【感想】トーマの心臓

萩尾望都 / Sho-Comi
(240件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
137
51
22
2
1
  • 何度読んでも

    子供の頃に読み、何十ねんぶりかで読み直しましたが、何度読んでも感動します。最近は、欧州の男子寮を舞台にした作品ってあるのかなあ。あこがれです。

    投稿日:2015.04.01

  • あなたが愛すれば、誰もそれを止めたりはしない

    「11人いる!」や「ポーの一族」と並ぶ、萩尾望都さん初期の代表作です。
    閉鎖的な寄宿舎学校を舞台に、愛に関するいくつもの謎が提示されます。与える愛、見守る愛、待ち続ける愛、追いかける愛、選び取る愛…。あなたが読み終えたときには、いくつの謎が解けているでしょうか。

    (1)「心臓」に邪念なし
    物語は、トーマという少年が、雪道を歩いていくシーンから始まります。冒頭ページの素晴らしいこと!優れた物語は、世界に足の先をつけていなければなりません。わずか数行で、読者の心も今いる場所を離れ、トーマのいるノルトバーデン地方の街角に立たされる。名描写です。

    トーマの死の知らせと同時に、主人公ユリスモール(ユーリ)に彼の手紙が届き、最初の謎が現れます。なぜ、トーマは衝撃的な手段をとったのか。
    初め、この贈り物は爆弾のように炸裂し、ユーリは、自分を支配しようとする策略と誤解します。これは防御反応です。自分を恐れ、好きだという感情を、自分自身からも隠しているユーリ。その原因と背景は、物語が進むにつれて明らかになります。

    不思議なことに、全身に血液を送り出す心臓は、愛する人にも直接つながる臓器です。手の届かない所にいる人の身を案ずるときに、胸の奥が締め上げられる、おなじみの感覚。心臓が相手のところに飛んでいき、自分の胸にはないかのようです。
    トーマは、「人を愛する資格がない」と思い込んでいるユーリに、自分の翼を与えようとします。そのとき差し出すものを「心臓」と表現したのは、自然なことなのかもしれません。

    (2)オスカーとエーリク
    ユーリには、近くで見守る二人の友人がいます。
    一人は、「番人」であるオスカー。ユーリのために細やかに心を配りつつ、それを容易に悟らせない、複雑な人物です(彼の美しい母親を巡る厄介な家庭の事情については、「訪問者」という別な作品で詳しく語られます)。
    年長らしく分別があり、信頼がおけるイイ男です。
    しかしユーリとの関係では、理解の深さゆえに手を出せないジレンマに悩んでいます。一気に突撃したトーマやエーリクが、ユーリに変化を起こすことに成功していることに、悔しい思いもある様子。保護者的立場は、対等・協力の関係を結ぶ妨げにもなるのです。

    もう一人は、転入生のエーリク。甘えん坊ですが、孤高の優等生であるユーリが、実は「まるでわかってない」空っぽの存在だと見抜くなど、なかなかの慧眼の持ち主です。
    トーマの始めた仕事を彼が引き継ぎ、ユーリが自ら人生の扉を開く勇気を与えることになります。望んだものとは異なる結末となりますが、これもまた、他人を愛するということの面白いところですね。

    (3)ユーリの魅力
    オスカーに「頭のいいやつ」「たいへんな感情派」「気が小さい」と評されるユーリ。優等生の役割演技に逃避していますが、皆に好かれ、気にかけられています。
    その魅力の源は、優しさでしょう。本当は、ユーリは人を愛している。それを自分で認めることができずに苦しむ姿が、助けてあげたいと思わせるのです。
    その背景には、人種差別や暴力など、本人の努力では解消できない問題もあります。この辺りの設定の巧みさも、本作に、単なるお花畑の恋愛模様とは異なる、リアルな骨格を与えています。

    物語後半では、トーマ本人が書いたラブレターが発見され、これが登場人物たちにとっての「正解発表」となっています。ラストで、この手紙を読むユーリの表情が良いですね。
    図書館で、想い人が借りた本を追いかけて読んでいくトーマ。相手を問い詰めるのではなく、本を追うことで内面を知るという手は、優れた着眼。よく見つけましたね(相手が読書家でないと成り立たないですが…)。
    その思いを記した手紙が本に挟まれ、発見され、最後にユーリに届けられるという流れの美しさ。トーマの想いが、エゴではなく、ユーリを大切に思う他の人々にも響くものだからこそ、手から手へと渡されていったのでしょう。これこそ、「心臓」ならではの働きといえるのではないかと思います。

