ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~
J・D・ヴァンス(著)
,関根光宏(訳)
,山田文(訳)
/光文社未来ライブラリー
作品情報
2016年、無名の31歳の弁護士が書いた回想録がアメリカでミリオンセラーとなった。「ラストベルト(錆ついた工業地帯)」と呼ばれる、かつて鉄鋼業などで栄えた地域の荒廃、自らの家族も含めた貧しい白人労働者階級の独特の文化、悲惨な日常を描いた本書は、トランプ現象を読み解く一冊として世界中でセンセーションを巻き起こす。2020年、ロン・ハワード監督によって映画化もされた歴史的名著が、文庫で登場!
もっとみる
商品情報
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 光文社
- 掲載誌・レーベル
- 光文社未来ライブラリー
- 書籍発売日
- 2022.04.20
- Reader Store発売日
- 2022.04.12
- ファイルサイズ
- 2.2MB
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.0 (6件のレビュー)
-
1984年にアメリカの白人労働者階層として生まれた著者が半生を綴った回想記。著者のバックグラウンドとなる生前の家族史にも触れる。労働者階層を抜け出すことに成功し、アメリカ国内で分断された二つの世界を知…るにいたった著者が、現代アメリカの白人貧困層の問題を考察する。「ヒルビリー(田舎者)」は白人労働者階層の謂いの一種で、類語として「レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」がある。本文約420ページ。文庫版独自の要素はない。
全15章にわたって時間軸に沿って家族関係中心に著者の人生を振り返る。第1章は著者の祖父母のルーツであり著者にとっても思い入れのある土地である、ケンタッキー州南東部の炭田地域にあるジャクソンの紹介に始まる。そして、あまりにも早い妊娠のためにジャクソンを逃れた祖父母がたどりつき所帯をもったミドルタウンは著者とその母が住む町であり、本書の主要な舞台となる。
ラストベルト(さびついた工業地帯)に位置する著者が育ったミドルタウンは工業衰退の影響も大きく、荒んだ環境にある。著者がとくに振り回されたのは、次々と夫やボーイフレンドを取り替え、薬物依存におちいる母親であり、不安とともに成長期を過ごす。ただし著者にとって幸運だったのは、彼を愛して貧しいながらも労働者階層から抜け出すための手助けを惜しまない強烈なキャラクターの祖母や、優しくしっかり者の姉があったことだった。本書の三分の二ほどまでは、複雑な家庭環境に翻弄されて一時は学校生活からのリタイアの危機にもあった著者が、祖母の助力もあって高校を卒業するまでを振り返る。
その後、学費免除の目的も兼ね、思うところあって入隊した海兵隊での4年間によって自信をつけた著者が、大学生活を経て、さらにはほとんどの入学者が富裕層で占められる名門法科大学院に入学し、労働者階層からの脱却を果たして「アメリカンドリーム」を実現するまでを描く。第11章の大学入学以降は、白人労働者階層以外の世界を体験した著者が見た、同じアメリカ国内でも文化的にはっきりと分断された、貧困層と中流層以上の世界の格差や、政治について考察するエッセイとしての記述が増えていく。とくにエリートが集う法科大学院在学中に著者が受けるカルチャー・ショックの数々は印象的で、私自身のアメリカ人のイメージが富裕層や中流層寄りであることにも改めて気づかされる。
現代アメリカを舞台にした私小説的な面と、その背景となっている社会を分析する要素をあわせもつ著作として読むことができた。著者自身の人生経験や、所々で紹介される社会学的なデータから、環境が人に与える影響の大きさがありありと浮かぶ。ふたつの世界を経験したことで、著者による現代のアメリカ社会への思いも一面的ではなく複雑だ。そこには、貧困層の実情を知らずに政策を実行する権力者たちの無理解への批判と、怠惰に生活保護受給費で暮らすことに慣れきった一部の住民たちへの嘆きが混在する。そして、白人貧困層への画一的な解決策の存在については、もっとも明確に否定される。
「多くの生徒にとって本当の問題は家庭内で起こっている(あるいは起こっていない)ことにある、という事実を認識しなければならない」
白人労働者階層が抱くリベラル派への反感や、巻末の解説で補足されるトランプ元大統領への共感については、本書が啓発するポイントとして特徴的だ。弱者救済を掲げながらも、知らず知らずのうちに表れる上から目線で独善的な姿勢への密かな反発は、アメリカや政治といった枠に限らないとも思える。続きを読む投稿日:2022.04.28
最近、貧困や格差、そして分断が社会問題として語られることが増えてきた感じがするのですが、その根底にあるものが少し透けて見える一冊です。
この本は白人労働者階層出身のアメリカ人の著者が2016年に発表…した回想録。離婚を繰り返すシングルマザーの母に悩まされ続けてきた著者が、祖母との生活の中で精神の安定を取り戻し、海兵隊から弁護士になるまでを、社会の問題点とともに綴ります。
社会問題云々は置いておいて、普通にエッセイや読み物として読んでも面白かった。いわゆるアメリカの白人労働者階層の人間観、家族間、そして文化。そうしたものも新鮮だし、著者の子ども時代はかなり波瀾万丈で、こう言ってはなんだけど読み応えがあった。
離婚と再婚を繰り返し、子どもに愛情を注ぐこともあれば時に突き放し、ついにはドラッグにも手を出してしまった母親。そうした母親に対しての愛情と憎しみが混ざった複雑な心情も読まされる。
一方で世話になった祖父母に対する感謝の念や思い出を語るシーンなんかは、国は違えど共感できるところも多く感情移入しやすいのではないかと思います。
まあ、ところどころでアメリカらしいといったらなんだけど、かなり過激なエピソードもあるのだけど…… でもそれも愛すべき(?)キャラクターとして受け入れられる。
著者自身が自分はなぜ、貧困から抜け出せたのか社会学や統計のデータから考察している章もあります。
産業構造の変化、あるいは高度化によってから繁栄から置いていかれた労働者たち。保守的で自分たちの家族や仲間しか信頼できない人々は、人種が多様化し様々な人の権利が保障されていく中で、自分たちが置いていかれていると感じてしまう。
そして生まれた諦めや閉塞感、政治不信。
トランプ大統領につながるアメリカの分断。その根っこにあるものの一部が、ここから読み取れるように思います。
産業構造の変化について行けなかった人たちは、寂れた地元で低賃金の職に就くことしかできない。すると教育の格差も生まれ、子どもたちがそこから脱出しようにも、周りにモデルケースになる大人もおらず、結局格差が固定化されていく。
著者自身は祖母のおかげで、勉強の大切さを忘れなかったことでチャンスをつかみ、その後、海兵隊やロースクールで自分と階層の違う人たちのつながることができ、貧困層から脱出できたと語っています。
こうやって見ると、単にお金の支援だけでなく、教育の機会、健全な人間関係や家庭環境、地域や地元の環境など、多くの複合的な問題が、今の格差や分断につながっていることが分かる。
書かれているのはアメリカの白人労働者層の話だけど、今の日本の問題につながる部分も多くあるようにも思いました。こうした下からの声が届く社会であってほしいものだとつくづく思います。続きを読む投稿日:2023.01.19
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。