【感想】チャタレー夫人の恋人

D・H・ロレンス, 木村政則 / 光文社古典新訳文庫
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
4
1
3
0
0
  • 従来のイメージとは……?

    もともと「従来のイメージ」というものがなかったので、
    「従来のイメージ」を覆すと言われてもちょっとピンとこなかったのですが……。

    チャタレー裁判とか、そういったイメージは確かにあり、世間的に「卑猥な」イメージがあるのでしょうか。全く、卑猥さなど感じませんでした。それどころか「生きる」ということにとても真摯な作品だと思います。コニーがなぜ、メラーズに魅かれたのか。そしてそれを周囲の人間がどう受け止めたのか。読み進めていくうちに、とても新しく、第二次世界大戦より前の時代、ましてやこれが「古典」だとは思えませんでした。
    中盤以降、読み進めるのが本当に惜しく、けれどやめることができず、苦しくなるほどでした。
    そして、最後の手紙。

    人間という存在をここまで描き切ることができる小説の素晴らしさに、
    ただただ、脱帽です。

    生きているというこては、本当に素晴らしい。この作品を読んでそう思いました。
    続きを読む

    投稿日:2017.02.20

ブクログレビュー

"powered by"

  • マリモ

    マリモ

    いつか読みたいと思っていたよ!
    あの、最後死んじゃうやつね…!と思ってたら違った。夫人違いだった。(なんのネタバレよ)
    原題は"LADY CHATTERLEY'S LOVER"、初出は1928年。木村政則訳。
    最初に訳者まえがきがあることで、だいぶとっつきやすくなっていると思う。個人的にはメラーズの訛りはもっと方言ぽくてもいいと思うけれど、このへんは翻訳の限界ともいえそう。

    舞台は第一次世界大戦後のイギリス。
    准男爵夫人であるコニー(チャタレー夫人)は、若くして結婚するも、夫が戦争で下半身不随となり、性生活を営めなくなる。子供が欲しいと思いながらも夫の世話をする喜びのない日々を送っていた。
    そんなときコニーは、屋敷の森番メラーズに心を奪われ、秘密の逢瀬を重ねるようになる…。

    本作は100年もの間、世間をざわつかせてきた作品である。1928年に作者が不謹慎承知で、私家版として出版し、酷評もされつつ、一部では人気を博する。
    イギリスで無削除版(という言い方が既にエロい)が公刊されたのは1959年。猥褻文書として告訴されるも、結果は無罪となる。
    日本で初めて無削除版が出たのはそれに先立つ1950年。当局からは発禁処分を受け、出版社と訳者がわいせつ文書頒布罪で起訴され、有罪が確定する。これが、かの有名な『チャタレー事件』である。言論の自由とは、わいせつとは何かということが、何人もの著名人が出廷して証言し、法廷で真面目に論じられたのである。
    一度は絶版という憂き目にあった完訳だが、社会通念の変化という(猥褻に寛容になった?)世の流れや、本国イギリスでの無罪も受けて、現在は完訳が普通に流通している。 

    急に濡れ場になっていたり(ぼんやり読んでたら、「はっ、何、もう始まってる!」と驚く)、コニーが性の悦びにふけり、やたらと子宮に注意を向けたりするし、セックス前後の男根の有様がリアルに描写されたりするもんで、なるほど、こりゃ1950年代なら『猥褻文書頒布』とか言う奴いるんだろうなと少し納得もする。(今では考えられないけど)
    いや、でも面白かったです。確かに男女の性愛を描いているのだけど、主題の描写に必須だっただけで、殊更にエロを描こうとしてるんじゃないよね。読めばそれはわかる。夫も妻も、どこかしら、身につまされることがあるのではないかな。
    やはり良きも悪きも、話題になるロングセラー作品には、普遍性が感じられる。
    小説は読んで面白いと感じられるかどうかで、わいせつかどうかなんかを考える前に、純粋に作品として楽しんでほしいなと思う。たぶんロレンスもそう思っていたはず。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.27

  • tom555

    tom555

    このレビューはネタバレを含みます

    準男爵で戦争で下半身不随となった夫とラグビーに住む妻のコニ―。夫の世話で一生を終えるはずが屋敷の森番メラーズと出会い逢瀬を重ね階級を越え結婚を誓う。初対面は最悪、会話も続かなくても身体を通して語り合い解放されていく。しかし立場と世間の眼を克服した先に幸せがあったのかはわからない。人生は短いようで長いから。ただ、二人のような濃厚な時間を若くて綺麗な時期に持てるっていいなぁ。生きてるって感じがとても伝わってきた。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.12.29

  • 鴨田

    鴨田

    同時に読み始めて、永井荷風の「四畳半襖の下張」から9日遅れで読み終えた。芸術か猥褻か、の判例で有名な作品だが、猥褻さはほぼ感じない。ベッドシーンはせいぜい数%程度か。(猥褻さは、村山由佳さんの「ダブルファンタジー」の方が十倍位えげつない。)

