【感想】アナロジー思考

細谷功 / 東洋経済新報社
(79件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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ブクログレビュー

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  • だいき

    だいき

    演繹法、帰納法と並ぶ思考様式である「アナロジー」。
    1番初めは学生時代のビジネスリテラシーが皆無だったころに触れ、当時は内容はあまり理解していなかったのですが、、、。
    社会人経験を多少経て読み直してみました。
    読んで思ったのは、「アナロジー思考」はその思考様式を手段として身につけようとする類のものではなく、目の前の課題を解決しようとする過程で自然と身についていくものなのかなと。
    自分が知らない領域の課題解決に真摯に向き合う過程で、過去の自分の経験(自分の知っている領域の課題解決)、抽象化したエッセンスが役に立つと思います。
    「アナロジー思考を身につけよう!」と考えるより、目の前の問題解決を深堀って成功体験を積んだ上で、「なぜその成功を生み出せたのか?」をしっかり振り返り、抽象化したエッセンスを自分の血肉にしていくことが大事だと感じました。

    「アナロジー思考」の基本を学ぶのに最適な本です。
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    投稿日:2023.12.31

  • Everybody_hosso

    Everybody_hosso

    アイディアの出し方を論理的に、視覚的に学ぶことができ、考え方を整理することができた。
    いろんな知識を知っているだけの物知りで終わらずに、つなげることができるアイデアマンになれるよう日々本を読み、人と喋る時にうまくアウトプットできるようになりたいなぁ。続きを読む

    投稿日:2023.11.07

  • aneronies

    aneronies

    【before】この本を読む前の私は、これらを知りませんでした。
    ・「才能の最良の指標は、アナロジーに気づく能力である」ウイリアム・ジェームス
    ・アナロジーとは「複雑な事象に潜む本質的構造を見抜き、別分野に応用すること」
    ・新しい概念を説明する時に頻繁に利用される。これまで人類が発見してきた様々な新しい概念も、初めは既存の概念とのアナロジーで説明されてきた。
    ・アナロジーを使う3つの目的は、自分の理解・他人への説明・新しい発想。
    ・アナロジーとは、全く関係ない世界から借りてくる発想のことである。
    ・「進んでいる世界で存在するが、同じ構造だが遅れている世界では存在していないもの」を発見してその穴を埋めることで、遅れている世界にとっての新しいアイディアとなる。これがアナロジーの基本。
    ・アナロジーはアブダクション(仮説的推論)の一つである。
    ・抽象化の代表例が「数字」と「言葉」
    ・対称性(シンメトリー)が、構造的に美しいものの代表例である。我々が「美しい」と感じているのは、そこに潜んでいる構造のこと。
    ・スマートグリッド(次世代送電網)は、家庭や工場ごとにスマートメーター(インテリジェント端末)を取り付けて、電力需要を正確に把握し供給と最適にマッチングさせて電力の全体最適化を図る技術のこと。
    ・個人と組織の構造が「もはや巨大な生産手段が不要」という構造的変化を促す要因を引き金として、集中型から、再び産業革命以前の分散型に戻ってきている。
    ・ダーウィンの進化論、アインシュタインの相対性理論など革新的なアイデアが、発表時に一般に理解されにくかった最大の原因は「類似領域がない」つまりアナロジーが利かないことだった。

    【気づき】この本を読んで、これらについて気づきを得ました。
    ・アナロジー思考力の強い人は、あらゆることを関連付けて考え、全ての事象を学びとアウトプットの対象にする。
    ・個別事象を抽象化して応用することは人間の知能の基本で、高度な知的活動。
    ・時代は大きなパラダイムシフトを迎えている。物理空間から、バーチャル空間。クローズドから、オープン。ハードな結び付きから、ソフトなゆるい結び付きへ。
    ・往々にして「限られた領域しか対象のアイディアに使えない」と思い込んでいる。
    ・制約条件内だけでは組み合わせも限定され、陳腐なアイディアになってしまう。
    ・「佐藤可士和の超・整理術」大きさ・形・硬さ、全てバラバラだから整理がしにくい。BOX というフレームを設定してフォルダのように入れ子にすれば、見た目は驚くほどすっきりする。ボックス内は多少乱雑になっても構わない。
    ・アナロジーに重要なのは構造的類似を見つけること。表面的類似に比べて見つけるのが難しい分、その価値も大きい。
    ・類似性の発見に必要なのが抽象化能力。表面的類似性を意識することなく構造的類似性を探り当てる能力こそ、抽象化能力に他ならない。
    ・抽象化能力の中でも「構造化」という思考はアナロジーでは特に必要な能力。
    ・「言葉」という抽象化の武器により、人類は飛躍的な知的発展を遂げてきた。
    ・抽象化思考力が高い人には「図解してシンプルに考える、極論して二項対立で考える、例え話が上手い、美しさにこだわる」などの思考の特徴がある。
    ・現在の歴史教育を考えると、「構造を把握する」というトレーニングが不十分。
    ・「他人の開発したものは信用できない」という考え方が、オープンイノベーションが進まない主要原因となっている。まさに個人にも当てはまり「仕事を任せられない人の構図」とほぼ一致する。
    ・「忙しいから〇〇ができない」→要するに「優先順位が低い」といっている。
    ・抽象概念を扱うことは、いわゆる難しい本(抽象度の高い言葉で書かれた本)を読み、いかに身の回りの経験と結びつけて抽象概念のレベルで考え抜けるか、が問われる。数学や哲学の本を読むのは、こうした位置付けでも有効である。

