地域公共交通の統合的政策―日欧比較からみえる新時代
宇都宮浄人(著)
/東洋経済新報社
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人口減少と高齢化が重くのしかかるようになった今世紀、政府も事業者も住民も研究者もそれぞれの立場で、地域公共交通のあり方の模索を続けてきた。
公益性とビジネスの狭間にある地域公共交通を、どのように位置づけ、活用すればよいのかというのは、非常に大きなテーマである。
地域公共交通の問題は日本特有のものではない。比較的人口密度が高い欧州でも、日本と同様の様々な問題に直面してきた。
著者が、オーストリアで1年間に渡って調査を行った結果わかったことは、オーストリアがこの20年余りの間に政策転換を行い、制度を整備し、地域公共交通の再生を強力に推し進めたことにより、一定の人口集積がある地方都市では、日常生活の移動に困らず、街には賑いがあり、市民の暮らしが豊かになっているということであった。少なくとも、日本の地方都市とは全く違っていたという。
本書では、著者が欧州で研究したことを踏まえ、これを日本と対比させながら、日本のこれからの地域公共交通政策の制度や政策を考える鍵を提示するものとなっている。
これからの政府・自治体職員必読の書である。
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この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
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日本の地域公共交通における課題と進むべき道を、欧州との比較から詳らかにしていこうというアプローチ。
地域公共交通が苦境を強いられているという点については論をまたないだろう。いわゆる「両備の乱」は記憶…に新しい。
欧州の「公的資金を注入しながら、サービス品質の向上は損なわないようにする」というバランス感覚は理想的でありながらも、実現は難しいだろうなという印象をもつ。
筆者が結びで言及しているように、ここで提言されている在り方への転換は容易ではない。少なくとも「市場原理」の名のもとにボトムアップに委ねた政策しかないのであれば、質的転換など午睡の夢だ。
しかし、同じく終章で語られる「筆者は悲観していない。」という言葉は力強い。続きを読む投稿日:2020.11.10
本書の基本的な問いは、地域公共交通に対してどのような制度や政策が必要なのか、というものである。
(引用)地域公共交通の統合的政策 日欧比較からみえる新時代、著者:宇都宮浄人、発行所:東洋経済新報社、2…020年、240
地域公共交通に対してどのような制度や政策を講じていくのか。これは、国や自治体にとって、悩ましい課題となっている。本書でも触れているが、まず、地域公共交通政策に対して、国の財源措置が乏しい。このことは、各自治体の政策にも影響を及ぼすことを意味する。本書でも分析を試みているが、地域公共交通の確保は、その地域の住民や事業者のQOL(生活の質)を最大化することに繋がる。宇都宮氏によって著された「地域公共交通の統合的政策」では、海外の事例や我が国における動向などを踏まえて、新たな時代の地域公共交通のあり方を探っている。
我が国においては、2013年に交通政策基本法が施行された。この法律は、交通政策に関する基本理念やその実現に向けた施策、国や自治体等の果たすべき役割などを定める基本法である。また、2014年には、改正都市再生特別措置法が施行された。我が国の地方都市では、今後30年間で2割から3割強の人口減少が見込まれる。これにより、国土交通省によれば、医療や福祉、商業施設や住居等がまとまって立地すること。また、高齢者をはじめとする住民が自家用車に過度に頼ることなく、地域公共交通により医療・福祉施設、商業施設にアクセスできるなど、「多極ネットワーク型コンパクトシティ」を目指すとしている。
ただ、地域公共交通に先進的な取り組みをしているのは欧州である。我が国でも地域「公共」交通と「公共」の文字が入っているが、各輸送事業者の独立採算制となっている。一方、欧州では、地域公共交通を「公共サービス」として位置づけており、公的資金で支えられている。また、2013年、我が国において交通政策基本法が施行されたが、同年EUでは、アクセシビリティの改善と質の高い持続可能なモビリティ交通を提供することを目的として、SUMP(持続可能な都市モビリティ計画)を提示した。本書においてもSUMPの各項目が紹介されているが、我が国における地域公共交通政策にも多いに役立つものであると感じた。
一方、2020年、我が国においても改正地域公共交通活性化再生法が施行されることとなる。ここで特筆すべき点は、新モビリティ事業の創設によるMaaS(Mobility as a Service)の推進であろう。MaaSは、世界で初めて、フィンランドのヘルシンキで導入されたが、我が国においても「一元的なサービス」であり、「自家用車を利用する生活と対等あるいは同等以上の利便性を感じられるようにすること」1)と定義されている。現在、静岡県伊豆地域では、東急とJR東日本が手を組み、MaaSの実証実験を開始している。今後、日本版MaaSの展開も含め、地域公共交通を確保させ、利用者の利便性の向上や運送事業者の効率化を図っていくことが重要であると感じた。
また、本のタイトルに「統合」という文字が入っていることから、著者の宇都宮氏が「統合」することに、次代の地域公共交通への希望を見出していることが理解できる。事実、本書も1章分のページを割き、地域公共交通の「統合」について述べられている。そして本書では、統合を4つのカテゴリーに分類し、モードや運輸業者を超え、より緊密で効率的な相互作用をもたらすことについて力説している。統合においての意義は、まず、利用者の利便性向上に繋がることだと思う。利用者は容易に複数の運輸業者の情報を得ることが可能となり、運賃統合されて初乗り運賃を支払わずに済むなどの恩恵を受ける。また、「統合」することは、都市計画や社会政策にも良い影響をもたらしていく。新しい時代における地域公共交通の幕開けとして、「統合」は大きな効果をもたらすものだと感じた。
さらに本書では、CBA(費用便益分析)についても触れている。CBAとは、社会的便益と社会的費用と貨幣換算し、その差額によって投資プロジェクトの採否の参考となる指標を提供するものである。我が国では、CBAが多く使われているが、社会的便益には、ソーシャル・キャピタルのような社会的効果が考慮されていないという課題もある。先日、日本経済新聞に「自動運転バス 地域の足に」という記事が掲載された。2)人口減で地方の公共交通が縮小する中で、人手がかからない新たな地域の足として、バスの自動運転が期待されるという。既に茨城県境町では,全国で初めて公道で定常運行する自動運転バスを運行させた。高齢化が進む我が国において、バス路線を維持するには、今後自動運転バスも大きな選択肢の一つになる。これは、まさに社会的効果を考慮した政治判断ではないだろか。しかし、自動運転バスについては、車両費等の導入コストや維持管理がかさむなどが課題としてもあげられる。自動運転バスが地域公共交通の救世主だとしても、各自治体が旗振り役となる以上、財政面での限界がある。国や都道府県、運送事業者や民間事業者、住民が一体となって、地域公共交通の維持を感がていく必要があると感じた。
宇都宮氏は、本書の最後で、欧州との比較分析を踏まえ、我が国における地域公共交通における抜本的な変革を提言している。地域公共交通には、地域住民の移動手段の確保にとどまらず、まちの賑わい創出や健康増進、人々の交流など、様々な役割がある。この地域公共交通を確保すべく、どのような制度や政策が必要なのか、また住民や事業者のQOLをどのように高めていくのか。本書を読了し、今後の地域公共交通を考える一つの重要なきっかけを掴むことができた。
1)国土交通省:都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会(2019)
2)2020年12月28日付 日本経済新聞朝刊記事 25面 「自動運転バス 地域の足に」続きを読む投稿日:2021.01.03
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