ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件
藤井 保文(著)
/日経BP
作品情報
■書籍紹介 / 著者・藤井保文よりメッセージ
「ジャーニーシフト」とは、顧客提供価値が時代によって変質したことを示した言葉です。一文で示すと以下のようになります。
顧客提供価値は、「モノや情報の提供」「瞬間的な道具としての価値」から、ありたい成功状態を実現させ、行動を可能にさせる「行動支援」に変わっている。
これは言い換えると、「ユーザにとって何かしらの行動やアクションを可能にしていなければ、企業として何の価値もない時代」になってきているということでもあります。自分の中でどれだけ受け止め、理解したり解釈したりしても、世の中に対して発信や貢献をし、社会やコミュニティーに干渉しないと、意味がない時代になってきているのです。
本書は、世界の潮流から新たな変化を読み解く本です。社会のビフォアアフターを書いたこれまでのシリーズに対し、提供価値のビフォアアフターを書いたものがこの『ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件』です。
DXやOMOから、SDGsやパーパス、Web3やメタバースなど、次々と現れるバズワードは、1つの大きな潮流【提供価値の行動支援化】を示しており、その中には2つの特性【利便性の進化・意味性の進化】があります。本書を通してこれらを整理し理解することが、変化の速い時代の道しるべになるのではないか、と考えています。読んでくださった方の仕事や生き方において、さまざまなバズワードに埋もれて身動きが取れなくならないよう思考しアクションしていくための、コンパスや道具になることを願っています。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (11件のレビュー)
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アフターデジタルの続編がついに出た!というっことで、
さっそく読んでみました。
※アフターデジタル
https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/429610…1625#comment
※アフターデジタル2
https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/4296106317#comment
中国の事例でセンセーションを起こしたアフターデジタルですが、
今回はインドネシアの事例から始まります。
インドネシアの事例なんて、普通の人なら中々知る機会がないでしょうから、
とても興味深いと思います。
さらに、山口周さんの理論を用いながら、
これからのデジタルの世界観について論じています。
※ニュータイプの時代
https://booklog.jp/users/noguri/archives/1/447810834X#comment
ウェブ3に対する著者の見解もユニークで、
とても興味深かったです。
これを読んだからといって、
自社のサービスのUXのデザインを構築できる訳ではないですが、
全体感を理解する上では貴重な一冊だと思います。続きを読む投稿日:2023.01.02
まず何より重要なのは、インドネシアで見たのは「社会ペインへの注力とその解き方」であって、日本では全く異なる社会ペインを抱えているため、それを明らかにしてアプローチしなければならないということです。
…
▪️利便性は共有され、意味性は所有される
UXづくりやサービス設計、価値創造においては、「利便性」と「意味性」の特性の違いを捉えることが重要です。端的に言うと、「利便性は共有され、意味性は所有される」ということになります。詳しく説明していきましょう。
利便性は、「合理的な指標」で評価されます。例えば、いつでも、どこでも、誰でも、または、安い、速いといったマスでも分かりやすいものです。例えば、ペイメントアプリはすべてのお店で使えたほうが便利ですし、タクシーはいつでもどこでもすぐにつかまったほうがいいですし、配達はなるべく早く届けてくれたほうがうれしいです。
利便性においては、シェアリングのような共有の仕組みや、APIのような連携の仕組みは非常に有効に働きますし、なるべくオープンに広〈共有・連携されていると効率よくなります。
近年のテック系ワードで言えば、スマートシティー、MaS、フードデリバリー、ペイメント、スーパーアプリといったトピックは利便性レイヤーでの進化やイノベーションだと捉えられます。「1つの大さいサービスにまとまっていたほうが楽なのか、複数の小さいサービえがあったほうがいいのか」と考えるとよいでしょう。前者が「利便性」で、後者が「意味性」です。
「OMO」というキーワードは、利便性の進化を代表する言葉であると捉えられます。OMOは中国で生まれた言葉ですが、その原義からするとオンラインとオフラインが融合することでフードデリバリーやネットスーパー、シェアリング自転車などが登場し、オンやオフをいちいち考えなくてもそのときに選びたい一番便利な方法が選べるという、圧倒的に利便性が高まった状況を指していました。第2章のサンポ・ヒエタネン氏の発言を考えても、オープンになることや協調することで生まれる利便性の価値を指しています。
つまり、なるべくオープンで、なるべく多くの人を巻き込み、共有・協力・連携できることで価値をどんどん大きくしていきます。
これに対し意味性は真逆で、所有や優遇など特別感を抱く方向に進むことで価値をどんどん大きくしていく性質を持っています。ユーザーが次のようなことを重視する場合、それは意味性に該当します。
・どれだけ自分らしさを表現することができたか。
・自分が特別な立場にあり、それをいかに周囲に証明できるか。
・普通の人に分からない価値を理解し、数少ないその価値が分かる人にどれだけ賛同や称賛をされるか。
・自分が好きなコミュニティーにどれだけ貢献したか。
・自分の着てきた服のコンテクストやメッセージを理解して受け取っ てくれるか。