    【TODO】今後、これらを実行していこうと思います。
    ・「対象領域の外側」から持って来て、アイディアの質と量を飛躍的に広ける。(これが「借りてきて組み合わせる」の意義)
    ・効率的に整理するために、適切な収納箱を用意する。
    ・単発の整理だけで終わらせず、常に意識して継続し習慣化する。
    ・整理されていないことを「気持ち悪い」と感じるようにし、継続・習慣化する。
    ・有効に収納するために、思い切って捨てる。
    ・オープンイノベーションの発想をする。(個人の強みを生かしながら、自分の弱い部分は専門家に「外注する」ことで、スピードに対応)
    続きを読む

    投稿日:2023.10.11

  • yonogrit

    yonogrit

    986

    紙の本で読んだんだけど、Unlimitedになってたからまた読んだら超面白かった。細谷功も全部読みしたいな。アナロジー(類推)思考。


    細谷 功(ほそや・いさお)
    クニエ マネージングディレクター。1964年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(ザカティーコンサルティング→クニエの前身)に入社。製造業を中心として製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定量化、プロジェクト管理、ERP等のシステム導入およびM&A後の企業統合等を手がけている。著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』(東洋経済新報社)、『いま、すぐはじめる地頭力』(大和書房)、『「Why型思考」が仕事を変える』(PHPビジネス新書)などがある。


    □アナロジーとは「比例関係」のこと。

     アナロジーは古代から人類に普遍の知的能力であって、ソクラテスやアリストテレスの時代から人間の知の表現方法としてもさまざまな形で活用されてきた。  またアナロジーは、ビジネス以外にも物理学、工学、法律などのさまざまな領域でも応用されている。例えば物理学でいう「波動」の水→音→光という異なる対象への発展、工学の「ばねの振動」と「電気回路」の類似性の活用、あるいは法律の世界での「判例」の活用も典型的なアナロジーの活用例となる。

     またアナロジーが活用される場面としては、新しい領域に対する発想やアイデア抽出という点に加えて、新しい概念を説明するときに頻繁に利用されており、これまで人類が発見してきたさまざまな新しい概念も始めは既存の概念とのアナロジーで説明されてきたものがほとんどです。

    新しいアイデアや発想とはどこから来るのか? ここではいわゆる「天から降ってきた」類の天才的なひらめきの「アート」ではなく、(たとえ「後付け」であったとしても) 説明や再現が可能な「サイエンス」の部分を対象にする。なぜならもともと「アート」とは本人以外の他人には理解できないものであるし、理解できたとしても真似のできないきわめて属人的なものだからである。一般に「アート」の要素が大きいと思われる発想も「サイエンス」にできる部分も相当あるのではないかというのが本書の基本的な考え方です。

     小説を読んで、すぐに「主人公のモデルは誰だろう?」と発想してしまう人はまだこの「借りてきて組み合わせる」という発想になじめていないといえる。日頃の知的活動に「借りてきて」「組み合わせる」という発想を持っている人は、その登場人物には「モデルはいていないようなもの」という風に理解することができるだろう。

