【感想】国家と秘密 隠される公文書

久保亨, 瀬畑源 / 集英社新書
(12件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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  • 情報公開という点で日本は後進国だ、と主張している本

    情報公開の基盤ともいえる情報公開法、公文書管理法がようやく制定されて運用が始まったところだったのに、特定秘密保護法なんかを作ったのはけしからん、と、そんな内容です。
    残念ながら面白いとは言えない本です(堅苦しい部類の本です)が、1回休憩挟んだだけで読み切ったので、この手の本としては読みやすい部類なのかなと思います。
    印象に残った点をいくつか挙げます。

    <知識は無知を永遠に支配する>
     情報がいきわたっていない、あるいは入手する手段のない『人民の政府』なる存在は、笑劇か悲劇の序章か、あるいはその両方以外のなにものでもない。知識は無知を永遠に支配する。だから、自ら統治者となろうとする人々は、知識が与える力で自らを武装しなければならない。
      ジェームス・マディソン アメリカ合衆国第4代大統領 
       本文第2章より引用

    <公文書管理法の制定に尽力したのは福田元総理だった>
     福田元総理と言うと、国会で「(自分が)かわいそうなくらい苦労しているんです!」と答弁したり、「私はね、自分を客観的に見ることができるんです、あなたとは違うんです!」と言って1年で辞任したりした、というイメージが強すぎて、お世辞にも名宰相とは言えないと思っていましたが、いい仕事もしていたのですね。ちょっとだけ福田元総理に対するイメージが変わりました。

    <(公文書は)国民共有の知的資産>
     これは公文書管理法にある文言です。
     「公文書」だとちょっと実感が湧かないですが、例えば他の人がやっていた仕事を引き継いだ時に、経緯などがきちんと文書化されているのといないのとでは、引き継ぎ後の作業効率に雲泥の差があります。という実体験を踏まえて、この文言には大いに賛同したいです。日本のお役所の場合、決定事項として残っている公文書はあれど、そこに至る経緯などが記載された文書はあまり残っていないというたいへん残念な状況だそうで(実務に携わっていない人が知りたい情報は、結果より経緯であることが多い)、ここは今後に期待したいところです。

    <官僚は秘密にしたがる>
     官僚の性として、自分が取ってきた情報は重要だと言いたいので、機密にしたくなる。また機密にすべき情報を公開してしまうと罪に問われるが、公開して問題ない情報を機密にしても罪には問われないので、不要なものまで機密扱いにする傾向に拍車がかかる。らしいです。
     官僚、つまり行政側にそういう傾向があるなら、立法府が法律でこれに対して歯止めをかけないといけないと思うのですが、立法府が作ったのは特定機密保護法なのですね・・・。
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    投稿日:2015.08.16

