン・横田徹、世界的な映像ジャーナリスト・綿井健陽、フリージャーナリスト・土井敏邦、アジアプレス大阪オフィス代表・石丸次郎らである。
    まず、「なぜ、ジャーナリストが危険地域へ行く必要があるのか?」については、「(紛争における)ジャーナリズムの使命は、紛争当事者(国)の発表ではわからない、現地で起こっている真実を世界中の人々に伝えることである。それにより、当該紛争にどのように対応するべきかを、人々が客観的に判断する材料を提供することである」という主張で全員がほぼ一致する。
    そして、当然ながら次には、「なぜ、“日本人”ジャーナリストが行く必要があるのか?なぜ、世界的な巨大メディア(ロイター、AP、CNN、NYタイムズ等)の取材・報道ではダメなのか?」という疑問が湧いてくるが、これに対する答えは、いくつかに分れる。大勢は、「イラク戦争後の自衛隊のサマワでの活動のような事象は、他国のメディアで取り上げられることはほとんどなく、日本の関心事については日本のメディアが取材・報道することが必要」というものである。
    しかし、私が印象に残ったのは、もう一つの少数派の主張で、それは、世界各地で起こる戦争や大惨事も “日本人絡み”でないとメディアは詳細に伝えず、国民も関心を示さない日本の現状に問題を提起し、「日本人が他国の出来事を“同じ人間のこと”として捉えられるようにするために、日本のメディアが日本人に共感できる感覚・切り口で“同じ人間のこと”を伝えることが必要」というものである。私は常々、他国で起こった事故などの報道の際に、日本人の死傷者の有無を殊更に伝える日本のメディアに違和感を覚えており(もちろん、自分の知人が巻き込まれていないかを知る上で大事な情報ではあるが)、この主張には強く共感する。
    更に、ジャーナリストの取材中の死について、そのリスクをどのように引き受けるべきなのか、メディアはその事実をどのように報道するべきなのか、残ったジャーナリストはその事象をどのように検証してその後に活かすべきなのかなどについて、それぞれの執筆者が語っている。
    ジャーナリストのほかにも、本書でも取り上げられている国境なき医師団などの医療関係者、外務省スタッフ、インフラ関連企業・商社の社員など様々な人々が危険地域で活動する現在、日本人として為すべきことは何か、そのためにどのような対策をとり、どこまでのリスクを引き受けるのかを考えさせる一冊である。
    (2016年1月了)
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    投稿日:2016.01.11

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