全身ジャーナリスト
田原総一朗(著)
/集英社新書
作品情報
90歳の〈モンスター〉が「遺言」として語り下ろす。
「朝生」で死にたい! なぜ僕は暴走するのか?
最高齢にして最前線にいる稀代のジャーナリスト、田原総一朗。
長寿番組『朝まで生テレビ!』での言動は毎度注目され、世代を問わずバズることもしばしば。
「モンスター」と呼ばれながらも、毎日のように政治家を直撃し、若者と議論する。
そんな舌鋒の衰えないスーパー老人が世に問う遺言的オーラルヒストリー。
その貪欲すぎる「知りたい、聞きたい、伝えたい」魂はどこからくるのか。
いまだから明かせる、あの政治事件の真相、重要人物の素顔、社会問題の裏側、マスコミの課題を、自身の激動の半生とともに語り尽くす。
これからの日本のあり方を見据えるうえでも欠かせない一冊!
原一男、佐高信、猪瀬直樹、高野孟、辻元清美、長野智子らが、田原の知られざる横顔を証言するコラムも収録。
【目次】
序 章 僕はなぜジャーナリズムを疾走するのか
第1章 非戦の流儀
第2章 ジャーナリストの心得
第3章 反骨の証明
第4章 不条理の世界に対峙する
第5章 映像の過激派
第6章 テレビと民主主義
第7章 原発と電通
第8章 田中角栄が踏んだ「虎の尾」
第9章 「モンスター」の誕生と転落
第10章 首相への直言秘話
終 章 混沌を生きる方法
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商品情報
- シリーズ
- 全身ジャーナリスト
- 著者
- 田原総一朗
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社新書
- 書籍発売日
- 2024.04.17
- Reader Store発売日
- 2024.04.17
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 336ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (1件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
90歳の現役、これまでを振り返る自伝的な本でありつつもとても未来志向な内容だと思い、とても興味深く読ませていただきました。
レビューの続きを読む
こうやっていきていたら、
長寿も意味があるように思った。
生きている手応え、みたいなのが生きているだけあるような。
・・・
著者がジャーナリストとして守るベきものとして掲げる、三つの原則
1. 日本に二度と戦争を起こさせないこと。
2. 言論の自由を守り抜くこと。
3. 野党をもっと強くして日本の民主主義を強靭にすること。
田原さんの経験を知ることで、さらにこれらの意味することについて深められます。
・・・
1. 日米安保体制における日本の主体性
一章目で力強く述べられていること、
追い続ける政策テーマとしての外交・安全保障。
国家は国民の財産と生命を守るもの。
外交安全保障は政治の肝中の肝、として、
日本政治の中枢課題であるという問題意識ずっと持っていたという。
宮沢喜一元首相からの言葉が引用されています。
それは、
日本は、自分にあった服を作るのが下手、他人の押し付けた服に合わせるのが上手、というもの。
第二次世界大戦は、変に主体性を持ちすぎて、「国家として軍事力のコントロールに失敗した歴史」であるといいます。
そして戦後は軍事力を放棄し、他者に頼る。
冷戦後、
双務的な安保体制を求めるアメリカからの圧力。
これを安倍政権で初めて法制化する。
田原さんがなぜ集団的自衛権を容認する立場をとったのか。
主体性の観点から考えることで、論理が見えてきます。
2016年に安保法制が成立し、当時の安倍首相は、これで憲法改正は不要になった、といったそうです。
田原さんは、不平等なままの地位協定の存在も指摘します。
岸田政権は2022年に安保関連三文書を改定、防衛費増強、反撃力として中距離ミサイル保有を決めます。
国としての日本の主体性のためには、
対立か従属の二分法ではなく、複数の関係を同時に大事にすることだという。
その中で著者が今重要視するのは、対中国外交の活性化。
田原さんの5歳年下の親中派・二階さんのこれまでの活躍にも触れられていました。
2、ジャーナリストの心得
肩書きのない無所属の田原さん。
破ってきたタブーの一つが、拉致問題の生死確認。
私は国民的に知られた被害者、とそうでない人、がいることも知りませんでした。
3、反骨の証明
さらにジャーナリストとしての姿勢について深められている章。
