ルポ 座間9人殺害事件~被害者はなぜ引き寄せられたのか~
渋井哲也(著)
/光文社新書
作品情報
わずか2カ月で9人が犠牲となった座間9人殺害事件。すでに犯人には死刑判決が下ったが、これで終わりとは言えない。Twitterに希死念慮を吐露した女性が殺害された池袋ホテル殺害事件や、SNSを通じて知り合った女子中学生の自殺を幇助した事件など、類似の事件は起き続けているのだ。なぜ座間9人殺害事件は起きたのか。被害者はどんな心の傷を負っていたのか。若者の生きづらさを長年取材してきた著者が事件を再検証する。
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商品情報
- 著者
- 渋井哲也
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 光文社
- 掲載誌・レーベル
- 光文社新書
- 書籍発売日
- 2022.01.30
- Reader Store発売日
- 2022.01.18
- ファイルサイズ
- 0.8MB
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この作品のレビュー
平均 3.4 (6件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
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意外なくらいつまんなかった。
というのは、この本って、著者が犯人(白石隆浩/事件当時27歳)にインタビューした内容や裁判の記録が書いてあるだけなんだよね。
こういう犯罪者って、独特の自己顕示欲があるような気がするし。
また、特にこの犯人の場合は、特に思いや考えがあるというよりは、たんにその場その場の思い付きで行動しているように感じるから、言っているそのことが、どこまで真実に即しているのかわからないと思う。
そういう意味で、こういう犯人の場合は、著者が知った事実を淡々と述べるよりは、著者が知った事実を元にした推理や推測を書いた方がいいように思う。
それこそ、松本清張が実際の事件を小説にすることで、犯人の心情や事件が起こった背景を表したみたいに。
それが、合ってるにせよ、間違っているにせよ、それを叩き台に多くの人が感想を述べ合うことが類似の事件の再発を防ぐことになるんじゃないだろうか?
そういうわけで、以下は、この本を読んで自分が思い浮かんだ、この事件の勝手なイメージだ。
まず、思ったのは、(こう書いてしまうと語弊があるかもしれないが)この事件って、実はとっても陳腐だったんだなーと。
というのは、たった2、3ヵ月の間に9人が殺されて。犯人(白石隆浩/当時27歳)がバラした被害者の頭と暮らしていたなんて、かなりセンセーショナルに報道されていたから、「一体どういう事件なんだろう?」と、とっても興味があったからだ。
でも、この本を読んで浮かび上がってくるのは、以下のような構図だ(ただし、あくまで自分のイメージ)。
自分にだらしがない、たんなる根性なしが仕事してないから、毎日することがなくて。
人生終わりにしたいんだけど、死ぬ根性がないから、SNSで自殺を募っていたら、たまたま出会えた女性と「もしかしたら人生やり直せないかな?」と勘違いしだした。
でも、犯人は、ある時、その女性に親しい男がいるような気がしてきて。
アパートを借りるために女性からお金を用立ててもらったこともあって、犯人は、その女性がその男の元に戻ってしまったら、「お金を返せ」と迫られると思った。
その女性と出会ったことで、犯人は生への執着が出ちゃったから、お金がないことでアパートを出なきゃならないのは嫌だった。
よって、とっさに「自殺したかったんでしょ?」と、その女性を殺してしまったor殺そうとした。
でも、犯人は首絞めていたら、欲情しちゃって。
強制的にエッチしちゃったら、さらにすごいコーフンを覚えた。
あとは、そのコーフンが忘れられずに。
後先なんか何も考えないで、またそのコーフンを味わいたい一心で衝動の赴くまま、次から次へとずるずる、ずるずる……。
気づけば、いつの間に死体をバラバラするのもすっかり慣れていた。
9人を殺すというのは異常だ。
でも、その「異常」も、続けば「通常」になってしまう。
衝動の赴くまま、ツイッターで相手を求めて、殺して。また、相手を求めて、殺して。
と、ずるずる、ずるずると流されていたら、やっと事件が発覚して。
犯人はその行為をやっと終わらせることが出来た。
そう考えると、犯人って、実はその辺に普通によくいる人なんだろう。
もちろん、普通の人は、まず人殺しはしない。
そんな普通の人でも、自分でもわるいこと/よくないことと知っていても悪癖を止められない人は普通にいる。
その悪癖が、法に触れることだったり、法に触れるか触れないかギリギリだったりすることも普通だ。
そういう人って、実は自らのその悪癖が法に触れたり、触れないまでも他人に迷惑をかけていることは百も承知で。
でも、それをどうしても止められなくて、実はそんな自分に心のどこかに罪悪感を抱えている。
そういえば、SNSを使った誹謗中傷で捕まった容疑者が実はあおり運転等様々な迷惑行為をしていたとニュースでやっていたが、その行為を止められない構造はまったく同じだと思う。
そういうことって、実は自分自身思いあたることがあるのだがw、ていうか、多かれ少なかれそれが思いあたらない人はいないと思うのだ。
それは、犯人も同じで。
でも、そんな悪癖を止められない普通の人と違って、犯人は止めれない悪癖が越えてはならない一線を越えるのを引き留めてくれる人や事がなかった。
この事件の犯人と世間の人の違いって、実はそれだけなんじゃないかなーって(^^;
都市近郊のごくごく普通の家庭で、なに不自由なく育って。
そんな風に育ててくれた親に対して、親の期待に沿えない自分というコンプレックスを持っていた。
そんな人、今は(昔も?)当たり前にいる。
ていうか、自分だってそうだ。
ただ、この人って、何なのだろう?