    命を投げ出す激しい愛が、いかに細やかな観察と、深い理解と共感とにより生み出されたか。物語の見事な構成により、不思議な愛の本質に導かれてゆきます。
    世代を超えて読み継がれるのも納得の傑作です。ぜひ手に取って、ユーリたちと共に、謎を解いてみてください。
    続きを読む

    投稿日:2018.08.16

ブクログレビュー

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  • brazil-log

    brazil-log

    近所の古本屋さんに出てきた通知をみてまた読みたくなって速攻で買いに行った。この内容がこの表現で70年代に出てきたんだよな…行間がものすごく多い。ストーリーもだけど情景や心理描写なんかももう文芸、純文。久々に読んで、大昔に読んだときはたいして読み取れてなかったなと思った続きを読む

    投稿日:2024.01.06

  • レオナ

    レオナ

    このレビューはネタバレを含みます

    神様みたいな本だった。

    なにかを愛することってどうしても自己愛の裏返しになってしまうけど、トーマの愛は違う。
    冒頭の彼の遺書が、本編を読む前と後とでこんなにも意味合いが変わってくるとは思わなかった。
    「彼はぼくを死んでも忘れない」ということ、「彼の目の上にぼくがずっと生きている」ということ、そのおかげでユーリはこれからどれだけ心安らかに生きていけるか、トーマは全部分かったうえで彼に翼を捧げたんだ。

    代わりのいない人間なんていないってずっと思ってた。
    確かに「物質」的にいえば人間の代わりなんていくらでもいるかもしれない。私と似た顔、似た声、きっといくらでもいる。
    唯一代わりのきかないものは「思い」なんだ。
    オスカーにしか、エーリクにしか、ユーリにしか、そしてトーマにしか抱けない思いの形があって、その思いが人に向うことで、その人でしか満たされない「思い」がまた生まれていく。そうやって人はゆっくりと自分が存在する意味をみつけていくんじゃないかと思う。

    真実の愛なんて存在しないってここ最近ずっと思ってたけど、すくなくともここには、この本の中だけにはあった。
    現実にもあってくれ〜

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.12.09

  • tomomin♡

    tomomin♡

    〝愛は死をはらむ〟
    愛というものを知っている人間はどれくらいいるのだろう?

    愛には距離感が大切だと思う。
    遠すぎては愛がわからないし、近づきすぎると愛は別なものに形を変える…気がする。

    でも、この本で描かれている愛はちょっと違うと思う。きっと読むたびに答えが違うのだろうな…
    愛について考えたい時、何度でも読み返そう。
    続きを読む

    投稿日:2023.07.30

  • 眞冬

    眞冬

    友人からの薦めで読みました
    萩尾望都作品を読むのは、二作目です。
    トーマの死の意味にようやく気がついたとき、雲間から光がさすような、暗く長いトンネルから抜けたような、柔らかでいて強烈な衝撃でした。
    して私は冒頭のページを開き直しました。続きを読む

    投稿日:2023.05.06

  • pokopoko0713

    pokopoko0713

    萩尾作品の有名な「トーマの心臓」。
    なんかよくわかんないけど、「すごい」ということだけは理解できる。
    哲学的というか、なんというか。
    言葉に上手くできないけど、心にとても印象を残す作品だった。
    モヤモヤした感じと晴れ上がったような気持ちとか交錯して変な感じ。
    どなたかの感想で「サイフリートは創世記でいう蛇のような存在」のコメントになんとなく腑に落ちた感じだった。
    続きを読む

    投稿日:2023.02.24

  • 魚雷屋阿須倫

    魚雷屋阿須倫

     あまりにも有名な萩尾望都氏の初期の傑作。最近、長山靖生著「萩尾がいる」を読んだので、図書館で借りて何十年ぶりかで再読してみた。

     自分も歳をとり、それなりの人生経験を重ねてきた。そこでこの作品を読み返すと、いろいろな解釈ができるのことに気付いた。単なるBLの本ではないと感じる。

     これを小説で描いていたら、きっと芥川賞をとっていたかもしれない。他の人が書いたものがありますけど(未読です)。

     あと、歳のせいで文庫版コミックは絵も文字も小さく、読み続けるのが辛くなってきた。
    続きを読む

    投稿日:2022.08.23

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