     「ドラえもん」など数々のキャラクターが登場する漫画を生み出した藤子・F・不二雄氏(実際は我孫子素雄氏との合作) は、感銘を受けた映画や小説を、自分の中で「再構築」する、本人が「いただきのすすめ」と呼ぶ手法を持っていたといわれている。「同氏」は「この世の中、ほんとうに新しいまったく無から作り出す創作というものはなく、過去の作品からなんらかの影響をうけずにいられないのではないか、という思いがしてきます」ともいっている。そもそも代表作である「ドラえもん」というキャラクターそのものが、猫と娘のおもちゃとが合体してできたものだという逸話が残っていることからも「借りてきて組み合わせる」ことの有効性が理解できるだろう。

    長年同じ世界で仕事をしていると、ついついアイデアの源泉が「以前にやったこと」や「同業他社がやっていること」になりがちで、新規性がなくなってきてしまう。こんな場合に、何らかの違う世界から借りてくるという発想によって新規性を付加することが可能になっています。

     例えばニュートンは万有引力の法則によって、物体が落下する原理を運動方程式という形で「説明」した。一方でこの説明の如何にかかわらず「物体が落下する」という現象に変化が生じるわけではない。ニュートンが「説明」しようがしまいが、リンゴは木から落ちるし、月は地球の周りを回っている。では「説明する」ことには単に知的好奇心が満たされることの他に何の意味があるのだろうか。  その最大の意味合いは、「応用が利く」ようになるということである。「運動方程式」という一般化した公式を導きだすことによって、「リンゴが木から落ちる」のも「鉛筆が机から床に落ちる」のも「投げ上げたボールが放物線を描いて落ちてくる」のも、同じ原理によって説明がつく。あるいは他のものの運動の状況もほとんどこの運動方程式によって説明します。

     これらの「法則」はものの見事に「頭の整理」にも当てはまる。「収納箱」とは思考の整理でいえば「フレームワーク」に相当する。適切なフレームワークを頭の中に持っている人はさまざまな知識が有効に「収納」されているために必要なときにすぐにそれらを引き出すことができる(用途に応じてさまざまな種類を使い分けるのが有効であるのも収納箱とフレームワークに共通する考え方といえるだろう。

     さらに、頭の整理にも「捨てる」ことが重要であることも部屋や机上の整理から学べる。論理的に考える上でも「捨てる」ことは重要である。ここでの「捨てる」とは、「枝葉を捨てる」ことであり、本質に重要でないことを思い切って切り捨てて考えることである。そのための優先順位を明確につけるというのが論理的に考える上でも重要ということだ。「どれが重要か?」という問いに明確に答えられることは部屋の整理でも頭の整理でも重要である。逆にいえば「どれも大事」というのはどちらの整理にとってもNGワードであることがお互いから学べるだろう。

     ビジネスの世界の知見を借りてくる先としてあげられるのは、同業界よりも他業界からというのがむしろアナロジー思考には相応しい。仕事のアイデアを「遊び」から借りてくることも考えられる。ビジネスのアイデアはむしろビジネス以外の領域、例えば落語や歌舞伎といった伝統芸能やお笑いや演劇の世界、あるいは医療や政治の世界など、まったく違う分野に宝が埋まっているかもしれない(そう考えてくると、前述の「知識や経験」も量的なものに加えて「多様性」という質的なものが重要であることが理解できるだろう)。  ビジネス以外のスポーツ界や伝統芸能の世界からアイデアを持ってくるというのは特にリーダーシップや人材育成など、直接的に「人」が関わる分野において多い。これもすべての業界や世界での主役が「人」であることを考えればうなずける結果となります。

     最後に、「尖った極端な世界」からのアイデアを「角が丸くなっている世界」に借りてくるというパターンがある。これは例えば、感情をストレートに表現する子供の世界から大人の世界へのアイデアを借りてくるというのが一例です。

     「○○は××の縮図である」ということがいわれることがある。例えば旅は人生の縮図であるといった表現が用いられる。この場合の縮図というのも1つのアナロジーである。英語では microcosm という表現になるが、これが文字通り「小宇宙」ということを表している。つまりこれは実際の複雑な世界を構造という観点で単純化したものが「縮図」であるということを示している。「縮図」という構造的関係もアナロジー発想を生み出す上での重要な関係性といえるだろう。

    ここで「アナロジー思考」に必須となる「類似性」という概念について考えてみよう。アナロジーで用いるベース領域とターゲット領域を結びつけるのは何らかの「類似性」である。つまり、何らかの形で似ている世界を探し出すというのがアナロジー思考の肝といってもよい。  アナロジーのポイントは、いかに遠くからアイデアを借りてくるかであった。そのために必要なのは、「一見異なるように見えながら、実は似ている」という2つの世界を結びつける力である。ここで難しいのは「一見異なるように見えながら、実は似ている」とはどういうことかである。実はここに人間の知能の基本的な機能である「似ているものを特定する」能力があります。