視野が異様に狭い。
高校生の時、高卒と大卒で会社の給料が違うことを知らなかったって、そんなことあるものなんだろうか?
ていうか、想像力がないのかな?
だって、ちょっと想像すれば、そのくらいわかると思うんだけどなぁ…。
ていうかー、ドラマとか小説とか、見たり読んだりしなかったんだろうか?
ドラマとか小説とかに接していれば、そういうことは自然とわかるように思うんだけどなぁー。
そう考えると、この犯人は「普通の家庭でなに不自由なく育てられた」みたいなこと言ってるけど、世間一般のそれとは微妙に違うのかな?
だって、犯人は「高卒と大卒で給料が違うなら大学に行っていればよかった。その頃、父親と上手く関係を築いて(そういうことを)聞いておけばよかった」なんて言っている。
でも、普通は高校生の時、就職するか進学するかで親と話をする。
父親は機械の設計をしていたということなのだから、たぶん大卒のサラリーマンなのだろう。
そういう人なら、自分の子供に「大学行った方がいいぞ」と言うはずだ。
でも、この犯人は知らない。
それは、たんに父親とのコミュニケーションが途絶していたからにすぎないか。それとも、たんにこの犯人が人の忠告を聞けない人間だったのか?
裁判が終わって著者は、「傍聴した私には腑に落ちない点があった。白石の過去からは、その残虐性を醸成した背景は見えてこない。一体、何が原因でここまで残酷は犯行に至ったのか。不気味なまでの“平凡さ”に、私は誰しもの中に同じ犯行に至る狂気が潜んでいる可能性すら思い浮かべた」と書いているが。
自分は、それは「可能性」ではなくて。
人というのは、誰でもそういう一面を持っているように思う。
でも、普通、人は“自分に起きる狂気の衝動を思い留まらせる何か”を持っている。
それは、その人を大事に思ってくれる家族やパートナー、友人だったり。あるいは、将来の夢や希望、自らの未来を信じる心だったり。
そういったことがあるからこそ、人は自らを愛してくれる人の期待を裏切るまいと、あるいは将来の夢や希望を叶えるために自らの狂気を抑えることが出来るんだと思うのだ。
衝動のままに狂気を発散させてしまったら、その人は間違いなく社会的に葬られてしまう。
社会的に葬られてしまったら、自らを愛してくれる人の期待に応えられないし。自らの夢や希望も絶対叶えられない。
そんな人生はつまらない。
人の自尊心って、実は意外とそういうことで何とか保たれているものなんじゃないだろうか?
この犯人って、たぶんずいぶん前から、その自尊心を失っていたんじゃないのかな?
そのくせ、普通の家庭でなに不自由なく育っているから、世間一般的なごくごく普通に何が正しくて何が悪いという倫理観は持ち続けている。
だからこそ、あっさり罪を認めたんだと思う。
というよりは、犯人は自らの倫理観に照らし合わせて絶対やってはいけないことを衝動の赴くままにし続けている自らを誰かに止めて欲しかったような気がして、しょうがないんだよね。
でも、捕まったら自らのその欲望を果たせなくなってしまう。
その二つの板挟みで苦しんでいる中、捕まったことで、やっと止められると、たぶんホッとしたんだろう。
だから、あっさり罪を認め、 “死刑にしてもらう”ことで、「自分を終わらせる」という、そもそも抱いていた思いを果たせると、一種の安堵を得たんだと思う。
この人が何で風俗業のスカウトをしていたのか、その辺がよくわからないのだが。
でも、この人(犯人)は、普通の家庭に育った人が普通に持つ倫理観に反する売春を伴う風俗業へのスカウトしている自分自身が嫌で嫌で堪らなくて。
そのことをきっかけの一つとして、どこかの時点でブッ切れちゃったんじゃないだろうか?