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  • つー

    つー

    会社で仕事に従事したり、社会の中で生活するにあたり、日常的に多くの情報に接している。自分や家族の個人情報、会社にある営業機密や顧客情報、社員の人事情報など、データの形で保管されているものから、紙の契約書など、周囲は情報で溢れかえっている。国家運営レベルならさらに多くの情報を抱えているだろうし、自治体の公務員や行政に仕える官僚であれば、制度制定の過程を含めた情報量は途轍もない量に上ると思われる。最近は会社でも紙の削減やら経費削減で、何でもかんでもデータ化する傾向があり、尚且つ、検索スピードを維持するために無駄にデータ量を増やさないよう社員は涙ぐましい努力をしている。際たるものは文書情報一つ一つに保管期間を定め、期限経過後に削除していくものだろう。しかしながらこれもいつか使うのでは、という削除に対する恐怖から、わざわざテープに移して大型の倉庫に行った時点で永久に日の目を見ず、消えることの無い核燃料ゴミみたいになる。これは消せないパターンだが、世の中には知られたく無い情報をすぐに消してしまう文化もある。政治や外交、国防に関する検討過程などの情報がそれらに該当する。よく政治家がその情報はすでに廃棄されてます、といった答弁をする様な類いだ。国の運営に関わる重要文書がそうやって好き勝手に削除されていく。
    本書は問題が制度にある事は勿論、それを利用する側や体制に問題があるとする。制度については日本で文書を保管する明確なルールが整備されたのは諸外国に比べて遅く、保管がイマイチだから開示請求しても存在しない状況が生まれてしまう。一方で制度があっても運営していく体制が少なすぎるから、一つ一つ情報を精査して管理するなど出来ようがない。また保管のルールができると今度は特定秘密保持の法制度化で、見たい情報が次々と秘匿されていくという、情報に関して八方塞がりの状況になっている。
    よってこれを解決するにはその逆をやるしか無い。文書を必ず残すルールのもと、しっかりデータ化して分類し、情報を適切な範囲で共有可能とし、必要に応じてすぐに取り出せる様にする。システムの世界ではDKIWと表現される、(data,knowledge,information,wisdom)の世界観だ。重要なのは適切なアクセス権の設定と取り出しのスピードである。ただしシステムの世界でも厳格な管理運用を行うには相応のチェック体制が必要だ。体制がなければ適当な管理しかされずにただのゴミ溜めと化してしまう。
    保存・管理・開示は一部が欠けると情報の価値が下がると言っても過言では無い。
    本書を読みながら、制度も管理も開示も全てが不十分な実態を目にするが、多くの企業も似たような状況にあると思う。海外はわからないが、少なくとも日本人は情報の扱いが下手くそなだけでなく、情報の活用も苦手なのだと思う。
    近年、世界情勢が刻一刻と目まぐるしく変わり、国家間の機密情報の交換なども国の運営に於いて非常に重要度を増している。アメリカのCIAやイギリスのMI6などまるでスパイ映画の世界に感じるが、日本でもそれに類する機関はあるものの、本当に重要な情報のやり取りができるのであろうか。情報に対する意識が低く、管理もままならない国に真面目に収集管理する各国が本当に重要な情報を開示するとは思えない。また交換に値する情報をこちらが提供できるかも謎だ。
    本書を読んでそうした不安は益々大きくなるばかり。まずはウチの会社大丈夫?という不安ばかりが頭をよぎる。
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    投稿日:2023.05.15

  • のり

    のり

    情報を隠し続けて責任を曖昧にする国家の論理。この「無責任の体系」を可能にするものは何か?本書はその原因が情報公開と公文書の管理体制の不備にあることをわかりやすく説明する。(2014年刊)
    ・序 章  もともと秘密だらけの公文書
    ・第一章  捨てられる公文書
    ・第二章  情報公開法と公文書管理法の制定
    ・第三章  現代日本の公文書管理の実態と問題点
    ・第四章  公文書館の国際比較
    ・第五章  特定秘密法と公文書管理
    ・おわりに 公文書と共に消されていく行政の責任と歴史の真相

    重要な内容であるが、すんなりと読める。掘り下げに物足りなさを感じるが、2014年の刊行時に比べ、事態(公文書の管理や情報公開のあり方)が悪化しているからであろう。「由らしむべし知らしめるべからず」と言うが、昨今の状況を考えると、国民の側にも、知る権利を守る意識が足りないのではないかと感じる。
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    投稿日:2018.06.10

  • masanori25

    masanori25

    日本の公文書管理の現状、隠ぺい体質といったものがよくわかる入門書。さもありなんという状況がこれでもか、というくらい書かれている。

    投稿日:2018.04.03

  • minusion

    minusion

    佐川元理財局長が公文書改竄をしたとして日本全国問題になっている今、遅れながらも特定秘密保護法や情報公開法、公文書管理法がどのような過程で成立したか大きな流れが理解できた。
    役人たちが作成してきた公文書を保存しておく習慣がない日本は世界でも遅れているようで、公文書管理法や情報公開法が成立したのも21世紀に入ってからだということを聞いて驚いた。
    しかもせっかく成立したこれらの法案に逆行するかのように作られた特定秘密保護法のことも紹介されていて勉強になった。
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    投稿日:2018.03.22

