ものづくりからの復活―円高・震災に現場は負けない
藤本隆宏(著)
/日本経済新聞出版
作品情報
極端な円高対応による工場の海外移転、過剰な震災リスク対応による効率の低下――。日本のものづくりの強みを殺す経営を黙認は出来ない! ものづくり経営研究の第一人者が危機の時代に選択すべき戦略を大胆に提示。製造業経営の名著とされるロングセラー『日本のもの造り哲学』以来の単著。ものづくり経営に関する俗説を覆す内容で、意外性に満ちています。
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商品情報
- 著者
- 藤本隆宏
- 出版社
- 日経BP
- 掲載誌・レーベル
- 日本経済新聞出版
- 書籍発売日
- 2012.07.25
- Reader Store発売日
- 2020.10.05
- ファイルサイズ
- 3.6MB
- ページ数
- 504ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
-
日本のものづくり哲学をとある研修の資料として読んだのがもう4年前。
インテグラル(すりあわせ)とモジュラー(組み合わせ)を社内、社外の組み合わせで説明してあったのは納得がいきよく覚えている。
またもの…づくりとは設計情報の媒体への転写という説明も割とすっとはいってきた。この本は円高・震災に対してものづくり現場目線から見た藤本氏の反論である。
先ずものづくりの現場は工場の現場を思い浮かべるかもしれないが、広義で扱っており適用範囲が広い。
現場は仕事をする場所であり、農業者の田畑や放送局、小売店などすべての働く場所を指していると受け取った。
ものづくりも同様に広義であり、設計情報の転写というとわかりにくいかもしれないが、
例えば料理であればどういう材料を使い、どういう手順で料理し、どんなものと組み合わせて出すかと言うアイデアやデザインを媒体(この場合は肉や野菜)に加工すると言うことだ。
車の場合なら例えば車のデザインも設計情報の一つで金型を使って鋼板という媒体にプレスと言う方法で転写する。
モジュラー型のものづくりは1部品1機能のものを組み合わせお互いに独立していると考えるとわかりやすい。部品を組み合わせてできる製品がそうだ。
インテグラルは例えば小型車の乗り心地をどうやってよくするかと言うことで、一部の設計を変えると他の部品の設計も変えることになり最適化のすり合せが重要になる。
日本は有形物だけでなくサービスなどもこのすり合せのものづくり現場の力が強いというのが、いろいろな現場を見て回った藤本氏の意見で、
安易に外国への移転を考えるのではなく日本にマザー工場を残すことが外国の同じ工場の競争力強化につながると説く。
生産性の向上と言う場合も金銭的な生産性と1製品製造にかかる時間と言う物的生産性を分けて考えている。
労務コストに直結する加工費が海外の4倍であっても、単位時間辺りの生産量が3倍であれば充分競争の範囲に入る。実際の自動車工場の例のようだ。
では日本に残すべき現場の条件とは?
顧客へと向かう設計情報の良い流れを作る現場のことであり、
①正確で(品質)②よどみが無く(リードタイム)③効率的で(生産性)④柔軟な(フレキシビリティ)流れのことである。
これは一つの工場のこともあるし、あるサプライチェーンのこともある。
また例えば組み立て工場の正味作業時間は改善の進んだトヨタ系で50%台で通常の有料現場では10%程度と生産性だけでも改良の余地は充分にある。
原発、震災からの復興、円高等々に対し現場からの提案をあげているが紹介しきれない。
日本の製造業はもうだめだでもなく、むやみに日本は強いというのでもなく客観的に見てよく鍛えられた強い現場を残すのが海外に出て行く場合にもプラスになると言う話でよくわかる。
ただ単純な組み合わせ産業はやはり中国の方が強いので、企業を残せでも、ある産業を残せでも無く強い現場であれば場合によっては業態転換をしてでも残せと言う厳しい意見でもある。続きを読む投稿日:2013.02.19
引き続き藤本氏の著書。
「…今回の大震災からの復旧局面では、被災した民間企業の本社と現場の間で、見事な連係プレーが見られ、目覚ましい復旧が多くの被災現場で実現した。工場も、鉄道や道路の幹線も、そして送…電網も、である。要するに『復旧』という目標は、現場にとっても本社にとっても明瞭であるから、このところ本社と現場の間がギクシャクしていた会社であっても、久しぶりに両者の見事なチームプレーが見られたのである。
このように、日本の組織は、概して復旧・復興の局面には強い。再建の目標が定まれば、互いの配慮と幅広い分業が、高い調整能力をもたらすからだ。過去、戦災後・災害後の再建の速さで世界を驚かせてきた。今回もそうした現場の統合型の組織能力が発揮され、本社・本部の力がそれに合流すれば、震災直後にあった日本への世界の同情や好意は、長期的には世界からの信頼に転化しうる。被災地のみならず、日本全体の組織体にとって、今が正念場であると同時に、チャンスでもあるのだ。」
著者は徹底して「日本の良い現場を残そう」と主張している。その視点で、震災後の復旧で組織能力が発揮されたというのは、説得力がある。
その他、以下に引用。
「要するに、よく言われるところの円高も震災も税金も電力供給も、産業空洞化の直接の原因ではない。仮にマクロレベルの『産業空洞化』を『自然な産業構造転換を超えたペースで国内現場の消失が進み、国民の生活水準を必要以上に低下させること』と規定するなら、その直接の原因は、円高などの客観要因でなく、円高による空洞化を不可避と考える経営者の心理の中にこそある。」
「企業の現場の組織能力は、その現場がたどった歴史的経路と、企業間・現場間の能力構築競争を通じた組織的な努力によって錬成される。一方、製品のアーキテクチャも、技術や市場ニーズの特性の影響を受ける形で進化する。そして、ある企業の現場の組織能力と、当該製品・工程のアーキテクチャとのフィット(相性)が良い場合に、その現場の競争力(生産性、原価、リードタイム、不良率など「裏の競争力」)が高まり、それが市場におけるその製品の競争力(価格や商品力など「表の競争力」)につながる。」
「たしかに、これまでの日本のサプライチェーンは、今回のような広域の激甚災害はあまり想定しておらず、その意味では競争力に偏していたかもしれない。しかし、とくに円高や不況に直面する近年の日本の貿易財産業では、国内の現場や製品の競争力を低下させながら、ひたすら災害に対する頑健性を強化したのでは、日々のグローバル競争で劣勢となり、次の大災害を待たずに衰退・消滅する危険さえある。つまり、競争力強化の視野を欠いた頑健性の追求は、長期的には得策ではない。」
「シンプルなモジュラー型製品の比重が急拡大したため、世界中の製品設計は平均すればシンプル化の方向へ向かったわけであるが、その反面、個々の顧客の機能要求や、製品に対する環境・エネルギー・安全制約などは、所得の上昇により高まる傾向がある。日本の時代がまた来るとまでは言わないが、少なくとも直近の悪材料に引きずられて、日本の『複雑なインテグラル型製品』に対する極端な逆風が、未来永劫続くと考えるべきではなかろう。」続きを読む投稿日:2018.10.08
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