仮に、その時点でこの人(犯人)が簡単に自殺できる手段を持っていたとしたら、あっさり自殺していたように思う。
でも、そんな手段はなかったし、何より死ぬのは怖い。痛いのも嫌だ。
よって、おそらく「自分を終わりにしたい(でも、死ぬのは怖いし、痛いのも嫌だ)」という思いを抱きながら、日々をやり過ごしていた。
でも、売春の斡旋で捕まったことがきっかけだったのか(?)、「自分を終わりにしたい(でも、死ぬのは怖いし、痛いのも嫌だ)」という思いが強くなって。
誰かと一緒なら死ねるかとツイッターで相手を探したら、たまたま出会った相手(最初の犠牲者)に好意を抱くことで、たぶん「生」への執着が復活してしまった。
後は、先に書いたことの繰り返しになってしまうが、その相手に男の影を感じるや否や、「生」への執着の象徴であるアパートを維持しようと相手を殺し、相手の男も殺した。
後は、その場その場で衝動の赴くまま、「自分を終わりにしたい(でも、死ぬのは怖いし、痛いのも嫌だ)」という思い半分コーフンを味わいたい思い半分でツイッターで相手を募って。
後先なんて全く考えずに(というか、後先を考えたくとも、もはや後先なんて怖くて考えられなかったのだろう)、ずるずる、ずるずる行動したにすぎないように思う。
そういえば、著者がインタビューしている時、さらに突っ込もうとすると犯人が「ここから先はお金を出してください」と言って、話が止まる場面が何度も出てくるが。
犯人が「お金を出せ」と言うのは、その先に真相があるのではなく、犯人自身もなんで自分がそれをしたのか全然わからないから。そう言って、もったいぶることで著者を悔しがらせて、一人悦にいってるだけなんじゃないのかな。
つまり、それも何の後先考えずに、その場の安直な衝動でやってるんだと思う。
そういう意味では、この犯人は相手の様子を見てハッタリをかますがの上手いんだろう。
犯人とかつて交際していた女性が、「彼には二度ほど恐怖を覚えました。(中略)怒った時は怒鳴り散らすのではなく無言で圧を加えてくる感じ」とあったが。
無言で圧を加えてくるような気がするのは、たんに自分の主張が言えないだけ、言葉が出てこないだけって気がするし。
また、唯一殺されなかったという女性というのは、その人が風俗業に勤めていて男女の経験が豊富だった(か、どうかは知らないが)から、むしろ犯人の方が(男として)怖気づいちゃっただけなんじゃない?
この犯人というのは、27歳の犯人から見て15歳や、自分を終わりにしたいくらい気持ちの弱った人しか相手できない、たんなる自分にだらしのない根性なしにすぎない。
この事件が「わからない」のは、たんにそういう理由。
自分はそう思った。
追記
感想を読もうとしたんだけど、不具合なのか何なのか、延々一人の感想しか出てこなくて。
そのたんび、タイトルを入れていて、ふと、思った。
そうか。
この本のタイトルって、「ルポ 座間9人殺害事件 被害者はなぜ引き寄せられたのか」だったんだなーと。
とはいえ、「ルポ 座間9人殺害事件」はともかく、「被害者はなぜ引き寄せられたのか」ということについては書いてあったっけ?と(^^ゞ
ま、この著者は推測を書かないタイプのようなので。
ていうか、今風の思いやり過剰な人のようなので、「被害者はなぜ引き寄せられたのか」と推測しても、結局、被害者を思いやるあまり、実際から乖離してしまうような気がする。
そんなわけで、自分なりに「被害者はなぜ引き寄せられたのか」を考えてみたのだが、どうも今一つ釈然としない。
ただ、自殺とは関係ないのだけれど、山の遭難事故の経緯なんかを読んでいると、遭難者は「死へ、死へへと向かって行った」としか言いようのない、死に魅かれたみたいな不可解な行動をしていることがあるが。
そういうことなのかなぁーとは思った。
山の遭難の場合は、助かろうとする焦るあまり、視野が狭まることで無意識に楽な(?)行動をしてしまう、それが死に魅かれたような不可解な行動なのか? ま、その推測があたっているかどうかはわからないが。
ただ、この事件の被害者の場合も、苦しさのあまり、視野を狭めてしまうことで、無意識に楽な行動を選んでしまった。
そういうことなのかな?
“辛い一日の終わり 人は生きる理由を見つけようとする”
というのは、ブルース・スプリングスティーンの「Reason to Believe(邦題:生きる理由 )」の歌詞の最期だが。
余計なお世話だと思うけど、自分は何度かこの曲の歌詞で救われた記憶がある。投稿日:2022.05.26
人間を消費財とみなす思想の
行き着く果てにはこういう世界もある
金づるになりそうな奴は恐怖と依存で飼い慣らし
それ以外は嗜虐欲を満たすために消費し
最後は自分がメディアを通じて
僕のような好き者に消費…されてしまうのだ
やめなさいよほんとにもう続きを読む投稿日:2023.07.07
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