【感想】「移動」の未来

エドワード・ヒュームズ, 染田屋茂 / 日経BP
(7件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • ホースケ

    ホースケ

     モビリティの文脈で読み始めたら、いきなり輸送の話から始まって面を食らう。
     朝に飲むコーヒーが手元にあるが、このコーヒーはどこから運ばれてきたのということから始まる。
     さらには、このスマートフォン
     半導体は台湾、日本から、組み立てはアジア、そして最後にアメリカにたどり着く。
     その移動量の合計を考えたことがあるか。

     日本での二酸化炭素排出量において、運輸部門は産業部門に次ぐ排出量である。
     その運輸部門のうち貨物自動車の排出量は40%弱。
     Flightshame(飛び恥)が有名になったこともあるが、飛行機はそうでもない。
     ただ、考えてみるとグローバル化で生産コスト減を追い求めた結果、とんでもなく遠いところから運ばれてくるものが、なぜこんなにも安いのか。

     次には、アメリカの自動車の権利についての説明が続く。
     人をひき殺しても、運が悪かったね、人間ミスはあるもんね、でおしまい。
     あるサイクリストが轢かれて治療に1年と100万ドルかかったのに、加害者は25ドルと2日間の禁固刑で終了。
     2020年のアメリカの交通事故死者数は3万8680人、日本は2839人だ。
     ちなみにアメリカの人口は日本の2.6倍ほど。
     あまりにも強すぎる自動車の権利に対するアンチテーゼとして、googleやテスラの自動運転車の開発が進んでいるのではないか。

     反面、日本ではドライバーの責任は重い。
     池袋の事故では、事故のミスではなく、「上級国民」という言葉が生まれるほどに、自動車を持つもの持たないものの格差に焦点があてられた。
     しかし、本来の自動車事故の原因に焦点が当てられていない。
     運転ミスは全てドライバーの責任というのが、アメリカと日本で大きく違うところと感じた。

     そして最後に自動運転車が実現した時の未来が描かれる。
     もし、自動運転車が実現したらどうなるのか。
     移動コストが下がり、自動車は保有よりもシェアになる。
     個人的には、高速道路の自動運転が実用化すれば、移動中に寝ていて、起きたら遠くまで移動できている快適空間が実現してほしい(夜行バスは寝れないんじゃ)。
     となると、新幹線の需要はどうなるのだろうか。
     高速であることの価値は今と同じなのだろうか。

     本書からは、輸送距離が長いほど物が安いという矛盾からは、SDGsの観点からも地産地消が、これからの最適解であること。
     自動運転車の実現による交通事故減、移動しやすさの向上、シェアリングエコノミーについて。
     など考えた。
     モビリティの最適解は都市圏、地方圏によって違うが、自動運転車の実現で一変することは間違いない。
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    投稿日:2021.11.02

  • sota

    sota

    『1つは、デジタル技術の興隆。1つは、中国が対資本主義闘争の方針を転換したこと。1つは、愛嬌もなく、最新技術とも縁がなく、ただ大きくて醜い金属の箱が起こした輸送革命。この3つのうち、一番地味な貨物コンテナ(と、その最も派手な派生物である巨大コンテナ船)が、これまで法外な経費でしかなかった大量輸送を、状況に応じて使える手段に変えたことで、残りの2つの「異変」も活かされることになった。

    コンテナは、輸送革命の手段であると同時にその象徴とも言える。なぜなら、コンテナ化によって生まれた製品の代表であるスマートフォンそれ自体が、カメラやカレンダー、ナビ、本、音楽、さらには交通の確保手段など、必要なものすべてを内包する究極のコンテナだからだ。ありふれた金属のコンテナと、それがもたらした究極のデジタルコンテナ。世界に計り知れない影響を与えた2つの箱はいまだに進化を続けている。』

    スマホ、アルミ缶、コーヒー、飛行機、車、港湾、トラック、船、輸配送、道路、自動運転/無人運転、ヒトとモノの移動に関する多面的な考察。明確な結論に導くわけではなく考えさせられる論考。

    個人的にアメリカという国家はもともと好きではないが、これは嫌いになってしまう作品だと思う。

    アメリカが戦争で生み出した死傷者数の合計よりも、アメリカで一年間で起きる交通事故の死傷者数の方が多いとか、げんなりしてしまうなぁ〜。

    不可逆的な利便性の罠と資本主義が大量生産する欲望装置の消費に、世界は食い潰され、破壊され、汚染されていく。この流れに抗う方法はあるのかなぁ?
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    投稿日:2017.11.12

