この作品のレビュー
平均 4.3 (7件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
オベリスクによって晶洞を破壊されてしまったカストリマの人びとは、無人になったレナニスの街を目指す。アラバスターと同じく体が石に侵食されはじめたエッスンは、彼女らと共に移動しながらも早く娘の元へ駆けつけたいと考えている。一方、ナッスンは守護者のシャファと共に〈見出された月〉を離れ、地球の裏側にある古代都市の遺跡へと旅だつ。そして遂にホアが自らの過去を語りはじめる。〈破壊された地球〉三部作最終巻。
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前作を読んでから1年半経っているので内容をほとんど忘れちゃってて、正直「???」になってしまった。でも今作を読んだあとに読み返すオベ門の面白いこと!思わせぶりに謎めいていたアラバスターとの会話や、カストリマの動力装置をめぐるトンキーの考察など、そういうことね!と。そうして再度今作を開き、ホアの記憶のクライマックス部分を読み返してやっと要点が掴めた。『第五の季節』から各章の終わりに付いていた石伝承や古文書の抜き書きも、もう一度読み返したくなってくる。
最終巻で一番わくわくしたのは、ホアが語る古代文明シル・アナジストの様子と、その遺物を使って地球内部を移動するナッスンの旅だ。本シリーズの地底旅行はどれだけ鉱物まみれになるのかと思いきや、シル・アナジストの遺物は動物や植物を改造しまくったシュルレアリスティックな生命体なのだ。ホアの打ち明け話によって、〈鉱物パンク〉だと思ってた世界観が〈生命エネルギーパンク〉に反転する。そこから逆説的に「石も生命を持っている」「地球も意思を持っている」と畳み掛ける。有機的なようで非人道的なユートピアをつくりだしたシル・アナジストの魔法は、科学の発展と同じ道をたどって優生思想にたどりついてしまう。
個人的に、このシリーズのすごいところは主人公への厳しさだと思う。エッスンが過酷な目にあうというだけではなく、どこで間違い、何を見誤り、誰に謝罪すべきなのかを常に厳しく問い質していく。今作では〈季節〉がはじまってからのオロジェンはむしろ英雄だったのだ、という伝承が発掘されていくが、それが鼻につかないのは、エッスンもナッスンもひとつひとつの選択を常にジャッジされる緊張に身を置いていることが読者にはわかっているからだと思う。
そしてこのシリーズ一番の魅力は、ホアの語りが持つ”声”だと思っている。饒舌だが硬質で、アフォリズムめいた言葉がリズム感よく畳み掛ける、エモーショナルな文体。エッスンに対する厳しさも、二人称の呼びかけを地の文に採用したからこそ効果的になっていると思う。読者が一番近しく感じる地の語りをホアが担当することで、〈石喰い〉と呼ばれるようになってしまった人びとの”人間性”がグッと伝わりやすく、説得力あるものになっている。私が前作の設定をすっかり忘れながらものめりこんで読んでしまったのはこの文体の力によるものだ。翻訳も素晴らしいと思う。
ただ、『天冥の標』と併読していたので、この技術力を持ったシル・アナジストがなぜ宇宙開発に乗りださなかったのか不思議で仕方なかった。特に『第五の季節』のラストで大興奮した、月の不在という謎の種明かしがちょっと期待外れだった。鉱石幻想の集大成のような月をめぐるファンタジーが読めるものと思っていたのだ。
ジェミシンがこのシリーズをあくまで地球の物語として完結させた意図はわかる。シル・アナジストは地球を所有物と考え、奴隷化しようとした。地球が人類に復讐する論理と、アラバスターたちオロジェンがスティルネスに抱く恨みは完全にシンクロしており、〈季節〉は復讐の連鎖から生れでた。ここにはっきりとエコロジカルなメッセージが埋めこまれている。
また、藤本和子の『塩を食う女たち』『ブルースだってただの唄』で知った黒人女性のスピリットが今作にも漲っている。劣等感を抱きながら生きることを当たり前と思いこんで暮らしてきた人びとの苦悩と怒りが、エッセンシャルに昇華されたパワフルな三部作。いま出会えてよかった。投稿日:2023.03.01
(オベリスクの門 のレヴューからの続き)
読み終わっても当分余韻引きずるくらい好きだったので
この作者が合うんだろうと(実際私自身が40歳くらいのおばさんですし・・・)
同じ作者の他の作品も読もうか…な~とか思わないでもないです。
でもきっとこの3部作が一番好きだと思います。たぶん。続きを読む投稿日:2023.12.18
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