ノマド
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2000年代、アメリカに新しい貧困層が現れた。一見すると、キャンピングカーで暮らす気楽な高齢者。有名企業で働いた経歴や建築技術の資格をもつ人もいて、考え方や見た目も中流階級のそれと変わらない。しかし、彼らはガソリンとPC・携帯を命綱に、その場限りの仕事を求めて大移動する、21世紀の「ノマド」である。深夜ひっそりスーパーの駐車場で休息をとり、アマゾン倉庫や大農園など過酷な現場で身を粉にする彼らの実態とは。気鋭のジャーナリストが数百人のノマドに取材。彼らと過ごした2万4000キロの旅から、知られざるアメリカ、そしてリタイアなき時代の過酷な現実が見えてくる。高齢化社会日本の未来を予見する、衝撃のルポ。
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この作品のレビュー
平均 5.0 (3件のレビュー)
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日本で「ノマド」と聞くと、オフィスではなくカフェやレンタルスペースで働く人をイメージするかもしれない。だが、本来の「ノマド(Nomad)」の意味は、「遊牧民」や「放浪者」。本書に登場する「ノマド」は、…文字通り、「放浪する人々」を指す。
人々が路上に出る経緯はさまざまだ。特に、金融危機で財産を失ったり、レイオフされたりした中流階級の人々が、家を差し押さえられ、路上に出るケースが目立つ。しかも大半はリタイア組の高齢者。キャンピングカーに住みながら、中短期契約の仕事で食いつなぐ。
雇い主は季節限定で即戦力を確保し、時には水道代・光熱費及び駐車代を負担する代わりに、無賃労働を強いる。
現代アメリカでは、そういった、身体に鞭を打ち、不安定な働き方をせざるを得ない高齢者が増えているという。
例えば、昔は年一〇〇万ドル以上の暮らしをしていたが、いまは週にわずか七五ドルでやりくりする元ソフトウェア会社の重役(70)が、アマゾンのキャンパーフォース(繁忙期限定のノマドによる労働チーム)で働いていたりする。
賃金の上昇率と住居費の上昇率があまりにも乖離した結果、家に住むことを諦め、キャンピングカーやトレーラーハウスに移り住むひとが後を絶たない。そして、そういった人々は、季節労働者として、アメリカじゅうを放浪している。
彼らはなぜ「ノマド」という生き方を選んだのか。なぜキャンプ場やアマゾンの倉庫など、肉体的にきつい仕事に就くのか。普段はどんな生活をしているのか。
著者は、取材のためにキャンピングカーを買い、二年間、断続的に車上生活をしながら、ノマドたちの本音に迫った。その甲斐あってか、本書はディスカバー・アウォーズのノンフィクション部門で二〇一七年の最優秀賞を受賞した。
「漂流する高齢労働者たち」という副題から推測するに、さぞかしネガティブな話だろう、と思って読み始めたのだが、意外と暗い気持ちにはならなかった。むしろノマド自身が倹約生活を楽しむ様子や、ノマド界の人気ブロガーたちや大勢のノマドと交流できる大規模イベントの様子を知ると、ドン底のような暮らしの中にも、希望をもって生きている人が大勢いることがわかった。ミニマリストのように、手持ちのもので豊かに暮らすというのを、究極に体現しているのが現代版ノマドなのかもしれない。
職場やイベントで知り合った仲間と共に行動するようになる人たちもいる。ベテランは新参者に知恵を授け、困っている仲間がいれば手を貸す。路上は危険だが、室内で孤立するよりも、はるかに社交的で健康的な暮らしだ。
アメリカで貧困に喘ぐ中流階級は、数百万人にのぼるとも言われている。高所得者層と低所得者層の格差はますます広がり、アメリカは事実上カースト制になったと著者は終章で述べている。ノマドを登場人物にすることで、本書はアメリカ内の格差拡大に警告を発している。
最後に、本書の主要な登場人物でもあるリンダの言葉を添えよう。明るく愉快な車上生活者である彼女の夢は、アースシップを建てることだ。
「いまは無事生き延びてるだけじゃなく、目標に向かって生きてるわ!だれだってそうでしょう。歳をとったからって、その日その日をなんとか生き延びるだけじゃつまらない。目標が必要よ」