  • hazelnuts2011

    hazelnuts2011

    カーマゲドンは、人間自身が作りだした奇妙な怪物。便利さに麻痺し、事故という名の殺人を日常的に作りだし、交通戦争という名の大衆同志の戦いを演出する。著者はこれを需要と供給の問題に置き換えることで、簡単に退治できると考えているようだが、果たしてそうだろうか?なぜなら人間は感情で動く生き物。需要と供給という理屈だけでは心は動かない。う?これじゃまるで行動経済学といっしょだ。続きを読む

    投稿日:2017.10.23

  • lvseven

    lvseven

    自動車は世界中で多くの命を奪っているがその対価があまりにも低い。それは近代の人類が自動車をベースに社会を構築してきたから。

    投稿日:2017.05.21

  • ルー

    ルー

     朝飲む一杯のコーヒーに、どれだけの「移動」が伴っているか? 世界中のコーヒー畑から豆が運ばれ、ブレンドされ、家庭に運ばれることを考えれば、一家庭で年間57万2000マイル(地球25周)もの距離をコーヒーだけで消費していることになる。どうしてこうしたことが可能になったのか? 著者は「コンテナ輸送」革命から話を起こし、〈昼夜を問わずヒトやモノをドアからドアへ運び続けるこの巨大なシステム〉の現状をていねいに追っていく。
     指摘は多岐にわたっているが、もっとも理解しやすいのは、車と道路に対する提言だ。ロサンゼルスの主要フリーウェイであり、常に渋滞していることで知られる405号線の拡張工事の事例が、序章冒頭に置かれている。工事のために週末まるまる封鎖が必要なことから、当局は〈ロス史上最大の人災が起こる〉ことに備えて、救急隊員やパトカーの増派を含めあらゆる準備をした。ところがふたを開けてみると何も起こらなかった、どころか〈市の全域で交通量は減少した〉。普段車で移動する人が公共交通機関に流れた結果、渋滞が減少し、周辺のスモッグが10分の1になり、大気汚染物質は市で25%減少し、さらにその効果が1週間にわたって続いた。さらにこの話にはオチがある。拡張工事が終わった結果、渋滞は解消したか? しなかった。新たな車線は新たな車を呼び寄せただけだった。〈この現象はフィールド・オブ・ドリームス症候群と呼ばれている――“道を造れば、車はやってくる”〉というシャレには思わず苦笑してしまった。
     完全な自動運転が実現したら、どうなるかという予測もおもしろい。無人自動車サービスをライドシェアで乗れるようになれば、自家用車がいらなくなる。だいたいがクルマはほとんどの場合、駐車場で寝ているのだ。自動運転車なら、ミスを起こさず、バンパーとバンパーをくっつけるようにして移動できる。空気抵抗も減るし、渋滞も緩和する。そうなれば今よりはるかに少ないクルマの台数で世の中がまわるようになる。Googleが実現しようとしている世界は、クルマのメーカーからすれば悪夢かもしれない。
     遙か未来の出来事ではなく、すぐにできる提案もある。毎年交通事故でアメリカでは3万5000人以上が命を落とし、150万人がICUに入っているという。クルマの数を減らせばいろんなことが解決する。著者によれば、米国でクルマは多くの場合ただ一人の移動のため、さらにはその半分が3マイル以下の移動のために使われているという。クルマを減らすにはどうする? クルマ中心の都市づくりをやめればいい。バスや自転車を専用レーンで優遇し、歩きやすい道にする。ライドシェア・サービスを活用する。できれば信号機ではなく、ラウンドアバウトをつくる。渋滞する時間やクルマのサイズによって通行料を課す。交差点に監視カメラをつけるだけで、交通事故が減る。いずれも考えてみる価値のある提案だと思う。
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    投稿日:2017.02.19

  • ゆうだい

    ゆうだい

    内容は面白いのですが、邦題タイトルに偽りあり。マーケティング的な要素でしょうが、誤訳と言ってもいいのでは。。
    原題を直訳すると、「ドア・トゥ・ドア 壮大で、猛烈で、ミステリアスな交通の世界」となるので、「『移動』の未来」じゃあないわな。
    全13章あるうち、未来っぽいのは最後の2章くらいでしょうか。
    しかもこの本、ハイパー車社会アメリカの、中でも特に公共交通機関が弱いロサンゼルスの話です。とてもじゃないが、全世界を網羅した移動の未来を語るのは難しい。
    末尾にロサンゼルスの交通の改善に向けた提言っぽいくだりがありましたが、他国でとっくに導入されているロード・プライシングや、「短距離は車使わないで歩け」というまぁ何とも…といった内容でした。

    という訳で「移動の未来」を知るためにはあまり役に立たない本だと思いますが、「車社会の弊害」と「物流の裏側」を知るには良い本です。コネタが多く、読み口もキャッチーで読みやすいです。

    しかし、アメリカのシートベルト着用率って87%なのか。。(日本は運転者で98.5%/2016年)
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    投稿日:2017.01.18

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