このように、限られた人しか分からない・選ばれない、またはお金 で買いたくても買えないといった、優遇や特別感、唯一無二感が意味 性につながります。自分一人だけが分かっていればよいかというとそ うではなく、同じ価値を理解してくれる仲間や、同じストーリーを追 いかける仲間がいることは重要なのですが、多ければ多いほどよいと いうわけではありません。選ばれし人たちが分かり合えるような、他 にはないコミュニティーをつくっていたのに、そこに誰でも入れるよ うなオープン性を持たせてしまうと、唯一無二感が失われて興ざめしてオリジナルメンバーは去ってしまいます。どんなに意味があるもの でも、無料で誰でも手に入るものになったら、それは意味性を失いま す。テスラやフェラーリが安価で誰でも持てるものになってしまえば、 今のような価値は感じられないでしょう。
近年のテック系ワードで言えば、NFT、Web3、メタバース、コミュニティー、D2Cといったトピックは「意味性を進化させる」という 文脈で特に重要な技術や手法であると捉えられます。メタバースで自分だけのアバターや家をつくったり、限られたNFTを所有したり、 限られた人しかメンバーになれないコミュニティーに参加できたり、 自分の好きなブランドに名指しで呼ばれて商品開発に関われたり、そ れらはすべて意味性の価値増幅だと言えます。
つまり、なるべくクローズドで、なるべく一緒に熱狂し、理解し合える限られた人数のみを巻き込み、その小さなコミュニティーの中では共有・協力・連携がされたとしても、基本は所有・排他・独立できることで価値をどんどん大きくしていきます。
顧客提供価値が、「モノや情報の提供」「瞬間的な道具としての価値」から、ありたい成功状態を実現させ、行動を可能にさせる「行動支援」に変わっている。
オンラインとオフラインが融合するアフターデジタルの時代には、UXが圧倒的に重要になります。その理由は、「行動データによる顧客理解の解像度向上」と「一連の行動フローの支援」という2つの大きな環境変化が起こり、ビジネスのルールを書き換えてしまうからです(図表4-1)。
実際に、ユーザーの行動を横断的に支援するような動きも増えてきています。例えばスバルは、オススメのドライブコースを紹介する「SUBAROAD」というアプリを提供しており、これはクルマという製品にとどまらず、計画立案のステップからの支援と捉えることも可能です。またホンダは、短いムービーをつないで思い出ムービーをつくれる「RoadMovies+」というアプリを提供しており、これも先ほどの図で言えば「思い出化」を支援するようなサービスです。
▪️視点転換や視点を増やすためのポイント
・行動支援の時代は、顧客にとっての「あなたの会社やサービスとっながり続ける理由」を問い直す必要がある。
・顧客にとっての「つながり続ける理由」とは、「どのような行動フローを押さえ、どのような顧客の成功を実現しているか」を指しており、提供価値の再定義が必要になるケースが多い。
・提供価値を再定義するには、社会に存在する「ペイン」を、自社の価値提供が可能な範囲で、幅と深さの観点を持って探す必要がある。
・ペインのある状況やドメインがある程度見えたら、「ペインが発生している状況とその構造」をより詳細に理解する。
多くの企業の中期経営計画などには、この「顧客から見た、つながり続けたい理由」が書かれていることがあまりありません。戦略上、書かないようにしているだけならよいのですが、多くの場合、テクノロジーとビジネスの観点はあるのに、ユーザーやエクスペリエンスの観点がないのです。なぜなら、これまでの成功体験が「使われて当たり前」であったため、つながってくれる理由や使われる理由をわざわざ問い直す必要がなかったのです。しかし選択肢が増えた現在、提供価値のDXを遂行するには、「つながり続けたい理由」の言語化から行う必要があります。
*この「つながる理由」については、奥谷孝司さんと岩井琢磨さんの書籍「マーケティングの新しい基本 顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント」(2022年、日経BP)でカスタマーパリューピラミッドの最上位とされています。顧客の日常の中に存在するには、単なる機能的な価値や体験価値だけでは一次的な関係に終わってしまいますが、さらに上の「つながっている価値」に到達すると、顧客とのつながりが強くなり、リテンションが高確率で引き起こされるようになる、としています。
「つながり続けたい理由」をもっと顧客視点の言葉にすると、「自分が求める成功に対して、どのようなアクションを可能にしてくれているか」となります。逆に言えば、成功のためのアクションの実現を支援してくれない(または支援が完了した)場合は、顧客から見てつながり続ける理由がなくなることを意味します。アクションの実現を支援してくれているからこそ、自分の理想的な状態や、すでに当たり前と考えている状態を維持できるわけです。
一方、顧客視点の「自分が求める成功に対して、どのようなアクションを可能にしてくれているか」を企業視点にすると、オンラインとオフラインが融合したアフターデジタル時代においては「どのような顧客の成功を実現するために、どのような行動フローを押さえているか」になるでしょう。
「顧客にとってのつながり続ける理由」を考えることが有意義なのは、自社の視点から顧客の視点に移しながら、時間軸を長くし、業界の枠を取り払えるからです。顧客からするとさまざまな選択肢があり、企業からすると同業他社だけが競合ではありません。生活の中で一瞬現れるが、その後は二度と現れないとなると関係構築になっていないですし、行動支援のジャーニーにもなっていません。
提供価値の再定義や実際の事業づくりが進む中で、この問い(「顧客がつながり続けたい理由は何か?」)に立ち返ってチームで考えるだけで、視点が顧客側にシフトしていくと思います。続きを読む投稿日:2024.03.30
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