大事なのは希望をもつこと。希望なくしてどうして生きていけようか。希望は人類共通の必需品なのだから。
近年、州は車上生活者を厳しく取り締まりだしたという。取材を終えた著者はジャーナリストに戻り、本を閉じたわたしは日常生活に戻る。ノマドたちの車上生活は・・・ページを閉じた今も続いている。
p12
人間であるということは、たんなる生存を超えた何かを追い求めるということだ。食べるものや住む家と同じくらい、私たちには希望が必要なのだ。
p63
二〇一五年の国勢調査によると、ひとり暮らしの高齢女性は、六人に一人以上が貧困ライン以下の生活をしている。貧困ラインを割っているアメリカ人高齢者の数は、女性(二七一万人)と男性(一四九万人)で倍近い開きがある。公的年金に関して言えば、女性は男性より平均で月に三四一ドルも受給額が少ない。支払った所得税の合計額が、男性より少ないからだ。あまり認識されていないが、こんなところにも男女の賃金格差が影響しているのだ。二〇一五年の統計では、男性の収入一ドルに対して女性の収入はいまだに八〇セント程度にとどまっている。しかも無償で両親や乳幼児の世話をしている割合は、女性のほうが高い(中略)。そのため女性は生涯賃金が男性より少なく、結果として貯蓄額も少ない。平均寿命は女性のほうが男性より五年長いから、女性は男性より少ない貯蓄で、男性より長期間やりくりしなければならない。
p71
住民の大半が、低賃金とひきかえに臨時雇いで働く「プレカリアート」と呼ばれる不安定層だ。もっと具体的に言えば、住民は何百人もの移動労働者で、キャンピングカーやトレーラー、ヴァンに住んでいる。少数ながらテントで暮らす者さえいる。(中略)集まってくる人の多くは六〇代から七〇代で、昔ならとうにリタイアしているか、定年間近の高齢者だ。その大半は、倉庫での臨時雇いの仕事で時給一一・五ドル+残業代を稼ぐために、犯罪歴を照合されたり尿の薬物反応を検査されたりという屈辱を経験したうえで、何百キロもの道のりをやってきた人たちだ。冬の初めまではここにいる予定だが、住み処の車のほとんどは、氷点下での生活を想定してつくられたものではない。彼らの雇い主は、アマゾン・ドット・コムだ。
アマゾンがノマドを採用するのは、同社のキャンパーフォース・プログラムの一環だ。キャンパーフォースは繁忙期限定のノマドによる労働チームで、フルフィルメント・センター(FC)と呼ばれる倉庫のいくつかで働いている。アマゾンは従来型の派遣社員も何千人と採用しているが、配送量が劇的に増える繁忙期、つまり三、四ヵ月続くクリスマスセールの間は、ノマドを追加投入する。
p74
ワーキャンパーとは短期の雇用を求めてアメリカじゅうを車で移動する、季節労働者だ。(中略)現代のワーキャンパーはほとんどがリタイア組だから、ビジネスの世界で培ってきたスキルが売り物に加わっている。
p88
充分なセーフティーネットを構築できていなかったために、離婚、病気、怪我などがなければ乗り越えられたであろう危機を、乗り越えられなかったケースもあった。
p93
RVパークにごった返しているワーキャンパーは、これまでずっとあたりまえだと思っていた中流階級の安楽な暮らしから、はるかに隔たったところに落ち込んでしまった人たちだ。ここ数十年アメリカ国民を苦しめたいる経済的な苦境を、声高に叫ぶ者たちだ。
p95
高・中所得者層から低所得者層に移行する高齢者の人口は近年急激に増加していて、私が取材したアマゾンのワーキャンパーの多くはその一員だった。いわゆる、高齢アメリカ人の貧困化だ。エンパイアのような企業町の全盛時代、つまり安定した雇用と年金を誇った「強い中略階級」の時代には、だれひとり想像できなかった状況だ。
経済政策研究所(EPI)の経済学者モニーク・モリシーに、この前代未聞の変化について説明してもらった。「私たちが直面しているのは、退職後な保障が無に帰すという、近代アメリカ史上初の事態です。後期ベビーブーム以降に生まれた人たちは世代が進むほど、リタイア後にそれまでと同程度の生活をするのが難しくなっています」
