【感想】冬の鷹

吉村昭 / 新潮社
(41件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
12
21
4
0
0
  • 解体新書の制作過程と対照的な2人

    解体新書と言えば杉田玄白が思い浮かぶが、実際の翻訳はほぼ前野良沢だった。
    医学と自信の発展を望む杉田玄白、対照的に出世欲は無く完璧主義で蘭学研究に没頭する前野良沢。
    西洋医学を日本に紹介した当時は革新的な医学書の制作過程と2人のその後の生涯を通し、その時代、生き方を見せてもらった。
    教科書での1行程度の知識がこの本を読むことでその背景が伝わってきた。
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    投稿日:2014.03.27

ブクログレビュー

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  • 達朗

    達朗

    ターヘルアナトミアを翻訳し、解体新書を出版した前野良沢の話。良沢と杉田玄白の対比が面白かった。お互い医家ではあるがオランダ語を翻訳することに人生を捧げた良沢とオランダ医術を布教することに専念した玄白。長女、妻、長男を亡くし茫然自失となった良沢、養子玄沢や大槻ら優秀な門徒に囲まれた玄白。最後まで研究者として意固地な良沢のまっすぐさが描かれていた。
    未知の文字を翻訳することの大変さ、それを成し遂げたのに名を売らなかった良沢の生真面目さがわかりやすかった。
    平賀源内の印象がすごい変わった。
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    投稿日:2024.01.26

  • 白いヤギと黒いヤギ

    白いヤギと黒いヤギ

    あなたは、「『解体新書』を翻訳したのは誰か」と聞かれたら何と答えますか?

    小学六年生社会科のテストなら
    『杉田玄白』
    と答えていれば丸になるかな。
    でも、実際の翻訳作業はほぼ全て
    『前野良沢』
    が手掛けたことまでは学習しません。

    本書はその前野良沢と杉田玄白を中心とした歴史小説です。オランダ語の習得に全身全霊を捧げようと志す前野良沢は、ほとんど暗号解読のような状態で翻訳を成し遂げます。しかし自分の名を著作に刻むことはよしとしませんでした。一方で用意周到に出版の準備を進めた杉田玄白は、後に医家として大成し医学界の頂点を極めます。
    吉村昭さんの小説は、対照的な二人を軸とするも、平賀源内や高山彦九郎といった関わりのあった同時代の人物にも多くの筆をさいていて、江戸時代末期の社会情勢を俯瞰して見つめています。それでも著書の視点は温かく、埋もれがちな前野良沢へとより多く向けられています。"どちらが正しい"と二者択一するのではなく、二人の対照的な生き方が、現代に生きる我々にも多くの示唆を与えてくれていると思います。

    …それにしても、"杉田玄白はほとんどオランダ語はできなかった"っていう事実は、知っておくべきかもしれないなぁ…。
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    投稿日:2023.10.23

  • sonica00

    sonica00

    吉村昭さんのお蔭で、知らなかった、知っておくべき過去の有名無名の偉人の業績、人生を知ることができて本当に嬉しい。有難い。
    タイムスリップして、透明人間になって、その場にいたような気になれる文章が好き。
    ターヘルアナトミアを前に、絶望する前野良沢や杉田玄白の姿が見える。孤独、名声、期待、失望、怒り、悲しみ、喜び、安堵。
    彼らの生きた時代の空気を感じられた気がする。
    読めてよかった。
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    投稿日:2023.09.23

  • でんろく

    でんろく

    解体新書を上梓した二人の医学者を通して、当時の思想や政治体制を背景に物語が進んでいく。比喩が正しいかわからないが、理系肌で頑固一徹な前野良沢、文系肌でコミュニケーション脳力が高い杉田玄白の生き方のどちらが正しいのか?
    学問を極める事とそれを世に広める事は、同じ人間には出来ないのか?を考えさせられる。
    吉村昭の洞察力の深さを思い知る作品である。
    前野良沢は、吉村昭の生き方に通ずるのだという事が理解できる。
    同じ時代を生きた高山彦九郎を主人公にした『彦九郎山河』を同時に読まれる事をお薦めする。
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    投稿日:2022.10.12

  • きゃっちゃーT

    きゃっちゃーT

    江戸時代後期、蘭学隆盛の端緒となった解体新書の翻訳・刊行の中心人物であった前野良沢、杉田玄白の話。技術英語の翻訳に関わることもある仕事柄、読む前から強く興味を惹かれるテーマだったが、未知の蘭語の翻訳の困難に関わる話は、解体新書の刊行に至る物語の中盤よりも前で触れられている。ここをより深く掘り下げて欲しかった気持ちがあることは否めない。しかし、辞書という概念すらほとんど知られていない時代にわずかな手掛かりから原書の記述の意味を探り出そうとする苦労は十分に伝わってきた。

    物語後半は、他者に抜きんでた専門性を持ちつつも学究肌で柔軟性に欠ける良沢と、専門知識には劣るが社会性に秀でて解体新書の刊行をきっかけに活躍する玄白の境遇の対比に重点が置かれている。前者は頑迷ともいえる研究者であり、後者はビジネスセンスのある企業家というところか。学問の探求とビジネスの間のバランスの取り方の難しさは現代にも通じるところが大いにあって面白い。著者はどちらかというと良沢に肩入れした描き方をしているが、むしろ現代の研究者がビジネス面のバランス感覚を持つことの意義を知るためにも、本書に書かれた良沢、玄白の生き方の対照性は参考になるのではないかと思う。
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    投稿日:2022.09.19

  • ミイ

    ミイ

    オランダの医学書を翻訳して解体新書を書いた前野良沢の翻訳人生を描いた作品。
    同じく解体新書を書いた杉田玄白とは、その後の人生、信条、キャラクターなどがまるで対照的で、この二人の対比で話が進んでいく。
    杉田は外交的、前野は内向的。前野は語学の学問を追及、杉田は医学の実利を追及。前野は自分が育ちたい人、杉田は人を育てたい人。
    二人に共通しているのは、好奇心のかたまりであること、あきらめが悪いこと、確固たるポリシーを感じること。
    二人の歩んだ人生はまったく違うが、チャレンジ精神を称えたい一冊。
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    投稿日:2022.04.11

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