宗教の起源
ロビン・ダンバー(著)
,小田哲(著)
/白揚社
作品情報
科学が隆盛を極める現代においても、宗教は衰えるどころかますます影響力を強めている。ときに国家間の戦争を引き起こすほど人々の心に深く根差した信仰心は、なぜ生まれたのか?そして、いかにして私たちが今日知る世界宗教へと進化したのか?「ダンバー数」で世界的に知られ、人類学のノーベル賞「トマス・ハクスリー記念賞」を受賞した著者が、人類学、心理学、神経科学など多彩な視点から「宗教とは何か」という根源的な問いに迫った、かつてないスケールの大著。待望の邦訳刊行。■ ■ ■集団内に協力行動を生みだす信仰心も、集団の外に対しては反社会的行動の原動力となる。宗教的アイデンティティが国家に利用されるとき、悲劇は起こる。――フィナンシャル・タイムズ紙宗教と人間の生活のあり方は、かくも複雑なのである。本書は、その両方を進化的ないきさつから説明しようと、真に大きな考察を展開しようと試みる大作である。――長谷川眞理子(進化生物学者、総合研究大学院大学名誉教授/「解説」より)■ ■ ■
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この作品のレビュー
平均 4.5 (15件のレビュー)
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無神論者、いや何でも受け付ける人が多い日本。
私も例外ではないが、宗教は身近で興味はある。しかし、いつ・なぜ発生したは知らない。
古代交流のなかった地球上の各地で、あらゆる自然現象や自身の周りで起こ…る出来事に対し超人的な何かがあると畏怖する心が芽生え、それが意図せずアミニズムやシャーマニズムにつながり、宗教に至るのは、まるでヒトの遺伝子に組み込まれているようで何とも不思議だ。
著者のロビン・ダンバー氏は、もともとサルの仲間の社会行動を研究する霊長類学者であったが、その後ヒトという生物が持っているヒトに固有の性質、即ちヒトの本性は何であり、なぜこのように進化したのかを研究する、進化心理学者になったとのことだ。
彼は、ヒトが真に親密性を感じて暮らすことができる集団のサイズには上限があり、それはおよそ150人であるという。(=ダンバー数 これが世界的に評価され「人類学のノーベル賞」と称されるトマス・ハクスリー記念賞を受賞)
ダンバーは、もともと、脳の新皮質の大きさから、その動物が処理出来る社会情報の限界を計算し、ヒトの場合は150人だという数字を導き出した。人類の進化史の90%以上において人類は狩猟採集生活をしていたが、この暮らし方では、15人くらいまでの小さなバンドで日常的に生活し、バンドが寄り集まって部族を形成してきた。
そしてその最大サイズは、およそ150人だとわかってきたらしい。
人類は、およそ1万年前に農耕・牧畜を始め、定住生活を始めた。そこから都市が形成され、文明が生まれた。つまり150人以上の数の人々が集まって暮らすようになったのだ。これは脳の自然な認識の限界を超えた数である。それを可能にしたものの一つが、宗教的信条を同じくする人々の結束であったのではないか。
「同じ私たち」という感覚を想起させ、一緒にいそしむようにさせる、それを可能にした重要な要素が宗教だったのではないかと言う。
では、なぜ宗教というものが出てきたのか、なぜそれは広まるのか?それはヒトが持っていた脳の働きに起因すると言う。
ヒトという生物は、自己と他者を認識し、自分の心が自分の状態を作り出していることを認識するとともに、他者も他者自身の心を持っており(メンタライジング、マインドリーディング)、それによって行動を決めることを知っている。そして、自分と他者とを脳の中でシミュレーションすることによって、自分に起こったことではなく、他者に起こったことを、まるで自分に起こったことであるかのように、他者に共感することができる。
また、ヒトは、このような想像とシミュレーションを働かせることにより、あまり原因がよくわからないことが起こった場合に、何か、自分たちとは異なる能力を持った存在がいて、それらの存在がそんなことを起こしているのではないか、と想像することができる。そして、それを他者に伝え、他者もそれに同意することができる。
では自分たちとは異なる能力のある何かが存在する、という感覚はどこから来るのだろうか?
それには、トランス状態というものが大きな役割を果たしている。踊り続ける、歌い続ける、ということをすると、脳内のエンドルフィンなどの伝達物質の分泌が変化し、「奇妙な精神状態」になるのだ。つまり脳がなせる技なのだ。
まとめると、
ヒトには、宗教を生じさせる脳内の基盤がある。しかし、それは、宗教を生み出すことが主眼で進化してきたのではない。物事の因果関係を推論すること、物事の原因として他者の心を想定すること、そのような解釈を、他者と共有すること、などが人類の進化史上、重要だったからこそ進化した。それが集まると、宗教というものがおのずと創発してしまうのだろう。そして、一度そういうものが出現すると、今度は、それが新たな意味を持ち始める。それは大きな集団をまとめる力にもなり、思いを同じくしない「他者」を攻撃する理由にもなる。これは宗教戦争が示している。
宗教的集団は、大きくなると「組織」になり、政治・経済と結び付く。
未来の人類は、あるいは脳は、どう対応すべく進化するのだろうか。続きを読む投稿日:2024.05.16
宗教がなぜ生まれてきたのか、脳内でのエンドルフィンの分泌作用、人口増加による集団の防衛、集団の統率など、様々な実用的な目的で発達してきたという仮説。
神秘的な観点ではなく、必要があったから生まれてき…たという客観的な根拠にも依拠する説明は目から鱗が落ちる読書体験でした。続きを読む投稿日:2024.03.22
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