セカイからもっと近くに 現実から切り離された文学の諸問題
東浩紀(著)
/東京創元社
作品情報
想像力と現実が切り離されてしまった時代に、文学には何ができるだろう。ライトノベル・ミステリ・アニメ・SF、異なるジャンルの作家たちは、遠く離れてしまった創作と現実をどのように繋ぎあわせようとしていたのだろうか。新井素子、法月綸太郎、押井守、小松左京――四人の作家がそれぞれの方法で試みた、虚構と現実の再縫合。彼らの作品に残された現実の痕跡を辿りながら、文学の可能性を探究する。著者最初にして最後の、まったく新しい文芸評論。
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この作品のレビュー
平均 3.8 (13件のレビュー)
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文学を「想像界・現実界・象徴界」で考えた事はなかったので、これはひとつのフレームワークにはなるなと感じた。イチバン面白かったのは小松左京。本書では触れられてないが、「復活の日」では女は産む機械としての…役割を負わされ、くじ引きで生殖相手を決められるシーンを思い出した。(確かにこういうのは現代ではウケないだろう)
「きみとぼく」という究極のエロスと、社会・公共といったロゴスのブリッジになるのが「家族」なのかなと。家族は基本的にはエロス的関係なのだろうが、「世帯」という概念で考えると社会・公共・経済(家計)というロゴス的要素は無視できない。が、「生殖への欲望」というのは存在するのだろうか?「欲望は他者の欲望」と言われるが、もはや結婚や子供が幸福をもたらすものではないというのは明らかであり、子を持つ欲望というのもかなり怪しく思えるが。
昨年は「あまちゃん」や「半沢直樹」といったセカイ系とは対極に思えるドラマが流行った。「文学を読むことが、社会を語ることの必要不可欠な要素のひとつである日がふたたび来る」兆しなのかな?という気もするがどうだろうか?続きを読む投稿日:2014.04.07
インパク知 6・7
自分たちだけの閉じられた世界(想像界)と、それを破壊するどうしようもない力(現実界)が短絡し、社会や政治など、本来であればふたつをつなぐもの(象徴界)への言及がない――「涼宮ハル…ヒ」などに代表される「セカイ系」の作品が抱える、「社会とのつながりのなさ」に、作家はどのように対抗しているのか、という考察。
新井素子の「家族」、法月綸太郎の「恋愛」、押井守の「ループ」、そして、小松左京の「未来」について、それぞれの章で考察を加えている。
本書においては、「セカイ系」の解決策は、「自分を(何らかの形で)未来につなぐこと」であると述べられていたように思う。四人の作家の作品への愛と、筋道を立てた読解でわかりやすくそのことが述べられていた本書は、たいへん面白かった。ジャケ買い成功である。
一方で、筆者よりもさらに下の世代である自分には、その解決策が、幻想に過ぎないのではないかという懐疑がある。
虚構において、ひとが社会(象徴界)を必要としないならば、つまり、虚構が現実を描かないのであれば、文学はいらない。これが「セカイ系」の抱える問題である。しかし、四人の作家による作品は「自分を未来につなぐこと」が、そこからの脱却のヒントを示している……というのが本書の主張であるが、「自分を未来につなぐこと」が救いになると読むその点に、筆者のマトモさ、もっといえば「人間に対する絶対的信頼」を感じた。
これが「評論」だ、と思う。しかし、そうであるならば、「評論」は、人間に絶対的信頼を寄せることのできる、一部のエリートのものだ。筆者が「セカイ系」の読者として語る「オタク」に、果たしてその「人間への絶対的信頼」はあるのだろうか。
本書はとても面白い。とても面白いのだが、だからこそ、虚構の中で社会(象徴界)を求め、享受することができるのは、エリートだけなのだという寂しさも感じた。続きを読む投稿日:2018.03.28
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