【感想】さよならの次にくる〈新学期編〉

似鳥鶏 / 創元推理文庫
(67件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
25
26
12
2
0
  • 人は名探偵として生まれない、名探偵になるのだ

    前作の〈卒業式編〉の謎が解き明かされる「さよならの次にくる〈新学期編〉」は同時に前作で探偵の片鱗を見せた(恥をかいたけど)葉山君の探偵としての成長の物語でもありました。
    演劇部の面々の登場も増え、コミカルさと学園ミステリが全面に出た短編集となっており、ラストの清々しい幕切れまで一気に読ませてくれます。

    ≪収録作品≫
    ●「第五話 ハムスターの騎士」
    新学期が始まってまもなくの雨の日の下校時。葉山君は1年の佐藤と名乗る少女と「曲がり角でこつん」的なベタな出会いをする。入学してからずっと何者かに付けられている、しかも今日だけじゃ無く-。佐藤さんから相談を受けた葉山君と柳瀬さんはじめノリのいい演劇部の面々は、ストーカー捕獲作戦を開始する。
    しかし厳重な監視をあざ笑うかのように、ストーカーは佐藤さんの携帯に脅迫メールを送りつける。姿なきストーカーの正体とは。

    ついには卒業した伊神さんの出馬を仰ぐことになりますが、〈卒業式編〉に続いて伊神先輩の態度がなぜか不審でなにかのトラブルに巻き込まれていることを匂わせます。しかし推理の冴えは相変わらずで、犯人のトリックを簡単に見破ります。マジックの古典的なネタですが、作者はそれを上手に演出しているので、ネタがわかっても「なぁんだ」ではなく、「なるほど」と思わせます。

    ●「第六話 ミッションS」
    葉山君がたったひとり(他4名は幽霊部員)で活動している美術部に新入部員が入る。
    ストーカーに困っていた佐藤さんが。
    部活動に気合いの入る葉山君だが、なぜか横やりが。職員室からシステム管理室のカードキーをこっそりすり替えるミッションを親友のミノから依頼される葉山君。
    柳瀬さんの支援をうけて何とかカードキーをすり替えることができたものの、なぜかすり替えたニセのカードキーで教師がシステム管理室に入室できてしまったらしい。なぜ?

    例によって伊神さんの推理で謎は解けますが、シンプルな手口ほど人は騙されやすいというネタと、会うったことのない名探偵伊神さんに興味を持つ佐藤さんに、前作の葉山君の悲劇的結末再びか?と読者の想像を誘います。

    ●「第七話 春の日の不審な彼女」
    青春ミステリ色が一番濃い作品です。町おこしの文化祭に招かれた演劇部の出張公演の応援にかり出された葉山君と佐藤さん。
    しかし葉山君は誰にも言えないトラブルに巻き込まれていた。
    携帯に届く暗号のような意味不明のメール。そして演劇部の宿泊先の宿で事件が起きる。オートロックで鍵のかかったいる葉山君の部屋。朝、葉山君が目覚めるとそこにはマネキンと、『九日後 鍵をかけても無駄』の紙が。犯人は如何にして鍵のかかった部屋を出入りできたのか?

    こちらも密室モノのトリックとしては森村誠一氏の長編にも使われている古典的なものですが、それを読者に気づかせないように作者は演出しています。
    作者の似鳥氏は。独創的なトリックで読者をあっと言わせるディクスン・カータイプというよりもむしろ、ありふれたトリックを、そうと分からさないように演出で隠して効果を出すアガサ・クリスティタイプの作家ではないでしょうか。
    謎は解けるが犯人の動機が分からないという伊神さんに、葉山君が犯人の動機を推理する。そして、そこから驚愕の展開が!
    葉山君の不憫さここに極まるといった感がありますが、この展開は想定外でした。
    いや、怖い。そして前作の謎がついに解明され始めます。

    ●「第八話 And I'd give the world」
    ●「第九話 よろしく」
    本作品の主要人物の告白から、名探偵伊神さんにまつわる物語の幕は開き、伊神さんを電話の質問で引っかけてた上に、前作に登場した英語の落書きの謎まで葉山君が見事に解き明かす。色々あったけど、成長したね。
    僕のしたことは本当に正しかったのか?謎を解きながらも自問自答をして苦悩する葉山君に訪れるエピローグと言っても良い第九話のラストは優しく美しい。

