【感想】経済物理学(エコノフィジックス)の発見

高安秀樹 / 光文社新書
(34件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
4
13
10
2
1
  • 経済物理学という新しい分野への情熱と興奮が伝わってくる

    書きっぷりは冷静なのだが、経済物理学という新しい分野の学問に対する情熱と興奮が伝わってくるようだ。アダムスミス以来の、需要と供給のバランスによって価格が安定するという経済学の理論は覆された。金融工学も結局は単純な線形で現実の事象にアプローチするものであり、市場でたまにおとずれる価格の大変動には無力だ。古典的で素朴な経済学はカオスやフラクタルのような物理学的手法に取って代わられるのか?著者とともに知的興奮を味わえる一冊であった。ただし、後半の著者のそうなればいいな的な私見に過ぎないところは蛇足であるように感じた。続きを読む

    投稿日:2014.10.05

ブクログレビュー

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  • japapizza

    japapizza

    最近書かれた本だと思ったら、出版されたのは2004年だった。意外と古い本でびっくり。でも当時読んでも全く理解できなかっただろう。今までの経済学の前提がことごとく覆されていて、非常に興味深かった。べき分布とかフラクタルとか、わかりにくいテーマについてわかりやすく書かれており、このテーマの入門書としては良書だと思った。
    このテーマはこれからのビジネスや経済を考えていくうえで、主流になっていくこと間違いないと感じた。2004年当時でもここ10年くらいのテーマだというから、最近もっと良書が出ているに違いない。関連図書をぜひ読んでいきたい。
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    投稿日:2018.10.08

  • reinou

    reinou

    このレビューはネタバレを含みます

    2004年刊。著者は㈱ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。市場は自由になればなるほどカオス。ゆえに複雑系の議論が妥当。本書は、カオスを叙述する物理学の発想から市場や経済現象を解き明かそうとする。備忘録。①正規分布に近似させようとする金融工学と、現実を直視したベキ分布(平均値や偏差が0や∞となってしまう)を前提とする経済物理学とは似て非なるもの。②95%占有の小さな揺らぎはほぼ影響なく、影響大な大きなゆらぎによるリスクを過小評価すべきでない。③70年代以降、土地価格と企業所得の変遷が酷似。
    一方、土地以外の物価が安定。土地価格を価値の物差しとすれば物価安。70年代以降の経済成長は実は土地価格の高騰と土地以外の物の相対的低価現象に依拠するだけで、実を伴わない可能性あり。④1兆円等の巨額の金員は交換・尺度・保存の貨幣機能から乖離し、増殖機能のみ(保存機能は個人的には?)。⑤(本論と関係ないが)科学とその進展はその失敗が反面教師であり、成功への道筋における無駄な選択を除去する。科学の底力は失敗を大切にすることにある。
    LTCМの破綻が金融工学の限界を露呈しているのは理であるが、それをさらに複雑系の議論が超克している可能性を感得できる。とはいえ、その一方、市場の流れや価格を人間が予見するのはおよそ不可能という印象も。ひいては、これらを素材とする金融商品の是非・市場取引を投資対象とすることが、人間個人の判断力を如何に超越した、愚劣かつ自己過信に満ちた振る舞いかを感得できる。

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    投稿日:2017.01.24

  • M. Nakamoto

    M. Nakamoto

    為替などをシステマティックな視点から見る、という趣旨の本です。
    投資家視点でどうすれば利益を上げられるか、という視点でいえばこの本は役に立ちません。

    投稿日:2016.02.06

  • 澤田拓也

    澤田拓也

    最近読んだ『ウォール街の物理学者』が面白かったのだが、その中に出てくるカオス理論やフラクタル性の話についてはきちんと理解できず消化不良感が残っていた。本書では、そのわからなかった辺りであるベキ分布やフラクタル理論が市場予測にどのように利用されているかが丁寧に説明されている。『ウォール街の物理学者』が金融工学の歴史を綴ったエンタメ性も備えた読み物とすると、自分にとって本書はちょうどそのテクニカルな部分の理解を助けるサブテキストのような位置付けとして読むことができた。

    経済物理学 - エコノフィジックス - は、熱力学のような統計物理学やフラクタル理論などの統計的概念を金融取引などのデータに適用し、経済現象を実証的に解明するというものである。そういえば大学でも応用物理学科なる学科があったが、思えばこういうこともしていたような気がする。

    前提として、市場での売買取引には微小な誤差を拡大するカオスの仕組みが内在しており、需要と供給が釣り合って市場が安定するという前提が誤りであることが示される。著者は、臨界揺らぎや相転移という物理学の概念を適用することで、そのことを説明している。全体の市場の動きを捉えるためにはこれまでの経済学の対象となっていた分布の大部分を占める細かな変動は実はあまり影響はなく、上位の5%の大きな変動で全体的な動きの特徴を捉えることができることなども示される。この事実により小さなゆらぎの確率分布を元にするブラック・ショールズの方程式が現実の市場においては不完全で、補正が必要なものとなっている。その世界においては正規分布ではなくベキ分布を扱うことが非常に重要になる。ベキ分布では平均値と標準偏差という概念が当てはまらなくなる世界であり、正規分布の解析とはまったくことなる技術が必要になる。ここまで読んで、カオス理論やフラクタルが金融工学において非常に重要だということが理解できたように思う。