    内容は、純愛小説のような、昼ドラ小説のような。身も蓋もない言い方をすると、体の相性が妙に良い39歳の森番と20代の若奥様がセックスに嵌る、というお話。妻は世間体を気にしながらも最後は夫に告白し、夫は人格が崩壊する。

    純愛といえば純愛なのだろうが、恋愛のスイッチはどこにあるのかも分からなければ、いつオンになるのかも分からない以上、出会い頭の衝突事故のようでもある。

    主人公2人のうち、コニー(女)の方は現代的で魅力的だが、メラーズ(男)の方は正直行けすかない。身分差はともかく、夫が荒れたのは分からないでもない。。

    100年近く前の作品としては、新訳のおかげか随分読みやすかった。

    続きを読む

    投稿日:2023.11.28

  • 一条浩司(ダギナ)

    一条浩司(ダギナ)

    これは予想外!官能小説かと思っていたら、淫靡さよりも崇高さを感じさせる社会派。エロいっちゃエロいが(笑)。

    近代化により失われていく人間性や生命力を見つめ、その本源的な回復を性愛に託して表現したというところだろうか。けっして単純に「わいせつ」という言葉だけで片付けられる内容ではない。約1世紀を経た現代にも通じる文明社会批判と、性を通じてスピリチュアルな高みにまでのぼる思想性が際立つ。

    発禁や裁判などで有名な本作。過激な性描写と背徳感に満ちた世界観を予想していたのだが……。良い意味で裏切られた感と、その清々しい感動に今、他の翻訳も読みたくなっている。

    こんな時代だからこそ、希望を胸に秘めて、本物の人生を生きろと語るメラーズはエロゲの主人公のようにカッコいい。
    続きを読む

    投稿日:2022.06.25

  • そうそう

    そうそう

    本作を読んでいると、SNSには「成功という雌犬に腰を振る」ヤツばかりいるように思えたし、私自身も「ゴムとプラチナ」で出来てるヤツに思えてきて仕方がなかった。坑夫たちが鉱山に宿る霊ならば、コニーとメラーズは森に宿る霊だろう。やがて破壊される運命の森の霊。いつまで守れるかわからないけど、たとえ短いあいだであっても名もなき神に守られてほしい。柔らかく温かい二人の肉体は、森に咲く花々のように美しいけど、はかなく脆い。コニーとメラーズの心の揺らぎも、魅力的だ。生身の人間らしく、恐怖や不安に揺らぐ意識は、香水やスパイスのように、美しく、魅力的に描かれている。常に一貫性を保つブレない意識など、ありはしない。意識の揺らぎは、甲殻類的人間(外側が堅い甲羅で、肝心の中身が溶けている人間)ではない証左だろう。沢山の「ハイライト」をKindleに引いた。記憶に残したいフレーズが沢山あったからだ。主人公達以外の人物も、興味深く描かれていて、会話部分もお洒落である。続きを読む

    投稿日:2021.03.18

  • なな

    なな

    クリフォード・チャタレーの妻コニーは、“男と恋に落ちるには、まず言葉で親密な関係を築く必要(p21)”がありました。そのため、性生活をあまり重視しないクリフォードとの、“性を超え、男の性的な満足感も超えた自分たちの間柄に”、“多少の誇らしい喜びを覚え(p31)”ていました。

    “ただコニーはどうしても子供が欲しいと思った(p31)”のですが、クリフォードが戦地から送り返されてきたとき、ずたずたの状態で、一命は取り留めたものの、体の下半分、つまり腰から下が永久に麻痺したままとなってしまいました。

    いつしかコニーには、“自分を犠牲にし、クリフォードに一生を捧げてどうなるというのか(p151)”という“反抗心”がくすぶります。そして、森番のメラーズに恋をします。

    裏表紙には“地位や立場を超えた愛に希望を見つけようとする男女を描いた至高の恋愛小説”と書いてあります。確かに二人の地位は異なっており、それでも関係なく惹かれ合う恋愛でした。

    しかし、読んでいて二人はいつか別れるのではないかと思っていました。メラーズが妻バーサ・クーツとなかなか手を切れずにいて、彼女が下品な話を触れまわっているとコニーが知ったとき、“遠方に来ている自分までもが汚辱にまみれようとしている”と、“メラーズに怒りを覚え”(p550)ています。また、コニーが「赤ちゃんができたの(p572)」とメラーズに言ったとき、メラーズの顔からは、いっさいの表情が消えます。コニーが「うれしいと言ってちょうだい(p572)」と言っても、メラーズは言ってくれません。

    それでも、最後のメラーズからコニーへの手紙は、美しく、愛している気持ちと、希望を感じることができました。
    続きを読む

    投稿日:2017.07.17

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。