ヴィクトリア朝時代のインターネット
トム スタンデージ(著)
,服部 桂(訳)
/ハヤカワ文庫NF
作品情報
かつてない距離を即時に越えるコミュニケーションを可能にした電信。その発明史と、19世紀の欧米社会に与えた大いなる影響を描く
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商品情報
- シリーズ
- ヴィクトリア朝時代のインターネット
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- ハヤカワ文庫NF
- 書籍発売日
- 2024.05.09
- Reader Store発売日
- 2024.05.09
- ファイルサイズ
- 11.3MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (2件のレビュー)
-
『ヴィクトリア朝時代のインターネット』読了。話題の絶版ノンフィクションの復刊。電信という技術が生み出され改良され普及し、社会を変える様が実に生き生きと描かれる。現代の視点から過去を照らすことで結果的に…今を相対化する視座を得るというのは歴史を学ぶ意義にして醍醐味であるよな、と。続きを読む
投稿日:2024.05.16
ヴィクトリア朝時代には、インターネットのように全世界を繋ぐ情報ネットワークが既に存在した。電話以前に普及していた文字通信サービス「電信」をインターネットの前身と捉え、その繁栄と衰退を描きだしたノンフィ…クション。
電信とはモールス信号を使った文字通信のことで、要は今でも結婚式の謎風習として残っているあの電報である。19世紀半ばにアメリカとイギリスでほぼ同時に実用化され、誕生から20年足らずで海底ケーブルが大西洋を横断し、日本にまで電信網が引かれていた。1870年代には2万都市が繋がり、ロンドン-ボンベイ間通信の所要時間は4分!ものすごいオーバーテクノロジーだ。
偉人伝に興味を持たずに育ったため、本書で初めてモールスの経歴を知って今更驚いた。こんな技師でも科学者でもない山師じみたド素人だったなんて、歴史って面白いなぁ。電気が「目に見えない」という理由で心霊と同じ扱いを受けていた時代だから、スポンサーの前で実演してみせても詐欺師や手品師と一緒くたにされるモールスたちがモーセみたいで笑える。降霊術とか神智学会とか千里眼とか盛り上がってたのと完全に同時進行の話だもんなぁ。
電信局のオペレーター周りの話なんかはかなり"インターネット"で、独自に生みだした略語はプログラム言語の先祖のようだし、仕事の合間に上司の目を盗んでチャットしたりオンラインチェスをしたりも今のデスクワークと変わらない。なんとなく女性ばかりのイメージだったけど男女どちらも働いていて(部屋は別)、当時は最先端のイケてる職業だったとか。その後機械化され、猛スピードで信号を読み取る技術職だったオペレーターの地位は下がった。この辺はタイプライターの普及とも関係づけられそう(しかしタイプライターの実用化より電信の普及のほうが早いっていうのも考えてみるとタイムパラドックス感がある)。
情報がスピード勝負の時代になったビジネスマンたちの「通信スピードが上がれば上がるほど楽にならずに仕事が増えるだけじゃねえか!」という叫びはあまりにも21世紀的すぎる。電信誕生以前は新聞屋がニュースを余裕で2日寝かせてた話なんかも面白かった。しかしまもなく電話が発明されると、電信の天下は50年足らずで終わってしまう。
そして時代の中心は電話、ラジオ、テレビへ移り変わる。著者がこれらの音声・映像メディアよりも電信を"インターネット的"だと見做したのは、原書がでた1998年当時はインターネットの大半がまだ文字情報のやりとりだけで成り立っていたからだ。リアルタイムの情報を交換できるようになり、新聞や雑誌などのメディアが力を持ったオンラインテキスト文化。全世界を繋ぐ情報ネットワークが平和をもたらすという無邪気なユートピア幻想。この二つが100年の時を跨いで電信とインターネットを繋ぐ。97年にMITメディアラボ所長が語った「将来子どもはナショナリズムとは何かをわからなくなる」という展望とは真逆の未来にきちゃったけど、それを笑いたくはないなぁ。続きを読む投稿日:2024.06.07
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