    また通貨為替市場の話でも興味深いデータが示される。為替市場というのは非常に大きな市場で、支配的なプレイヤーが存在せず、多くのプレイヤーが参加をする市場であるため、経済物理学のアプローチが非常に向いている分野であるとのことである。円ドル為替のデータ解析からは、ディーラーはほとんど過去3分間のデータしか見ていないということが示されて興味深い。また、為替介入は一過性のものであり持続的効果はないこと、911のような大規模の事件で確かに為替にインパクトを与えた事例はあるが、そういった現実の事件とは無関係に起こる市場での変動の方が支配的であることも示された。また実際のデータを調べると、円-ドル-ユーロの循環取引で利ざや抜くことができる裁定取引の機会が5%程度あるということも示し、完全市場というものがありえないという話が取り上げられる。この裁定取引の話は、マイケル・ルイスの『フラッシュ・ボーイズ 』で、大手金融機関があれほど情報伝達の時間短縮に血眼になって取り組んだのかがよくわかる例になっている。

    さらにインフレの話も過去のハンガリーや終戦直後の日本の事例紹介付きで面白い。インフレとデフレは反対の事象ではないとして、おそらくは先の為替介入の話も含めて闇に安倍政権のインフレ政策を批判している。

    需要と供給が釣り合う完全市場というものが実際には存在しないから、市場は論理的に扱うことができないというのではなく、市場の予測をあるレベル以上で行うには既存にはない技術を使う必要があるということである。そこで学問の登場となる。そのために大量のデータを使った解析技術が求められ、フラクタル/カオス理論に当てはめて解析することでまた新しいことが明らかにされるという流れが続いている。著者が市場において、「大きなリスクなしで着実に利益が上げられる方法があったとして、その利益率には上限があるはずだ」として目標を置くのは物理学者らしい視点だと思う。 とにかく、なぜ金融現象を正規分布で捉えることが不十分であるのかがよく理解できた。金融工学を物理学と捉えることに違和感があったのだが、統計熱力学や相転移や臨界ゆらぎといった概念の適用を少し納得できた。経済学もマル経/近経とやっているころからはずいぶん進化しているんだろうなと思ってみた。マル経/近経自体よく知らないのですが。

    読者の興味にもよるだろうが難しいことを理解しやすく解説した良書。後半の話題がちょっと興味から外れたが、おまけの星5つ。


    『ウォール街の物理学者』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152093978

    『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163901418
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    投稿日:2015.11.22

  • takeshishimizu

    takeshishimizu

    私自身、経済学への興味はほとんどなかった。最近になってやっと、少しは政治や経済の勉強もしないとと思って本を読み出しているくらいだ。本書の著者も同じようだったのだろうと思う。物理学の勉強を始めて、その後、フラクタルという考え方に触れ、その手法でいろいろな自然現象を解析してこられた。ところがあるとき、このフラクタルという考え方は、もともと経済を発端にしているということを知り、経済の研究に入り込むことになる。中身はけっこう難しい。けれどもこの経済物理学、今後の展開が非常に期待される。貨幣や税について著者がいくつか提案されている。その中で分かりやすかった相続税について紹介しよう。現在の相続税について詳しいことは知らないけれど、どうもたくさんの土地などを持っている人は、それに対しての相続税を支払うために、先祖代々の土地を売ったりしないといけないらしい。そこで著者は次のような提案をされている。土地や所有物にはほとんど税金をかけない。持っているお金や株券(金の延べ棒などは不明)などに対して高い率で税をかける。そうすることで、なるべくお金を残すのではなく、ものを買うという行動に出るであろう。そういう方法であれば、影響を受けるのはほんの一部の大金持ちだけだ。そういう一部の大金持ちが止めているお金の流れを、動かそうというのが目的でもある。お金は何かに交換して始めて値打ちがある。交換できなくなったお金には全く価値がない。ただの紙切れだ。最近では紙すら必要なく、コンピュータ上の単なる情報の流れになり始めている。為替市場の動きを見ながら何億ものお金を簡単に右から左へ動かすだけで、大きな利益を得ている人たちもいる。貨幣のこと経済のこと、もっと勉強しないといけない。しかし楽してもうけたお金には本当に価値がないような気がするのだけど・・・。「フラクタル」という考え方自体を知りたい人は、同じ著者の本や、ブルーバックスの山口昌哉先生の本などがおすすめです。20年ほど前にブームになったテーマです。 続きを読む

    投稿日:2015.06.18

  • komoda

    komoda

    http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334032678

    投稿日:2013.09.04

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