道長ものがたり 「我が世の望月」とは何だったのか――
山本 淳子(著者)
/朝日選書
この作品のレビュー
平均 3.8 (9件のレビュー)
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紫式部研究者の山本氏が「藤原道長の心」を歴史資料や文学、和歌などを基に探る。文学研究者なので歴史学者とはちがったアプローチ方だ。「御堂関白記」や「小右記」「権記」などの歴史資料は最も重要視したが、文学…資料も重要で、心情を知るための一次資料としては和歌は見落とせないという。和歌は詠み手の思いをのせて相手に伝えるコミュニケーションツールでもあり、詞書などにより詠んだ状況が明らかな場合は当事者の証言として扱えるという。
道長は、立ちはだかる権力者の死により「幸運にも」地位が転がり込んだ、と見える。だが、やったぜ、と手放しには喜んでいないと山本氏は見る。兄達の死や甥達の転落、さらには定子には彰子とのからみもありいじわるもし、あげくに死んだ。その疚しさに苛まされたというのだ。道長は仕事の重責でたびたび病に臥し、治る、を繰り返す。当時病は物の怪、怨霊の仕業だとされたが、怨霊こそは自身の抱える疚しさから生み出される恐怖なのだ、という。
この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたる事も 無しと思へば
この歌は道長の「御堂関白記」には記されておらず、実資の「小右記」に記されている。従来は「この世は私のものだと思うぞ。満月の欠けたところもないと思うと」と権力を独占した喜びを詠んだとされたが、山本氏は和歌の解釈としては正しくないという。和歌の型に従い、掛詞や修辞法、見立てや寓意の手法などをふまえ精密な読解が必要だとする。
それに従うと、「世」は「夜」を掛けたもの、「我が世」は「我が世の春」のような人生最高の時を言うと解釈するのが正しいという。「小右記」では、『云く、「誇りたる歌になむ有る。ただし宿構に非ず」てへり』とあり、これは「浮かれた歌」と照れていた、とあることからだ。
歌を詠んだのは紫宸殿の威子立后式のあと、自宅土御門邸での二次会の席で、その時実資、長男・頼通、左大臣・顕光、道長、右大臣・公季、の五人で盃を酌み交わしており、「望月」は「さかづき」の洒落と「后」(月に喩えられる)のふたつをかけているという。この二つの洒落で、
・・后の席は娘たちで満席、そして息子・頼道を盛り立てて盃を交わしてくれる固い結束の大臣たちがいる、今夜は十六夜で満月ではないが、これは満月ではないか、我が人生最高の時だ、と詠んだとする。
しかし、山本氏、「紫式部ひとり語り」のように、俺は~ みたいに一人称で一冊書いてくれないかなあ。
メモ
<婚姻関係> 血が濃い・・
叔母・甥婚、異母姉妹婚、いとこ婚の繰り返し。
道長の兄・道兼は異母姉と結婚している。妻問婚だから母がちがうと一緒に育つわけではなく疎遠だったのかも。後一条天皇は母と妻が同母姉妹。
<倫子、彰子の存在>
道長の出世保全のため全力を尽くす倫子。そして三后同立を促したのは今や太皇太后となっている彰子だった。この二人に興味が湧いてきた。
三后同立をしたいがなかなか踏み切れない道長に、彰子は、道長と摂政頼道を呼ぶと言った。「尚侍立后すべき事、早々たるを吉とすべし」・・威子の立后をはやくしたらいいでしょう。すると道長は「宮の御座すを、恐れ申し侍り」・・いやいや太皇太后様も妍子中宮様もがいらっしゃるのに、恐れ多いことです。というと、「更に然るべき事に非ず、同様のこと有るを以って、喜び思ふべきなり」・・全く憚ることはありません、同様のことが以前にもあったのですから、と堂々と言う。
「御堂関白記」寛仁2年(1018)7月28日
・この時、后は最高位の太皇太后が彰子、次の皇太后が空席で、皇后と中宮にはそれぞれに娍子と妍子がいた。彰子は空席の皇太后に妍子を転上させ、空く中宮に威子を立てようというのだ。すると娍子以外の3人が道長の娘となる。
太皇太后・彰子(現・後一条天皇の母)
皇太后・空席
皇后・娍子(故三条天皇后)
中宮・妍子(故三条天皇后)
↓
太皇太后・彰子(現・後一条天皇の母)・道長長女
皇太后・妍子(故三条天皇后)・道長娘
皇后・娍子(故三条天皇后)・済時娘
中宮・威子(現・後一条天皇の后に)・道長娘
後一条天皇1008-1036
道長の娘
彰子988-1074 一条天皇后・後一条天皇、後朱雀天皇母
妍子994-1027 三条天皇后
威子1000-1036 後一条天皇后
嬉子1007-1025 後朱雀天皇后
<敦明親王の春宮退位>
一条天皇が1011年に亡くなり、三条天皇となった。三条天皇には愛妃・威子(済時娘)との間に、敦明親王がいて春宮と決まっていた。道長にとっては彰子の子敦成親王に皇位をもっていくために、邪魔な存在。だが、ここでも道長の幸運? 敦明親王は自ら春宮退位を申し出た。が、母の威子は不賛成だったようだ。敦明親王は素行が悪く、道長は三条天皇や敦明親王に春宮にふさわしくないとマウントをかけていたが、自ら退位を申し出た。
<ブラックホール化する後宮サロン>
1018年、後一条天皇は11才で元服する。このころ倫子は道長家以外の上級貴族の娘を次々に女房として吸い上げていた。これが紫式部日記で描かれる、女房が上級貴族の娘ばかりで、事務官としては役に立っていない、と記した所以だった。なるほど。
2023.12.25第1刷 図書館続きを読む投稿日:2024.05.20
大河ドラマはまだまだ事件が起こることがわかりました。何人も亡くなるが、何人も生まれ、姻戚関係が広がり巨大ファミリーが築かれるも、ファミリーの幸せと、疫病、怨霊に恐れ慄きながら生きていく様がドラマの見所…でしょうか。「小右記」を記した実資、「権記」を記した行成が道長の観察眼に優れているようでドラマで活躍してほしいです。続きを読む
投稿日:2024.05.11
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