ということは、もはや高齢者に休息はないということだ。二〇一六年には六五歳以上のアメリカ人被雇用者数は九〇〇万人ちかくにのぼった。一〇年間で六〇パーセント増加している。全労働者に占める高齢者の割合とともに、この人数は増加を続けるだろうと経済学者は予測している。最近の世論調査からうかがえるのは、いまのアメリカ人にとっては長生きしすぎてお金がなくなることのほうが、死ぬより怖いという現実だ。高齢アメリカ人のほとんどが、リタイア後は「余暇の時間」だと考えているが、その余暇にまったく働かずに過ごせる見込みの人はわずか一七パーセントしかいないことが、別の調査で判明している。
p129
ボブにかかると、極端な倹約生活も自由への道であるように思われてくる。欠乏ではなく解放だ、と思うようになるのだ。リンダに言わせると、それは「手持ちのもので豊かに暮らす」ことだ。
p190
「SOB」は「Some Other Brand(場違い)」を意味するスラング
p210
「いまは無事生き延びてるだけじゃなく、目標に向かって生きてるわ!だれだってそうでしょう。歳をとったからって、その日その日をなんとか生き延びるだけじゃつまらない。目標が必要よ」
p233
私が何ヵ月にもわたって取材してきたノマドの人々は、無力な犠牲者でもなければお気楽な冒険者でもなかった。真実は、それよりもはるかに微妙なところに隠されていた。
p254
白人であってさえ、アメリカでノマドでいるのは並大抵のことではない。とくに住宅地でステルス・キャンピングをするのは、キャンプの主流から大きく外れている。多くの場合、車中泊を禁じる自治体の法令に背くことにもなる。白人であるという特権的な切り札をもってしても、警官や通行人とこいざこざを避けられない場合があるのだ。であれば、丸腰の黒人が赤信号で止まっていただけで警官に撃たれるような地域ではとくに、人種差別的な取締りの犠牲になりかねない人が車上生活をするのは、危険すぎるのではないだろうか。
p339
伝統的な意味での中流の生活ができずに苦しんでいるアメリカ人の数は、いまや数百万人にのぼるのだ。
p341
所得の不平等を測るうえで最も定評があるのは、八〇年ほど前に考案されたジニ係数と呼ばれる指標だ。世界銀行、CIA、OECDをはじめ世界中で、経済学者の絶対的基準として用いられている。このジニ係数でわかる驚きの事実がある。今日、アメリカの所得格差は先進国のなかで最大なのだ。ロシア、中国、アルゼンチン、内戦に疲弊したコンゴ共和国と同レベルだという。
p351
本作品タイトルの「ノマド」は、本来は遊牧民や放浪者を意味する英語だ。日本では、決まったオフィスに縛られずカフェやレンタルスペースで働く人を指してノマドと呼ぶことがあるが、本書のノマドは比喩的表現ではない。文字どおり、放浪する人々だ。本来の意味でのノマドが、現代アメリカに出現しているのである。
p352
現代アメリカのノマドは、二〇〇八年の金融危機のあおりを受けて住宅を手放し、車上生活に移行した人が多いという。当時のアメリカでは、サブプライムローンの破綻とともに住宅の差し押さえ件数が急増した。日本とちがい従業員本人が資金を拠出する401kは株価暴落で大打撃を被り、年金をすべて失う人も続出した。アメリカは離婚率が高く二組に一組が離婚すると言われるが、その離婚にも訴訟費用や教育費など、総じて日本より多額の費用がかかる(そもそも、離婚率の高さは貧困とも関係が深いという)。追い打ちをかけるように、リーマンショック後のアメリカでは、不動産価格の高騰が止まらなくなっている。その結果、富裕層と低所得者層(低所得者層は住宅補助をうけられる)を除く中間所得者層が、高騰する家賃を払えずに悲鳴を上げる事態になっている。続きを読む投稿日:2020.10.01
ジェシカ・ブルーダー著&鈴木素子訳「ノマド」、2018.10発行。サブタイトルは「漂流する高齢労働者たち」。ノマド。1年に何億円も使って世界中を旅しながら暮らす人、場所と時間に縛られずインターネットと…パソコンでどこでも仕事をする人、一日中仕事をし夜は自分の車の中で眠る人、いろんなノマドが。2000年代に入り新種の放浪生活者が出現。一番大きな出費(住居費)を削り車上住宅(避難所と移動手段)に移り住んだノマド。ホームレスではなくハウスレスと称しているとか。愛犬キャバリアと暮らすリンダ・メイ64歳を追いかけた作品です。続きを読む
投稿日:2019.04.06
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