     ここで示すように、アナロジーの対象として考えられるのが、お互いに構造的に類似している世界で、別のいい方をすればアナロジーにおける「借りてくる」というのは表面的な事象ではなくて「構造とセットで」借りてくるという言い方もできるだろう。

     同様に、どんな世界でも具体的なレベルに着目するのと、抽象化されたレベルに着目するのとではアプローチが異なり、実は一見同じような趣味を持っていても、価値観としては大きく異なる場合もあれば、逆に一見異なるように見える趣味であっても、構造レベルでは同じ見方ができ、価値観を共有できるものもあります。

     3番目が左上の「属性レベルでは似ているが、関係/構造レベルでは似ていない」という表面的類似の領域である。この領域で代表的な例が、言葉の「駄洒落」、世にいう「おやじギャグ」である。  「そんな壊れた時計はほっと けい!」  「このイルカの携帯ストラップほしい人 いるか?」  これらのおやじギャグの特徴を見てみよう。これらは一見関係のなさそうな言葉を関係付けているという点でアナロジーと類似するようであるが、ここまで述べてきた「類似のレベル」で考えれば相違が明確になるだろう。おやじギャグというのは、単に言葉の「音」つまり単純な属性レベルの類似点だけをとらえたものであり、関係/構造レベルではなんらの共通点は見出せないものであり、ある意味アナロジーとは対極の発想です。

    本章では、ここまでさまざまな場面でなにげなく使ってきた「抽象化」という言葉について改めて考えてみる。抽象化思考力とは人間の知的能力の中でもきわめて象徴的な能力であり、アナロジー思考をする上でも最も基本となる思考能力といえる。アナロジー思考が敷居が低い割には「骨までしゃぶる」ためには底知れぬポテンシャルを秘めているというのも、その活用程度が抽象化能力に比例するためです。

    人類がこれまで飛躍的な知的進化を遂げてきた背景にこの抽象化能力がある。個別の経験や知識を一般化して「法則」とすることによってそれらの知識や経験は形に残って共有化されて再現可能なものになります。

    これらの言葉の共通性は、単に1つ1つのものや事象をとらえているのではなく、複数の対象物の「関係性」をとらえていることを示している。つまりパターン認識とはなんらかの関係性を見つけ出すことなのである。  そう考えてくると、これはとりもなおさず前章で議論した「関係/構造」そのものであるということがわかる。つまり「パターン認識」とはアナロジー思考に必須の「関係/構造レベルの類似性を見つけ出す」ことを意味しているのである。パターン認識スキルとは抽象化思考力の応用であり、この能力によって「遠くから借りてくる」ことが可能になるという言い方もできるだろう。

    つまり図解とは、思い切って「プレーヤー」そのものの属性の複雑性を切り捨てて、特定の目的に合わせて本当に必要な特徴、特に関係性だけを抽出するという点で抽象化のためのツールということができる。  先述の自然科学や社会科学におけるモデル化は現象を関係や構造でとらえている1つの例である。こうした○○科学の世界でモデル化の次に行われるのはそれらの関係性を「数式で表現する」ことだが、こうした数式というのは変数同士の「関係性」を示すものに他ならない。個別の事象の個性を切り捨てて初めてこうした関係性を簡潔に表現する「数式化」が成立するのである。この事例は次章で紹介します。

    ■図解してシンプルに表現する  1つ目の特徴は図解が得意であるということである。これは前述の図解の項目で説明済みである。つきつめれば図解の本質とは抽象化によって表面的な属性を切り捨てて関係や構造を明確化することであるから、当然のことといえるであろう。抽象化思考の苦手な人ほど文章や口頭で「長々と」話すことになる。いわゆる「文学的表現」は抽象化思考を行う上ではすべて「枝葉」である。抽象化思考が「理系的」であると思われる原因の1つはここにあるのかもしれません。

    ■極論し、二項対立で考える  2つ目の特徴は議論の中で「極論する」手法を取ることである。極論とは、枝葉を切り捨ててある一点の特徴だけを切り出して議論することであるから、まさに抽象化思考の特徴を活かした手法だと思います。

    ■「格言好き」である  名言や格言を多用する人がいるが、これも抽象化思考の賜物である。名言や格言は、基本的に汎用性が高いから多くの人に引用されるわけであり、そのためには多くの事象の特徴を抽象化して本質をうまくとらえてそれを言葉にしたものとなっているはずです。

