【感想】日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ

湯之上隆 / 文春新書
(32件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
15
10
3
2
0
  • せいぜい「エルピーダメモリの敗北」でしかない

    ゼロ戦・半導体・テレビというサブタイトルがついていますが、ゼロ戦ははじめにで少し触れられる程度、テレビも全9章中の1章が当てられているだけ。
    その他が半導体なので、この本のほとんどは半導体の本です。
    その半導体の中でも筆者が在籍したエルピーダメモリ破綻の話がほとんどで、結局本のタイトルの日本型モノづくりの敗北というのは、エルピーダメモリのことでしかありません。
    そのエルピーダの話も、筆者がWeb上の記事で何度か書いていることなので、わざわざ買って読むほどのものではなかったという印象でした。


    数年で買い換えるPC用のDRAMに、メインフレーム向けの25年の保証を想定して信頼性を高めるのはムダが多いというのは理解できるが、
    だから同じように、自動車メーカーが半導体に欠陥ゼロを求めるのはムダが多いというのは、理解しかねる。
    欠陥が起これば人が死ぬこともある自動車という商品の特性を理解しているとは思えないし、
    欠陥ゼロを求めることを、日本メーカーの悪癖のように書くが、アメリカ・EUの自動車メーカーも、車載用の半導体には、日本と同じようにかなり高い信頼性を求める。
    それを知らない筆者は、おそらく海外メーカーを取材するコネも能力もないのではないかと思う。


    取り上げられている日本の半導体メーカーは、主にエルピーダとルネサスであるが、
    フラッシュメモリで存在感のある東芝や、
    イメージセンサで首位のソニー、
    アナログ半導体のローム、
    LEDの日亜化学など他の有力な半導体メーカーには一切触れない。


    日本の悪いところをピックアップして、「日本型モノづくりの敗北」などと扇情的なタイトルを付け、
    日本がダメになったという本を読みたい人が買わせたいのでしょうが、
    しかし、書かれているのは、
    「日本型モノづくりの敗北」などではなく、
    「日本の半導体産業の敗北」でさえなく、
    せいぜい「エルピーダメモリの敗北」でしかない。
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    投稿日:2016.09.17

ブクログレビュー

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  • sagami246

    sagami246

    少し前にシャープが経営破綻したのは何故かということを調べるために、関連の本を数冊読んだ。シャープの場合には、液晶の事業経営の失敗が会社の破綻に結びついた。本書で取り上げられているのは、同じく電機業界であるが、主に半導体である。
    かつて、日本の電機メーカーは、DRAMの分野で世界シェアの80%を占めていた。メモリーをやっていた会社も、東芝・富士通・NEC・日立・三菱電機と多く、日本の半導体事業はこのまま高収益が続くと考えられていた。
    ところが、今や日本の電機メーカーのDRAMは壊滅状態であり、その後に参入した、別の種類の半導体、SOCでも日本メーカーは存在感を示すことが出来なかった。
    日本の半導体でDRAM分野で負けたのは、DRAMの主な用途がメインフレームコンピューターからPCに変った時である。メインフレームとPCでは、DRAMに求められるものが異なる。メインフレームでは、性能であり、品質で、コストの優先順位は相対的に低い。ところが、PC用のメモリーはコストが最優先となる。日本のメーカーは、メインフレーム時代に製造していた、高品質・高性能、しかし、高コストのDRAMをつくり続け、負けていったのである。
    DRAMから撤退した日本は、SOCという分野の半導体に進出した。これは、ASICと呼ばれる、アプリケーション・用途を特定したカスタムLSIであり、事業に必要なものは、マーケティングとシステム設計力であったが、ここでも、高品質・高性能の半導体づくりにこだわり、結果を出すことが出来なかった。
    こうして考えると、シャープの液晶と同じように、結局は、マーケットの変化を事業に取り込むことが出来なかった、あるいは、もっとひどい言い方をすれば、市場を知らなかったことが敗戦の原因ではないかと思う。韓国のサムスンと、日本メーカーの違いを筆者は、「サムスンがマーケティングを何より大事にして、売れるものをつくるのに対して、日本メーカーはマーケティングを軽視して、つくったものを売る」と書いている。鋭い指摘であり、その通りではないかと思う。
    続きを読む

    投稿日:2022.11.14

  • 田舎野郎

    田舎野郎

    このレビューはネタバレを含みます

    日本企業のDRAM全盛期時代に日立製作所に入社、その後エルピーダメモリに出向、日本の半導体産業に警鐘を鳴らし続けている湯之上隆氏の著書。

    一言:サムスン強え(いろんな意味で)。ヤクザかよ…。
    おもしろかった。以下学び↓

    ・日本の「イノベーション」=「技術革新」という認識が、イノベーションのジレンマに陥ることにさらに繋がる。
    ・サムスンは「売れるものを作る」。日本企業は「作ったものを売る」。
    ・インテルはイノベーションのジレンマに陥り、iPhoneの市場拡大を見誤り、iPhone用のプロセッサへの投資を断った。

    サムスンは模倣で伸びた企業。NECからDRAM、iPhoneからスマホのノウハウ。そこにはグレーな点もあるが…。

    はじめて知ったんだけど、サムスンとAppleは訴訟沙汰になってたのね。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2020.09.12

  • naochan1204

    naochan1204

    良書。1990年代以降のDRAM半導体メーカーの凋落、今なお日系メーカーの強い分野とその背景の分析、総じて一番思うことはイノベーションとは技術と市場の結合であって、市場と結合しない独りよがりの技術は淘汰されること。これは多くの人が教訓として心がけ、明日の産業衰退の種にもう2度としないよう決意することだ。続きを読む

    投稿日:2020.07.26

  • pulse02

    pulse02

    電子立国日本の中核を担っていた半導体産業の凋落と、サムスンを始めとした新興国の隆盛。その渦中の中にいた、半導体メーカ技術者であった著者による分析と今後の日本の半導体産業への提言が本書。
    目から鱗だったのが、半導体産業の凋落の理由。今までのメディア情報で、設備投資のタイミングが遅いことと、アメリカからの貿易不均衡が同時に重なったことだと思い込んでいた。しかし、その本質が職人気質という日本文化の影響で、全体最適を考える経営者が不在で、技術者は部分最適の技術レベル向上に固執するという、典型的な日本メーカの負けパターンだったとは。
    しかし、半導体技術開発の困難さが初めて分かりました。その意味で、半導体技術の概要を解説した本書の第2章は、自分にとっては、次章以降を読み解くためには、大変有意義でした。
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    投稿日:2017.05.07

  • andalusia0705

    andalusia0705

    読み応え十分だった。半導体産業の歴史、日立、NECの半導体事業の衰退が筆者の経験を踏まえダイナミックに語られている。なぜ日本の半導体産業は衰退したのか、その理由も明かされ一気に読んでしまった。DRAM、CPUと来て今はセンサーへの活路を模索している半導体産業の現実がよくわかった。続きを読む

    投稿日:2017.03.10

  • skatsu99

    skatsu99

    日本の電機、半導体がどうしてここまで落ち込んでしまったのか、この本読んでよく分かりました。イノベーションは技術革新と訳すのは間違い、という出張も納得。テクノロジー>ビジネスという日本にありがちな価値観もこういう流れを助長していると思います。続きを読む

    投稿日:2016.07.26

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