【感想】セカイからもっと近くに 現実から切り離された文学の諸問題

東浩紀 / 東京創元社
(13件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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ブクログレビュー

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  • okayamania

    okayamania

    インパク知 6・7

    自分たちだけの閉じられた世界(想像界)と、それを破壊するどうしようもない力(現実界)が短絡し、社会や政治など、本来であればふたつをつなぐもの(象徴界)への言及がない――「涼宮ハルヒ」などに代表される「セカイ系」の作品が抱える、「社会とのつながりのなさ」に、作家はどのように対抗しているのか、という考察。

    新井素子の「家族」、法月綸太郎の「恋愛」、押井守の「ループ」、そして、小松左京の「未来」について、それぞれの章で考察を加えている。

    本書においては、「セカイ系」の解決策は、「自分を(何らかの形で)未来につなぐこと」であると述べられていたように思う。四人の作家の作品への愛と、筋道を立てた読解でわかりやすくそのことが述べられていた本書は、たいへん面白かった。ジャケ買い成功である。

    一方で、筆者よりもさらに下の世代である自分には、その解決策が、幻想に過ぎないのではないかという懐疑がある。

    虚構において、ひとが社会(象徴界)を必要としないならば、つまり、虚構が現実を描かないのであれば、文学はいらない。これが「セカイ系」の抱える問題である。しかし、四人の作家による作品は「自分を未来につなぐこと」が、そこからの脱却のヒントを示している……というのが本書の主張であるが、「自分を未来につなぐこと」が救いになると読むその点に、筆者のマトモさ、もっといえば「人間に対する絶対的信頼」を感じた。

    これが「評論」だ、と思う。しかし、そうであるならば、「評論」は、人間に絶対的信頼を寄せることのできる、一部のエリートのものだ。筆者が「セカイ系」の読者として語る「オタク」に、果たしてその「人間への絶対的信頼」はあるのだろうか。

    本書はとても面白い。とても面白いのだが、だからこそ、虚構の中で社会(象徴界)を求め、享受することができるのは、エリートだけなのだという寂しさも感じた。
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    投稿日:2018.03.28

  • 愛と幻想

    愛と幻想

    新井素子と法月綸太郎はよくしらなかったがきちんとどんな人か踏まえての話なので問題はなかった。おもしろい批評だと思った。動物化するポストモダン1&2と併せて都合三冊読んだことで、現代のアクティブな文学に関しては随分と見通しやすくなると思う。時代とリンクしているのでわかりやすいし。古くなる前に読んだほうがいい本。続きを読む

    投稿日:2017.12.18

  • まりか

    まりか

    まとめ

    ○かつての文学
    ・現実で生きる人々の喜びや苦悩を汲み取り、作品表現として昇華するという役割
    =社会や政治をふまえたうえでの創作が価値を持っていた
    ・文学と社会が「公共的」な関係を持っていた

    ○現代の文学
    ・現代の社会はあまりに複雑で、わたしたちはもはや社会全体をうまく見渡すことさえできない(世界から切り離されている)
    ・あらゆる創作物が「現実逃避」として求められている
    ・記号的・キャラクター思考
    ・現実から遠いものとしての虚構群である
    ・想像界と現実界が短絡し、象徴界の描写を欠く(例・個のボーイミーツガールを、「世界の終わり」や「この世の危機」といった大きな問題と直結させる)
    ・細部(又は大枠)の欠如
    ・社会を描かない/描けない/描かなくてもよい

    →想像(創作物)と、現実が切り離されている
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    投稿日:2017.05.31

  • zerobase

    zerobase

    要約:マザコンでひきこもりのオタクへのメッセージ。とりあえずCLANNAD見て「家族っていいなあ」と思え。次に自立してコツコツ働け。そして風俗に行って童貞を捨てろ。それから恋愛して結婚して子供つくれ。それが社会と関わることだ。(っていうのは曲解がすぎるけど、宮台感はある)続きを読む

    投稿日:2014.09.15

  • kiyoyama

    kiyoyama

    このレビューはネタバレを含みます

    現実から眼を背けていることを社会の欠落 象徴界の欠落としてつまりセカイ系的なものとして語る 宇野常寛『ゼロ年代の想像力』の影響がある ココで語るのはセカイ系の困難 つまり家族を作ることからはじまりマザコンを乗り越えることにアンサーを出す 自立して結婚し子供を設けたりすること等で現実に眼を向けることを促そうとしている 象徴界(社会)の克服がキーワードである

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    投稿日:2014.06.16

  • 満田 弘樹

    満田 弘樹

    セカイ系が、想像と現実を切り離してしまっている問題と、その問題の文学的な葛藤と解決について、新井素子、法月倫太郎、押井守、小松左京の4人の作品を通して考察していく。
    幸い、新井『チグリスとユーフラテス』、押井『スカイ・クロラ』、小松『復活の日』については知っていたので著者の主張は飲みこめたが、取り上げられた作家について全く知らないと、内容についていくのは少し難しいかもしれない。

    ただ、「セカイ系」と「家族との関わり」に大きな関係があるというのが著者の一貫した主張であるように感じた。
    続きを読む

    投稿日:2014.06.01

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