    ■たとえ話が的確である  第1章の「アナロジーの目的」の2番目として、他人への説明をわかりやすくするという項目をあげたが、「説明上手な人」のほぼ必須条件としてこの「たとえ話」をいかにうまく使いこなせるかということがあげます。

    ■似顔絵やあだ名をつけるのがうまい  学生時代に先生や友達の似顔絵を描いたり、あだ名をつけるのがうまい同級生がクラスに1人や2人は必ずいたであろう。あるいは社会人になっても同様の能力を持った人が周りにいるのではないかと思います。

    ■「美しさ」にこだわる  数学者は美しさにこだわるといわれる。通常いわれる美しさとは、具象レベルの直接目に見える色あいやデザインのことを指すが、ここでいう「美しさ」は、一般的にいわれる景色や絵画の美しさとは少し異なっています。

    ■飽きっぽく話が飛ぶ(ように見える)  次の特質としていえるのは、抽象化能力が高い人は周りの人から飽きっぽいと思われている人が多いことである。それはなぜか? われわれの身の回りの事象は、表面上の具体性だけ見ているとすべてが違って見えるが、抽象度を上げてみればそれほど違いがないことが多い。つまり「関係/構造レベルで同じもの」は同じと見てしまうのです。

    例えば読書をするにしても、抽象化能力の高い人は抽象度の高い内容に目を向け、その構造を読み解こうとするためにさまざまな本を読んでも同パターンであることにすぐに気づいてしまう。そのためにそれ以上は「学びがない」と解釈して次のものに行ってしまうからである。これは対象がTVドラマでも仕事でも同じ構図である。  またこれに関連した話として、常に事象を抽象化して考えている人の話は一見「飛んでいる」ように思えることがある。これも「見えない共通点を見つけて一見離れた世界を結びつける」のが抽象化思考の特徴の1つであることを考えればうなずける話といえるだろう。

    ここに、アナロジーを有効にしている基本原理が見てとれる。それは、「世の中を動かしている基本原理は数少なくシンプルなものであり、対象物によってその派生が分かれているだけ」ということである。「かばんと予算管理」では「大括りにするか小分けにするか」の考え方がおよそ「分ける」という行為が及ぶどんな世界でも同じ原理が当てはまることを見たが、森羅万象を支配している基本原理というのは実はそれほど数があるわけではなく、限られた基本原理によってさまざまな事象が説明できてしまうことがよくわかるだろう。

    これらの事例は偶然の発見、いわゆる「セレンディピティ」がいかにして起きるかのきわめて具体的なエピソードといえるだろう。素数の世界の研究者は整数論のことに専念し、原子核の世界の研究者は素粒子物理学に専念していたためにお互いの世界にまったく気づかなかったという話はビジネスの世界でも学ぶところが大きいのではないか。  アナロジーが数学の難問の突破口になった例はこれだけではない。やはり100年の長期にわたって数々の数学者を悩ませ続け、2003年にロシアの数学者、ペレルマン博士によって証明された位相幾何学の難問「ポアンカレ予想」のブレークスルーのきっかけとなった「リッチフロー方程式」も、数学者のハミルトンが物理現象を記述する熱伝導方程式からヒントを得たものといわれている。これも数学と物理学の中での一見異なる分野間での「同じ構造」の発見によって新たな知見が生まれた事例となります。

    ただし、ここで注意すべきことは必要なのは知識や経験の「多様性」である。上記の説明から、この場合は同じ経験でも「○○の道一筋何十年」という類の経験よりは、なるべく「種類の違う」経験が重要である。1つの業界よりは複数の業界、それもなるべく「距離の遠い」業界での経験、国内だけよりはなるべく複数の国や地域での経験、あるいは年代や性別の異なる人との会話など、とにかくいろいろな軸での多様性があります。

     発想を豊かにする上で「遊びが重要である」と強調する意見は多いが、これはなぜかという理由の1つをアナロジーの観点から考えてみよう。先に述べた「発想力の因数分解」の公式から考えてみる。これは明らかに第1項の「多様な経験」の1つの例として「遊び」があるというわけです。

     この二者を分けるのが、先の公式の2番目の「つなげる力」である。1つの道を極めた人というのは、その領域での経験や知識が半端ではないし、完結した1つの世界を作り上げる方法論を確立しているから、それが抽象化された形での血肉となっていれば、いくらでも他の世界に応用が可能になるが、単に1つ1つの具体的な知識で終わってはまったく応用が利かない。これが2つのタイプの人を分ける決定的な要因です。

