【感想】敦煌

井上靖 / 新潮文庫
(104件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
24
42
19
7
0
  • 敦煌莫高窟に数世紀にわたり隠されていた万巻の経典の謎に小説家の想像力が挑んだ野心作。

    時の思いが人を動かしているような歴史小説。主な登場人物である趙行徳、朱王礼、尉遅光という出自も生き方も考え方も違う三人の男たちの生き様を鮮やかに詩情豊に描き出した手法は中島敦の「李陵」を思い出させる。
    特に主人公の趙行徳自身は儒家に生れ、三十すぎまで科挙に受かることだけを考えて書物の中に生きてきた人間であるが、科挙に落第したことを契機に西夏出身の女が持つ生身の肉体の叫びに導かれるようにして西域に赴き、遂には自らの身を戦場に投げ出すことに些かの恐怖も不安も感じない。彼の空っぽの器のような人生にウイグルの王族の女の死が酒を満たすように目的を与え、そうして後の世に残された数々の経典が忘れ去られた過去を充たしてゆく。
    時も人の思いも何もかも飲み込んでしまう砂漠に今もただ風が吹いているだけなのであろうと思う。第一回毎日芸術賞受賞作。
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    投稿日:2014.12.23

ブクログレビュー

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  • Limei

    Limei

    物語の舞台は1026年から30年代ごろ中国の西域
    想像もつかないくらい大きな大陸で始終多民族が侵攻して、戦って、占領して、征服して、滅ぼされて‥という中で生きるとは。
    主人公が敦煌に至り、仏教の経典に出会うまでの運命に引き込まれました。

    砂漠、どんなに広いんだろう。どんな景色なんだろう。
    敦煌、すごく行ってみたいです
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    投稿日:2024.02.25

  • ケンジ

    ケンジ

    30年振りに再読した。
    読後の印象は、記憶にあるものとは違っていた。記憶では、主人公の生き方に対して、一貫性と達成感を感じていたが、今回は、それよりも結末に至る過程におけるさまざまな選択の潔さ良さを心地良く感じた。続きを読む

    投稿日:2023.12.31

  • コタロ

    コタロ

    莫高窟で発見された文書群が、そこに保管されるに至った経緯を描く小説。宋代の河西回廊の政情と戦乱、その渦中にあって自らの誇りと意志を持ち続けた3人の男が主題となる。

    描写が省かれることも多く、ある意味淡々と消化される日数だったり城邑のあいだの距離なんかがいちいち長いのが面白い。夷狄の土地の広大さを印象付けると同時に、故郷の潭州はおろか漢土に踏み入れることは二度とないであろうという中盤以降の行徳の意志が裏付けされるようである。

    かなり好きな部類の作品なので、特に好きな箇所と解釈に迷った点と、あまり好きではない点を1点ずつ。

    尉遅光は悪魔的に描かれる人物であり、善意を装って行徳らを嵌め込もうとする。しかし、自分は人を致しても人に致されることはないと断定する傲慢さの裏には一種のナイーブさがあり、実力行使を何度も逡巡するさまは可愛げすらある。生き生きとした悪役は、本書の魅力的な点だと思う。

    よくわからないのが朱王礼の碑の伏線。私が正しく読めていれば行徳は碑を建てていないはずだが、折に触れてこの伏線を張る必要があったか。好意的に捉えるならば、朱王礼が戦死した以上、その義理を果たす必要はないというふてぶてしさの表現だろうか。結局、西夏文字訳の経典を回鶻の女のために完成させていないように、死んでしまった他者に依存しないという生き方を、行徳が選んだということだろうか。もしそうなら、中華の儒教的思考を棄て、精神的にも漢民族国家の重力圏から脱したということなのだろう。

    物語上重要ではないが、作品美的観点から、最後に行徳の消息が判明するのは、なんとなく俗っぽい気がした。
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    投稿日:2023.12.30

  • 司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    NDC 913
    [官吏任用試験に失敗した趙行徳は、開封の町で、全裸の西夏の女が売りに出されているのを救ってやった。その時彼女は趙に一枚の小さな布切れを与えたが、そこに記された異様な形の文字は彼の運命を変えることになる…。西夏との戦いによって敦煌が滅びる時に洞窟に隠された万巻の経典が、二十世紀になってはじめて陽の目を見たという史実をもとに描く壮大な歴史ロマン。]

    「歴史はかび臭い過去の出来事をほじくりだすものではなく、人間の生き方を示してくれるものなのだと教えてくれたのがこの本。」(『世界史読書案内』津野田興一著 の紹介より)


    著者等紹介
    井上靖[イノウエヤスシ]
    1907‐1991。旭川市生れ。京都大学文学部哲学科卒業後、毎日新聞社に入社。戦後になって多くの小説を手掛け、1949(昭和24)年「闘牛」で芥川賞を受賞。’51年に退社して以降は、次々と名作を産み出す。
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    投稿日:2023.08.16

  • 555

    555

    昔の中国を舞台とした物語。

    人の生きる様をときに熱く、ときに粛々と
    描いている。

    人生において、たとえ失敗したとしても
    次の道がまた開けるものなのだろうか。

    最後は…
    この主人公は心に秘めた事を
    成し遂げようとするが成功したのか失敗したのか?!
    続きを読む

    投稿日:2023.06.27

  • おさむ

    おさむ

    初めての井上靖作品。元々敦煌含めシルクロードに興味があり、のめり込んでしまった。描写が一つ一つ繊細で、コロナの前に敦煌で行けていればより臨場感があったかもしれない。但し、読み終えた今となっては逆に想像が掻き立てられ、行く先にこの本に出会えてよかったと思う。続きを読む

    投稿日:2023.06.25

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