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増谷文雄 / ちくま学芸文庫 (2件のレビュー)
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maiko2015
こういうものは反復することに意味がある。ひとくち含んでは咀嚼し味わい、しばらく窓の外に目をやったりして、またふと紙面に目を落としては単純な説法に聞きいればいい。定期的に何度でも読みたい。
投稿日:2015.08.26
nt
キリスト教はいくら枝分かれしていっても、基本的には「聖書」に帰って行く点で常に同一性を維持している。しかし仏教は本当に不思議な世界宗教であり、どこに本体があるのかよくわからない。念仏さえすれば救われる…なんて仏陀はいいやしなかったし、鎌倉時代等に出てきた「日本の仏教」は、原始仏教とは完全に別の宗教だと言っていい。 それでも「始原」を好む私は、幾つかのアンソロジーや解説書で原始仏教に触れてきたのだが、この本はより内容の多い原初の経典である。 当時のインドで普遍的であった修行主義的な考え方が、やはりブッダにも見られるし、古代インド哲学らしい観念が飛び交う。 色(しき。身体) 受(じゅ。感覚) 想(そう。表象) 行(ぎょう。意志) 識(しき。意識) こういった分類法は我々には恣意的に思われるし、そのようなところは古代ギリシャ哲学にも多く見られた。分類は言語と文化の形態に由来する。カントの分類法でさえ、私にはどうも疑わしく思えるし、果てはフーコーが『言葉と物』冒頭で引用した、ボルヘスのあの奇怪で馬鹿げた分類表までもが可能となる。 だが、そういう違和感はとりあえずおいといて、ここでブッダが注目したのはあくまでも個人の意識界という非常に狭い領域での、思考の闘争だったという事実を強調しておきたい。 だから、「個人の意識」が最終的に解脱することが最終目標だったのである。 さてこれら、人間の心的諸事象が最終的にすべて「苦」に至るという洞見に仏教の特徴がある。この「苦」から逃れるために、「色・受・想・行・識」のすべてを無常なものとして滅し去らなければならない。そうして根幹の「無明」を滅することが、解脱への唯一の道を開く。 精神を抜本的に鍛え直そうというスタンスは、原始仏教および古代インド哲学ならではの厳しさだが、こんにちの日本にはまったく受け入れられないだろう。現在、世間で一般に価値ある人生と思われているような、スポーツや学問等での大いなる努力の末に到達した「一流」のランクは、「解脱」から遠いがゆえに、原始仏教では全く価値を持たない。音楽なんてやっているヤツは目先の快楽にとらわれ、さらには名声欲だの自己顕示欲だのに惑わされている、どうしようもない連中である。無常そのものの凡夫としか言いようがない。 本書は、同じ内容の文章がやたら何度も繰り返されたり、少ししんどいのだが、時間をかけて、ちょっとずつ拾い読みすると良いかもしれない。そうして「解脱」という未知の領域にあこがれをそそられるのも有意義だろう。現代性とはまったく異種の思考がここにはある。 個人的には、手っ取り早く「苦」を滅したいならば、自殺がいちばん簡単なのではないかという気もするが・・・続きを読む
投稿日:2012.09.19
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