    抽象化思考力がアナロジー思考に必須の考え方であることはこれまで述べてきたとおりである。ここではその抽象化思考力を鍛えるにはどうすればよいのかについて述べる。日本の学校教育でも数学を代表として抽象化思考力の教育はさまざまな形で行われているが、「抽象化」という言葉や概念が前面に出ることはあまりない。その結果として、その科目がどういう意図で行われているかが伝わらぬままに教育が進み、試験のための丸暗記でしのぐことで効果が上がっていないケースも多々あると想像される。  学校教育の中で抽象化能力が最も養われるのは、抽象概念を扱うことによる思考訓練のできる数学ではないか。あるいは物理学の世界での「モデル化」も格好の訓練の場であり、その意味では理系の学生は無意識のうちに抽象化の訓練を行っていることになる。  日本でも「理科離れ」が叫ばれて久しいが、科学者や技術者の不足による科学技術の衰退という直接的な危機に加えて、さらに大きな課題となるのは抽象化能力の弱体化だろう。  ここまで述べてきた通り、抽象化とは職業にかかわらず新しいアイデアを生み出すために必須の能力だからであると同時に、これが世にいう「理系的思考」の最たるものだからである。物理現象をモデル化して説明するのが物理学であるとすれば、ビジネス事象をモデル化して新しいビジネスを生み出すのがビジネスモデルの構築であり、モデル化スキルというのは何も「理系」や技術者に限定されたスキルでは決してない。したがって、特に抽象化能力は斬新な発想をもたらす上でビジネスパーソンにも必須の能力といえるだろう。

    ■「即効性のなさそうな」本ほど役に立つ  抽象化思考力を鍛えるためには、いわゆる「すぐに役に立つ」本とは真逆の読書が有効である。大きな理由は、前述の「実践的トレーニングの功罪」で述べた通りである。いわば「即効性のない」本のほうが役に立つということであるが、これには2つの意味がある。  1つ目は、即効性がない=抽象度が高いということである。  具体性の高い、いわゆるハウツー本ばかりを読んでいては「抽象化能力を上げる」という観点に限れば効果がまったくない。抽象概念を扱うことは、いわゆる「難しい」本、つまり抽象度の高い言葉で書かれた本を読み、そこでいかに自分の身の回りの経験と結びつけて抽象概念のレベルで考え抜けるかということが問われる。数学や哲学の本を読むのはこうした位置付けでも有効である。  「『実践的トレーニング』の功罪」の項で述べたように、具体的かつ直接役に立つものにばかり触れているというのは、消化のよいものばかりを口にしていると自ら咀嚼したり消化したりする能力が衰えていくのと同様である。ひな鳥が親鳥から餌をもらうのと同様に、見知らぬ分野における初心者のうちはそのアプローチは有効であるが、ある時点からはあえて抽象度の高い読み物に触れることが重要になり、それがアナロジー思考力を高めることにもつながってくるのである。  その点において「わかりやすい本」というのは曲者である。要するに「わかりやすい」とは読者側が何も考えなくても理解が可能であることを意味するからだ。  もう1つの「即効性がない」という意味は、自分から「遠い」世界の本を読むということである。これは、アイデア博士になるための因数分解の公式の2つの因数に対しての対策だということがおわかりいただけるだろう。

    この他にも例えば科学の歴史を見ても、ダーウィンの進化論、アインシュタインの相対性理論など革新的なアイデアが発表された時点で簡単には一般に理解されにくかったということの最大の原因が「類似領域がない」つまりアナロジーが効かないということであった。
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    投稿日:2023.10.03

  • うえけん

    うえけん

    関係性や構造を見抜く。
    シンプルに言うと、それがアナロジー思考らしい。
    考え方はとてもシンプルなので理解しやすい。そのため、思考法の解説は短めで、様々なタイプの事例紹介が多い。

    投稿日:2023.07.12

  • まいまゆ

    まいまゆ

    アナロジー思考とは、類推すること。知らず知らずのうちに日常的に行っていました。新しいアイデアを生み出すには、「遠くから借りてくる」=異なる分野のアイデアをその分野に落とし込む必要があることを学びました。また、日頃から抽象化思考能力を高めるために、類似点を見つけることやたとえ話を上手くする訓練が必要だと思いました。途中、わたしには難解な箇所も多く、完全に理解することはできませんでした。続きを読む

    投稿日:2023.05.23

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