  • sasha89

    sasha89

    数年前、某国営放送で白洲次郎の生涯を追ったドラマが放映された。
    冒頭、晩年の次郎が手紙や文書を燃やすシーンがある。火にくべる
    文書には「極秘」の文字。

    妻・正子の独白で語られるシーンなのだが、そこで正子は歴史的に
    価値のある文書でも燃やすのが次郎の流儀だと語っていた。

    どんな流儀だか知らんがな、それ、あんたの私物じゃないからな。
    国の文書は国民の財産だ。勝手に燃やすな、次郎。ドラマながら
    画面に突っ込んでいた。

    白洲次郎を例に取ったが、重要であろう文書を処分したのは彼だけ
    ではない。官庁ぐるみどころか、政府が率先して知られたらまずい
    文書を勝手に処分して来たんだよね、日本って。

    それはGHQの上陸直前出会ったり、情報公開法施行直前であったり。
    誰も責任を取らなくていいように、責任の所在がはっきるするような
    形跡がある文書はことごとく処分されて来た。

    「国民の知る権利だと?そんなもん、ないわ」ってくらいにこの国は
    情報公開後進国である。それなのに、特定秘密保護法の施行で
    ますます国民の知る権利は限定されるようになる。

    本書は特定秘密保護法の施行から改めて日本における情報公開と
    公文書管理の歴史と問題点を分かりやすく解説している。

    文書管理にしても情報公開にしても、本当に日本は後進国なんだよ
    な。本書では欧米のみならず、中国や韓国、ヴェトナム等の文書管理
    と公文書館の成立過程が紹介されている。他国に比べ、日本がいか
    に公文書の管理・公開の手法が遅れているかを実感する。

    私は特定秘密保護法の施行に危険性を感じるのだが、すべての文書
    を公開しろとは思っていない。外交や防衛など、トップシークレット扱い
    の文書は勿論非公開でもいいと思う。ただし、一定の保管を過ぎての
    公開はして欲しいが。

    しかし、特定秘密保護法はあまりにも曖昧すぎる。そもそも公開されて
    いない文書が多い日本で、「あれも秘密、これも秘密」にして情報を
    出さない手段として使われるんじゃないか。

    知らせない・隠す・処分する。国民の知る権利の範囲はこれまで以上に
    狭くなるのじゃないだろうか。

    「日本にない文書はアメリカの公文書館で探せ」ってなっちゃうよ。実際、
    その方が見つかる確率が高いようだけど。

    情報公開制度の初心者でも無理なく読める良書だ。巻末には特定秘密
    保護法と情報公開法が掲載されている。これは手元に残しておきたい
    作品である。
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    投稿日:2017.08.22

  • 澤田拓也

    澤田拓也

    このレビューはネタバレを含みます

    本書は二名の歴史学者によって書かれたものである。「特定秘密保護法」の制定過程をきっかけとして啓蒙をその目的として書かれたものと想定するが、それ以前の日本における公文書管理の不備の方に目が行くものになっている。特定秘密保護法がどうのという前に、情報公開と公文書保護は、両輪として働かないといけないものだが、そこを整備していかないといけないのだなと理解。今後は、コスト面も含めて電子化がキーになるはずだ。公文書館の各国のスペースが比較されている表があったが、これまでの文書管理では意味があったが、今後は過去の文書保存の意味を除いて公文書館の広さは意味がないものになるだろう。

    本書では、第一章で戦争直後に公文書を廃棄する日本の組織の傾向性が問題にされ、続く第二章で情報公開法と公文書管理法に触れられる。第三章では、その問題点を指摘し、第四章でそれを踏まえた上での公文書管理の国際比較が行われ、日本の後進性が示される。その上で、最後の第五章で特定秘密保護法について言及される、という構成になっている。

    例えば30年後、自分が生きているうちにその内容が公開されるかもしれない、という前提で仕事をするというのはきっとその人にとってもよいことなんだろう。もちろん、そのために文書作成に手心を加えるというようなことがあってはならないのだけれども。

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    投稿日:2015.08.29

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