あやとりの記
石牟礼道子(著)
/福音館書店
作品情報
幼子のみっちんは、火葬場の隠亡「岩殿」、“あいさつのよい”大男の孤児「ヒロム兄やん」、それにいつも懐に犬を入れた女乞食「犬の仔せっちゃん」など、人間の世界のかたすみで生きているような人々にみちびかれ、土地の霊たちと交わってゆく。しいたげられがちな人こそが「よか魂」をもち、魂のよい人間ならば、神さまと話すことができるのだという世の神秘が、あたたかみある熊本方言とともにつづられてゆく。
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この作品のレビュー
平均 4.5 (5件のレビュー)
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当時福音館の雑誌「子どもの館」に連載され、「児童書」に分類されているのだが、 実際に読むのは児童ではなく親だろうけれど、 これを子供が読んだらなんと贅沢な読書体験だろうと思う。
***
不知火に住む…みっちんは、海と山に囲まれた村に住んでいる。
村の人々たちは人間以外の海や山の”あのひとたち”の気配を感じている。
あのひとたちは八千万憶の世から来らいました方々。
あのひとたちの歌が聞こえてくる、 山のものと海のものが入れ替わる時は喧騒が起きる、人々を助けてくれることも、悪さをすることもある。
山というのはなんと多くものを養っているのか、山と海とは入り混じりあい、山が海のものを養っているのか、海が山のものを養っているのか分からないくらいだ。
そしてみっちんの側には”半分神に近い人たち”がいる。
祖母おもかさまは盲目で気狂い。三歳の子と八十のめくらさまとの魂とは確かに交じり合っている。
一本足の仙造じいさまは、”山のあのひとたち”の使い人だと言われている。
火葬場の隠亡(おんぼう)の岩殿は一人で死人さんを火葬して弔っている。
海や川を流れてきた赤子の死人さんの葬儀をしながらみっちんにいう。
「この世に来るのは、おたがい、難儀なこっちゃ、大仕事じゃ」
犬の仔 (いんのこ) せっちゃんは、懐に犬の子を入れての山を流離っている。ある時その懐に人間の赤子を抱いていた。産めたのは龍神様とそのおつかいが手伝ってくれたからだという。
大男のヒロム兄やん(あんやん)は、大きすぎる体に小さすぎる着物を巻きつけて、会う人会うものに丁寧挨拶をする。挨拶を忘れられた者は、自分はヒロム兄さんに見えないものになってしまったのではないかと思う。
みっちんはあのひとたちの気配を感じて歌を聞くと、まるで魂が半分天の方に行ってしまったような、自分が魂だけになってしまったような気持ちになる。
そして本当に魂だけになりたいと思うことがある。
村の子供たちがおもかさまや犬の仔せっちんに石を投げつけてくるのを見るのはつらい、そしてあのひとたちが酷い歌を歌ってくるのを聞くのは怒りを感じる。
みっちんはたとえあのひとたちであっても、間違いは間違いだと思っているのだ。続きを読む投稿日:2018.06.22
結局、幼い道子とおもか婆さんは登場するが、それ以外の家族は出てこなかった。みっちんしゃん、みっちんしゃんはいろんな人とお友だちだ。同じ年代の子どもたちとは付き合わない。村人たちと少し距離を置いた不思議…な人たちとばかり関わっている。ヒロム兄やんといっしょに行った桂の大木の洞は、トトロの楠を想像させる。迫んたあまとは何者か。山の森の木霊たちか。80歳になった畑仕事をしている婆さまとの会話が楽しい。うとんすぐりわらとは何者か。もたんのもぜ? ガーゴのこと? ガーゴも分からない。それはいったい何者か。ぽんぽんしゃら殿とははたまた何者か。後半にいくと、もうなにやかや不思議な世界ばかりが登場する。前半の、岩殿や仙造やん、そして馬の萩麿あたりの話がおもしろい。片足の仙造やんが川の中で垢を落としている様子をこっそり見ているみっちんしゃんがとてもかわいい。少し照れるところがいい。脛毛にくっついてくるエビを捕まえる様子を見ているみっちしゃんはもうわくわくしていたことだろう。一番つらいのは犬の仔せっちゃんの話。いったいその赤子は誰の子だったのだろう。その父親である男のことを想像すると何とも腹立たしい。そして、せっちゃんをいじめる悪ガキども。みっちんしゃんが必死の思いで助けに入るところ、一番感動的なシーンだった。なにやら不思議な人物が登場する、ふしぎなふしぎなお話でした。「椿の海の記」と同じ時代ではあるけれど、もっともっと子どもの視線で、子どもと一部の大人にしか見えないものを描こうとされたのだろうな。そしてそのころにはまだこういう世界があったのだ。僕が子どものころにギリギリ見えたもの。そしていまの日本にはもうどこにも存在しないだろうもの。続きを読む
投稿日:2023.06.19
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