宝塚歌劇団の経営学
森下信雄(著)
/東洋経済新報社
作品情報
まさに今、世界中が新型コロナウイルスの猛威に翻弄されている。なかなか収束の出口が見えず、五里霧中ではあるが、ただ一つ確実なことがある。それはウィズコロナの時代には、流行前と比べて我々の住む世界が一変するということだ。
本書は、戦前から様々な難局を超えて100年以上、事業を継続してきた宝塚歌劇団の実態に迫る。「知る人ぞ知る」「ニッチな」エンターテイメント事業に隠された経営の秘訣は、ウィズコロナ時代が本格的に到来しても不変の真理であり、かつ多くの企業の経営戦略にも敷衍できるものであると確信している。
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この作品のレビュー
平均 3.0 (2件のレビュー)
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いきなり私事で恐縮ですが、私が大学生のころまで、妹は宝塚歌劇団の大ファンで家には雑誌「歌劇」が散乱していました。また、当時付き合っていた彼女も宝塚の大ファン。日比谷にある東京宝塚劇場の出待ちに付き合わ…されたこともあります。元カノが宝塚を語るのを聞いて思ったのは、「どこがいいんだ?」。40年以上の謎を解くために、新聞広告で見つけた本書を購入しました。
また、現在、私が憧れているあの人も宝塚ファン。共通の話題を見つけて、仲良くなりたいという若干やましい理由もあります。
著者の森下信雄さんは元々は阪急電鉄の社員。1998年から2011年まで宝塚歌劇団に出向して、総支配人まで歴任されました。現在は阪南大学流通学部の准教授で専門はブランドマーケティング。宝塚歌劇団に関する書籍も数点書かれています。
で、本書を読んだら宝塚歌劇団になぜファンが殺到するのか?だいたいの理由は理解できたと思います。
簡単に言えば、ファンが楽しむのは歌劇の完成度というよりも、推しの成長のプロセスのようです。成長のプロセスなので、ファンの消費行動は長く続きます。
詳細に記述すると
1)宝塚歌劇団の最大のウリは「男役」。これはズバリ「虚構」。その虚構性が宝塚歌劇ビジネスの最大の成功要因であり、独特の「世界観」を構築している。
2)宝塚歌劇のファンは「男役」すなわち「虚構」からひとりひとり異なった「価値」を受け取る。ファンの数だけ「虚構」=「男役」の定義が存在するので、「価値」もその数だけ存在する。
3)ファンが求め、かつ宝塚歌劇団が提供するのは、歌唱やダンスの巧拙といった「品質」ではなく、例えば推しが色気のある熟成した「男役」へと育ってゆく「プロセス」。
4)ファンにとっては「品質」の不安定さも魅力。不安定さは「プロセス」のバリュエーションの多彩さを生む。
5)ファンが消費する「プロセス」期間は、推しの対象となる「生徒」が宝塚音楽学校在籍時からスタートし、トップスター到達に至る10年超の長い道のり。ファンはその長い道のりを「価値共創」しながら「伴走」する。ファンは「プロセスそのもの」を、母性本能で見守りながら感情移入し、様々な消費行動を繰り返してゆく。途中で劇団四季に乗り換えるようなブランドスイッチは起きない。
本書はそのほかにも、ファンが無限に生まれる理由、カープ女子との共通点、「男役」の起源などなど興味深いテーマを論じています。ただ、「男役」の「世界観」に重点が置かれ、娘役についてはあまり触れられていません。
なお、本書は宝塚ファンの為に書かれた本ではなく、マーケティングのテキストという性格が強い本です。ブルーオーシャン、D2C、サンクコストのような専門用語も頻出し、「宝塚」に期待して読むと少しガッカリするかもしれません。また、文章も若干固く、読みにくいという印象でした。
しかしながら、マーケティング戦略をひとつの成功事例を紐解きながら知るということは価値があります。読んで損はないと思います。続きを読む投稿日:2021.04.28
うーん。宝塚ファンですが、書いてある内容は特段目新しい視点ではないし、所々承伏しかねる。女性ファンはオトコの言う「母性本能」でタカラジェンヌを応援しているわけではないし、男性ファンは招かれざる客、なん…て思っていませんが。
また、ファンは男役という虚構を推しているのだから品質は二の次で良いと言って憚らないのはファンをバカにしている。明らかにグレーゾーンであるファンクラブの存在も経営戦略の一部と断言してしまうのはどうなのでしょう。もっと切っても切れない、複雑な事情があるもののはず。この本で述べられているのは一昔前のファン像、経営戦略であって、これまで100年間はこれで乗り切ってきたのかもしれないけれど、この先100年発展させるにはそのままではダメだと思います。全体的に、著者は時代の変化を捉えられていないのだと感じました。宝塚知らない人が読んだら、ふーんと思うかもしれないけどね。続きを読む投稿日:2022.04.09
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