増補版 大平正芳 理念と外交
服部龍二(著)
/文春学藝ライブラリー
作品情報
保守本流の政治とは──均衡と中庸を信条とする政治家が描いた、この国のかたち。
没後40年、「哲人宰相」の足跡をたどる傑作評伝。
大平正芳は何を遺したのか。
外相として成し遂げた韓国との請求権問題解決や、日中国交正常化の断行は大きな功績である。蔵相、自民党幹事長を経て首相に就任、環太平洋連帯構想を模索したが、党内抗争の果て志半ばで逝った。
日中関係の大平証言を増補し、悲運の宰相の素顔と哲学に迫り、保守政治家の神髄を問う。
解説・渡邊満子
【目次】
序章 遠い記憶
第1章 「楕円の哲学」──大蔵官僚
第2章 政界への転身──池田内閣官房長官まで
第3章 始動する大平外交──池田内閣外務大臣
第4章 「戦後の総決算」──自民党筆頭副幹事長から宏池会会長へ
第5章 外交の地平を追う──田中内閣外務大臣
第6章 内外の危機──田中、三木内閣大蔵大臣、自民党幹事長
第7章 環太平洋の秩序を求めて──首相
終章 「永遠の今」
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商品情報
- シリーズ
- 増補版 大平正芳 理念と外交
- 著者
- 服部龍二
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春学藝ライブラリー
- 書籍発売日
- 2019.10.09
- Reader Store発売日
- 2019.10.09
- ファイルサイズ
- 7.2MB
- ページ数
- 320ページ
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この作品のレビュー
平均 3.0 (2件のレビュー)
-
【没後四十年。「鈍牛」と揶揄された男の素顔と哲学】日韓・日中関係、「核密約」と安全保障、消費税導入……。いまに続く諸問題に先鞭をつけるも志半ばで倒れた、哲人宰相の足跡を描く。
投稿日:2019.09.19
戦時中の大平正芳は大蔵省の官僚だった
やや四角四面というか
目先の手柄よりも道理を優先するところがある
戦後、政治家に転身したものの
そういう性格が池田勇人や佐藤栄作に煙たがられ
出世レースで田中角栄…に遅れを取った
その角栄に後押しされる形で上り詰めていったのだが
ロッキード事件の影響があって
傀儡の印象をも強めることになり
また総理になってからは慎重な言葉使いをマスコミにつつかれ
凡愚のイメージで揶揄されることが多かった
田中角栄の「日本列島改造論」を補完するものとして
「田園都市計画」を掲げたが
池田内閣からの流れで
インフレと歳入減に悩まされてたとはいえ
経済成長にブレーキをかけるような印象も強かった
さらに第2次オイルショックの渦中
一般消費税の可能性を口に出したことも裏目となり
衆院選に惨敗
(省エネルックもマイナス要因だったかもしれない)
その後、内閣不信任の可決を経て
総選挙に突入のさなか急死した
まあ、総理になるのが遅すぎた人と言えるのだけど
たしかに空気を読まないところはあった
大平は長いキャリアの多くを、外交問題の解決に腐心している
中国・台湾・韓国・ソ連といった周辺諸国との関係調整は
戦後日本にとって様々な意味で重要なものだったが
しかしそのモチベーションはなにより
大平じしんの思想によるところが大きかった
そしてそのためならば
アメリカの武力を積極的に容認する気配すらあった
財界に通じてアジア・中東の利権を優先したい角栄とも
意見の食い違うことがあるほどで
とくに
中国と台湾の板挟みとなった日中航空協定の調整においては
その意志力で中国を怯ませた
大平はクリスチャンの洗礼を受けていたが
一方では「永遠の今」という独自思想を座右に置いていた
それはハイデガー哲学の影響を色濃く窺わせるもので
キリスト教の教えと必ずしも矛盾はしないが
他人への説得力という意味では平易さに欠けるものだった
この場合の哲学とは
要するに理想主義実現のための現実的方法論である
どうしたって平易な表現で済むわけはないし
小さな世界で自足している人々には
理想そのものを愚弄しているという誤解を与えかねない
だから慎重にならざるを得なかった
その慎重さが、人の目には「鈍牛」に見えたということか続きを読む投稿日:2020.10.20
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