    第七話の謎解きから第九話までで過去の短編が繋がりひとつの物語を奏で、救済の物語として幕を閉じます。「さよならの次にくる」もの、それは前作と本作品を読み終えた読者だけが知る結末です。
    コミカルでかつ爽快感のある第一級の青春学園ミステリ作品でした。
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    投稿日:2013.10.13

ブクログレビュー

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  • no_identify

    no_identify

    このレビューはネタバレを含みます

    前作の続きとして完結。探偵役の彼が卒業した後、どのような展開になるのかと思っていたが、基本的には探偵は出てくるんだな。もともと達観したキャラだったが、磨きがかかった。

    それにしても伏線回収しまくった。前巻で感じたむずむずが今回もなくはなかったが、卒業式での物悲しさとは違ってちょっと春らしい雰囲気のせいか、ちょっと元気がでる。そしてそれ以上に伏線を回収していくさまに感動を覚えた。これぞ連作短編の良さ。

    無理な設定もあるにはあるが、それが吹っ飛ぶくらいの読み応え。個人的にはここ数年で一番かもしれない。ちょっと過大評価だろうか。でも2巻にわけて、雰囲気を少し変えるなどもおそらく狙いだろうし、年末にいい作品を読めた。幸せ。

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    投稿日:2023.12.17

  • cherry00

    cherry00

    「市立高校シリーズ」学園ミステリ・シリーズ第二弾、後編。なぜ”後編”があるのか、続くのか、前編の段階ではよくわかっていなかった(汗)

    伊神さんが卒業時にもなぞの消失事件を起こしたものの、無事に解決して。それぞれに進学、進級してそれでよいのかと思っていた。まさか後編の第九話につながってくるとは。
    後編も八話でなんとなく完了って感じだったけど、葉山くんのもやもやは正しかったな。そして伊神家、翠ちゃんにとってもいい結果になったようで、よかった。
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    投稿日:2023.11.21

  • G. S.

    G. S.

    個人的に、大傑作です。これはシリーズを読み通そう、と思った。
    ここまでの作品の描写で読み逃していたのかもしれませんが、私は伊神さんのビジュアルを美青年だとの認識がなかったので、途中でイメージがややバグってしまいましたが。

    この後編で、謎解きのパターンが生まれたようで、学校などで事件が発生→葉山くんや柳瀬さんが捜査→伊神さんに相談→現場に探偵登場!これがとても楽しい。

    で、オチもとても良い。最終巻かよ。
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    投稿日:2023.09.24

  • まーちゃん

    まーちゃん

    '23年4月16日、Amazon audibleで、聴き終えました。〈卒業式編〉と合わせて一冊、と考えると…似鳥鶏さんの作品、確か三冊目。

    正直、「訳あって冬に出る」は、イマイチと感じましたが…本作は、とても面白かったです。ちゃんとミステリー的な味付けもしっかりされていて、ラストに不覚(?)にも、ジーンときました(⁠。⁠ŏ⁠﹏⁠ŏ⁠)

    続けて、シリーズを聴いてみようかな…。
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    投稿日:2023.04.16

  • alpine310

    alpine310

    このレビューはネタバレを含みます

    後編にして新しいキャラクターが登場するので、これでちゃんと解決するのか?と心配になるが、全てがパタパタと収まるところに収まる最終盤は読んでいて気持ちよかった。
    難を云うと、シリーズ後半はすっかり伊神さんが主人公になってしまったが、最初はそんな感じの登場でもなかったので、脳内でのビジュアルがかなりもっさり系男子高校生で設定されてしまっていて補正が大変だった。可憐な美少女?という感じで想像していた渡会千尋ちゃんはストーカー化しちゃうし。
    このシリーズはこの先も続くのかー、どうしようかなあ、読むならかって読む?と迷う程度には面白かった。買うかな。

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    投稿日:2023.01.30

  • ゆふぃ

    ゆふぃ

    葉山&伊神シリーズ第2弾の後編。伊神さん卒業しちゃってどうなるのかと思ったけど、普通に出てきてた。葉山くん、そんなにダメなこじゃないのに、完全に当て馬みたいな役割でちょっとかわいそう。あ、でも今回はけっこう活躍したかー。謎解きも満足で、この巻はとても面白かった。続きを読む

    投稿日:2021.05.25

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