デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
河野啓(著)
/集英社文庫
作品情報
両手の指9本を失いながら“七大陸最高峰単独無酸素”登頂を目指した登山家・栗城史多氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ、SNS時代の寵児と称賛を受けた。しかし、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。彼はなぜ凍傷で指を失ったあともエベレストに挑み続けたのか? 最後の挑戦に、登れるはずのない最難関のルートを選んだ理由は何だったのか? 滑落死は本当に事故だったのか? そして、彼は何者だったのか? 謎多き人気クライマーの心の内を、綿密な取材で解き明かした第18回開高健ノンフィクション賞受賞作!
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商品情報
- シリーズ
- デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
- 著者
- 河野啓
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2023.01.20
- Reader Store発売日
- 2023.03.02
- ファイルサイズ
- 0.6MB
- ページ数
- 384ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (26件のレビュー)
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なんと言ったらいいのか…
登山の本を読んでいたら名前が出てきた人で、どんな人だったんだろうと思って読んだ本。一気に読めたけど、読後感をなんと言ったらいいのか分からない。衝撃的な内容で、読んだあと暗い気持ちになってしまった…
投稿日:2024.05.18
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著者の河野啓(1963年~)氏は、北大法学部卒、北海道放送のディレクターとして、ドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などを制作。『北緯43度の雪』で小学館ノンフィクション大賞(2011年)、本書で開高健…ノンフィクション賞(2020年)を受賞。
栗城史多(1982~2018年)氏は、北海道生まれ。2002~09年に、6大陸(北米、南米、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、南極)の最高峰、世界6位の高峰チョ・オユー、7位の高峰ダウラギリに登頂し、その後、2009~17年にエベレストに7度挑む(様々なルートで)も敗退、2018年に8度目の挑戦に失敗した下山中に滑落死した。35歳没。「単独無酸素」を謳うとともに、自らの登山の様子をインターネットで生中継することを掲げ、また、「冒険の共有」をテーマに幅広く講演活動等も行った。
本書は、2008~09年に放送局のディレクターとして栗城氏を取材し、TV番組も制作した著者が、栗城氏及び氏のエベレスト挑戦とは何だったのかについて、氏の死後に取材を行い、描いたものである。2020年出版、2023年文庫化。
私はノンフィクション物を好み、登山に関する本も、これまで、植村直己、山野井泰史・妙子、長谷川恒男、竹内洋岳等、少なからず読んできた。栗城氏については、高所登山をインターネット中継する新世代の登山家として認識はしていたし(ただ、不覚にも、氏を取り上げたTV番組を見た記憶はない)、本書が様々な議論を呼んでいることも知ってはいたのだが、今般、遅ればせながら読んでみた。
読み終えてまず感じた、というか、気になったのは、ノンフィクションにしては、構成が複雑だということである。時間の前後関係や、誰が言ったこと・感じたことなのか(栗城氏なのか、取材相手なのか、著者なのか)が、少々わかりにくいのだ。
そして、そのことは、本書の目的・本質にも関係している。解説でTBSのディレクター・金平茂紀氏は、「これは、称賛と批判のはざまで、さまざまな評価があったひとりの登山家の人生を活写したノンフィクションにとどまる作品ではない。それ以上の、あるいは「共犯者」としての自己を深く問い詰めながら、マスメディアという社会機能が抱える残酷さ、非情さに向き合う「内省録」ではないかと諒解した。」と書いている。
そう考えると、主人公である栗城氏については、氏が、登山家である以前に、一人のエンターテイナーであったと考えれば(事実、氏は高校卒業後、山登りを始めるより先に、お笑いタレントを目指してよしもとNSCに入学しているのである)、言動の多くは理解ができる(賛成するという意味ではない)ような気がする。ただ、氏にとって想定外だったのは、「登山(家)」の世界には、長年の歴史を背景としたカルチャーや暗黙のルールが存在し、かつ、それらは、ぽっと出の若者に侵すことの許されない、神聖・厳格なものだったということである。栗城氏の登山が本当に「単独」、「無酸素」だったのかに関しては、多くの議論がされているようだし、本書の後半でも分析が為されている。8回目の敗退時にエベレストで死んだということに関しては、そこが自分の死に時・死に場所と思ったのではないかという、何人かの取材相手の意見と、私は同感である。
また、マスメディアの一員としての著者については、随所に後悔とも自省とも受け取れる記述があるのだが、マスメディアが対象(物)のイメージを創造する力というのは極めて大きく、それゆえに、マスメディアは、対象(本件では栗城氏)に対しても、視聴者に対しても、より責任を自覚する必要がある(あった)のだろう。最近改めて話題になっている、小池東京都知事の学歴詐称疑惑なども、マスメディアの責任が問われるべき(長年疑惑を指摘されていながら、メスメディアは敢えてその確認を怠ってきた)、同根の問題である。
私は、既述の通り、栗城氏についての予断は持っていないし、本書を読み終えた今も、ネットに溢れているであろう栗城氏や本書に対する賛否の意見・情報はほとんど見ていない。
そうした立場で、少し冷めた言い方をするなら、「こんな若者がいたのだな」といったところではあるが、機会があれば、氏の書いたものも読んでみたいと思う。
(2024年5月了)続きを読む投稿日:2024.05.13
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