【感想】隅田川のエジソン

坂口恭平 / 幻冬舎文庫
(32件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
7
9
9
2
0
  • 狩猟採集民としてのホームレス

    実在のホームレスをモデルに書かれた「小説」。主人公の硯木が著者に向かって語り聞かせているような文体でサクサク読める。

    ホームレスと言っても一般的なイメージとはだいぶ違う。硯木は、己の腕で己の生活を切り開く、いわば都市の狩猟採集民とでもいうべき生き方をしている。廃材やブルーシートで快適な家を建て、電化製品まで動かす。食生活も案外と豊か。社会の経済情勢にあわせて、ある時まではテレカを拾い、それがダメになるとアルミ缶を拾いして、わずかながら現金収入も得る。行政や一般市民とも、交わるか交わらないかの微妙な距離感で付き合っていく。

    こうした「都市型狩猟採集生活」については、著者がこの本より後に書いた『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』でより詳しく主張されている。しかし、『ゼロから・・・』よりむしろ小説形式のこちらの方がホームレスの辛い側面も率直に描かれる。結局は体力・気力・才覚、そして仲間がいないとやっていけないのである。誰にでも真似できるかと言えばそうではないだろう。もとより広くはないニッチに生きている人たちである。

    しかし、誰もがこんな生活ができるか否かは別として(ボクはたぶん無理)、本書の不思議な魅力は、生きる実感とでも言うべきものがホームレス生活の様子から伝わってくるところにある。単に束縛がないだけではない、決まりきった日常に薄ボンヤリと乗っかって生きるのではない、能動的な生き方なのだ。主人公たちの創意工夫には、子供の頃に読んで興奮したヴェルヌの『神秘の島』を髣髴とさせるものがある。
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    投稿日:2016.10.09

ブクログレビュー

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  • hito-koto

    hito-koto

    このレビューはネタバレを含みます

     墨田川の河川敷で暮らす路上生活者、硯木正一55歳の生きかたを描いた物語、小説というよりノンフィクションでしょうか。とても面白く一気に読了です。坂口恭平「隅田川のエジソン」、2012.3発行。東京は人間が一番あたたかい場所、東京には欲しいものがなんでも落ちている。

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    投稿日:2023.06.09

  • takty note

    takty note

    隅田川で暮らすホームレス男性の話。ホームレスと言っても只者ではなく、人と違うことする、人と違う発想をしようとする姿勢の重要性はどの世界にでも通用するのだと感じました。

    投稿日:2022.01.11

  • あるちゃん

    あるちゃん

    全財産の入った財布を盗まれそのまま路上生活者になった人の話。どうやら実話に基づくものらしい。この主人公のスーさん、悲観することもなく捨てられたものを再利用する楽しみを見出し、ブルーシートの家には電気も通るし、カラオケボックスまである始末。こんな生き方もあるんだなぁと人間のたくましさを感じさせてくれる。就職できずに自殺してしまう人もいれば路上生活を楽しむ人もいる…。ほんと人間って様々だなぁと思う。続きを読む

    投稿日:2021.02.08

  • ゆき

    ゆき

    ホームレスとして暮らす主人公・硯木と隅田川沿いのホームレス仲間たち。「ホームレス」と言ってしまうとイメージが良くないけれど、お金ではなく知恵と工夫で生き抜いていく姿に、生き物としての本来の暮らし方を考えさせられた。
    暮らしを楽しみ、ふわりと、しかし前向きでしなやかな生きていく――読んでいて楽しく、爽快な気持ちに。

    p250
    人間は、アイデアを使い、工夫し、方法を発明することで自分にとって必要な最小限の空間を発見することが出来る。さらに壁に囲まれた空間だけを家を感じるのではなく、脳味噌を使うことで、壁を通り抜けて広大な世界を自分の空間と体感出来る。
    硯木は無意識にこの極小と無限大の感覚を同時に持ち合わせていた。彼にとって、自分が路上生活者であるということは、今はもう消え去っていた。
    彼は自分のことを、住所も、コンクリート基礎でしっかり固められた家も持っていないが、地球という地面で生活する『ただの人間』であると考えていた。
    硯木にとって、それはとても自由な気持ちになれた。
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    投稿日:2020.09.12

  • yamasnowboarder

    yamasnowboarder

    今から20年以上前、舞台は1990年代後半の東京、主役の路上生活者が読み手を終始わくわくさせてくれる物語であった。著者は東京の路上生活者を取材した「TOKYO 0円ハウス 0円生活」という本を書いており、その取材ネタを元に小説に落とし込んでいるので準ノンフィクション的な小説である。

    僕自身、出世しないタイプというか、宝探しや小さなリサイクルや小屋建てや青空宴会が大好きであって読んでてずっとわくわくだった。またこれは小説の要素だと思うけどクロやモチヅキさんのようなひたすらに利他的な仲間がすごくいいなあと思った。

    テレカ、モーニング娘。、時代を感じる一方、あの頃は今より絶対息苦しくない緩い時間で生きてたなあと。インターネットは膨大な知識とコンテンツを人に還元した代わりに、過剰な生産貨幣社会も生み出し、時間と心にゆとりが無くなったきたのは間違いないと思う。
    あと寝れなくする目的で設置してるベンチ中央の手すりとか花壇、いつもながら見るたびに酷いよなあって思います。
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    投稿日:2020.05.17

  • なな

    なな

    このレビューはネタバレを含みます

    隅田川に暮らすホームレスの生活を舞台にした小説。東京にはこれだけゴミがあったんだなあと思う。建築学科卒の作者だけあって、やっぱり、「家」についての知識がすごい。

    建物としての家と、そのなかに展開されるホームとしての家。ハードとソフトのどちらについても考えさせらる内容だった。

    もちろん、人の暮らしはどんな家にすむか、というハードに左右されるところがあって、どんな家にすみたいか、というのはその人の哲学が反映されるところでもある。家とは、中であって外でもあるんだなと思う。今までなかった「家」ができてくるのは、新しい哲学の誕生なのかも。ていうか、ホームレスってすごく原始的というか古いものだと思ってたけど、もしかして新しいもの?ちょっとそこらへんまた調べてみたい。

    主人公が都会のサバイバルさながら、廃材や家電製品、いらないものを拾ってきて路上生活をする。モノであふれかえる生活の裏目をかいている、しかしそんな都市生活にどこか息苦しさを感じているからこそ、あまりにも都合のいいことばかり起きてないか、と思うが、すごくうらやましくもある。

    アパートを借りると、働かなくてはいけなくなる、という文章にもインパクトがある。働いてるからアパートを借りられるのではなくて。そんな見方もはっとさせられる。

    とくに、一番最初の河原?で主人公が目覚めて、気持ちいいなー!地面と近いっていいなーってなる場面、夜中近い本屋で目をしょぼつかせながらこの本を読んでいて、猛烈に羨ましくなった。本捨ててもうこの生活をやめたくなった。最初は、もっとシンプルに暮らしたいって思って、それで仕事をやめたはずなのに。
    なかなか、この都市生活から抜けるのは容易じゃない。ここまで思いきれたらと思うのに。毎日飲んで遊んでのんびり過ごす。それだけが叶えられれば、私たちは幸せなはずなのに。

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    投稿日:2020.01.23

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