情報はあふれているけれど、5W1Hの中のWHYの部分の追求が、ジャーナリストの力量を試しているようです。
ジャーナリズムの役割は、
「数ある『WHY』の中で何が最も本質的なものであるかを見極める」
ことだと論じられています。
相手に本当のことを言わせる取材力、
真偽を分別する直観力。
一次情報に幅広く直に接することを大事にする。
この姿勢を持ち、経験を積み重ねることでまた、取材力、直観力も身に付けられてきたのだろうと思います。
4、不条理の世界に対峙する
「ドロップイン」とは、森鴎外の立場を表現することから生まれた、田原さんの造語。
体制内に居ながらも、体制を批判する姿勢。
この、権力中枢に近づき、正対するアプローチが、田原さんのジャーナリストの活動の基本姿勢としてあるようです。
もともと小説家を目指していた著者。
才能ない人間の一生懸命は努力でなく徒労だ、と突き付けられたとき、
これまで全力で取り組んできた小説家の夢をあきらめ、ジャーナリストの道を歩む決意をしたエピソードも印象的でした。
__ある道の完全否定は、別の道への全肖定につながるっ僕のなかでそのチェンジマインドが起きたわけだ。若い人に知ってほしいのは、自己否定は必ずしも悪いことではない。
それは新しい道を求めるきっかけにもなり得る、ということだ。(本文より)
本気で取り組んできたからこそ、それができるかできないかを見極められるのかもしれない。
中途半端にしてたら能力がないのか意志がないのか、分からないですよね。
当時盛んとなった実存主義の影響にも触れられています。
これは、不条理の世界に投げ込まれた人間が、現実社会に自らを投入していく、関わっていく、という態度。
投げ込まれたで終わらない、そこから自分の主体性をどう活かして行くか、というところにつながる精神だと思いました。
5、映像の過激派
「シナリオというのは、ある意味、裏切られるためにある」
映像からキャリアをはじめ、他者の録らない番組制作に勤しんた日々がつづられています。
6、テレビ、視聴率民主主義
テレビジャーナリストである田原さん。
たしかにテレビは視聴者が、個々の番組を見るか見ないかを選べるという意味で、直接的な民主主義ですね、
新聞は、新聞社を選ぶ、書かれる内容については新聞社が決めたものしか読めない。
ネット時代にはなんでも読めますが、
田原さんの視聴率に対する考え方が少し伝わってくる章でした。
7、原発と電通
福島の原発問題が起こるずっと前から、
電通の過労死問題や談合問題が取りざたされるずっと前から、
田原さんは原子力、電通に象徴される仲間内経営を追求し、指摘していた。
ライターとしての活躍ぶりを知りました。
8、田中角栄
田原さんの書いた記事の中で特に注目を集めたとされる、田中角栄の事件の真相に関する議論。ロッキード事件の背後にあるアメリカの存在。真偽のほどは定かではない点は指摘されているものの、興味深い視点でした。
1976年の ロッキード事件とは、田中角栄が全日空の航空機選定で外国企業から5億円の賄賂を受け取っていたとして、
1977年に収賄罪の判決。
背景として、
1973年の石油危機、打開のためにアラブに歩み寄るからの日本の中東政策転換。
12月OAPECは日本を友好国と認める。
これがアメリカの意向に反していたらしい。
歴代首相の政権寿命を見ると、アメリカとの友好関係にリンクしている、と。
冷戦時はどこもそうだったのだろうと思いますが、今も一定程度その傾向がありそうですね。
9、テレポリティクスのモンスター
サンプロ、朝生の番組の活躍ぶり。
10、首相への直接秘話
決定権ある人間に迫る田原さん。
何かあったか、という社会的事実だけではなく、関わっている人の思惑や本音みたいなものに迫ることで、「なぜ」を追求する、会話から新しい事実を作っていく、そんな印象を受けました。
社会は、人間が動かしている、という実体験を自ら作って行っていることでもあり。
だからその決定権のある人たちについて知り、発する言葉をともに作る中で、
社会の変革に影響を及ぼすことができる、という手ごたえ感のもとで生きられている。
主体性であり、社会への参加、アンガージュマンですね。
11、混沌を生きる方法
これまで全面的な男性中心のお話でしたが、
意思決定者に女性が圧倒的に少ない、これは良くない、という問題意識も共有されているのが最後の章です。
クォータ制の勉強会をされているとのこと。
また、
33歳以下を対象とした田原カフェも開催。
自分の立場への自省と自覚、そしていつまでも新しいことを学び続ける姿勢、取り入れていく姿勢の実践。
一生現役の生き方に感心します。投稿日:2024.07.15
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