いまこそ、希望を
サルトル(著)
,レヴィ(著)
,海老坂武(訳)
/光文社古典新訳文庫
作品情報
1980年、サルトルの死と時を同じくして「朝日ジャーナル」に掲載され大反響を呼んだ対談の新訳。対談相手のレヴィは、鋭い批判でサルトル最晩年の思想に立ち向かう。生涯にわたる文学、哲学、政治行動などをふりかえりつつ、サルトルは率直に、あたたかく、誠実に、自らの全軌跡を語る。人生を歩んでいくなかで、社会や世界を見つめるなかで、立ち止まって考えるとき、確実な対談相手となりうるのがサルトルだ。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (4件のレビュー)
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本書は、かのサルトルが秘書のレヴィの問いに答えるかたちでまとめられた対談である。終盤、自分は長くてあと5年で死ぬだろうと語るサルトルだが、このわずか数カ月後に74歳で亡くなってしまう。身体の至るところ…にガタが来ていたという。日本ではサルトルの死とほぼ同時期に発表され、大きな反響を呼んだ。
ボーヴォワールはじめ、サルトルに近しい人たちは、この対談を読んだとき驚愕したという。そして強い怒りとともに、発表を控えるようにサルトルに進言した。その内容が、彼のこれまでの哲学からかけ離れたものだったからだ。彼らには、老いて思考力が衰えたサルトルを、40も年若のレヴィがうまく誘導して、自分に都合のいいように喋らせたと思えた。だが、サルトルは聞き入れず、発表にこだわった。
読んで感じるのは、レヴィの上から目線な態度と、詰問口調だ。かつてのサルトルなら、こうも言われたい放題にならなかったのではないかと思ってしまう。サルトルといえば、私の両親よりもさらに上の世代が同時代人となる。彼の実存主義は、現実世界に多大な影響を与えた。実は私も、若い頃にサルトルを読み耽った時期がある。「実存は本質に先立つ」や「アンガージュマン」という言葉は、若者の心をたぎらせるに十分な魅力があった。それだけにやはり本書を読むのは辛いものがあった。しかし、レヴィの詰問に押されがちながらも、ところどころにサルトルの強い意志と新しいサルトルが顔を見せる。訳者の海老坂氏の3本の解説がさすが秀逸。
行動する哲学者サルトルなら、ロシアの前身であるソ連に一時期接近していたサルトルが健在なら、今のウクライナ侵攻にどう発言するだろう。
……希望は、いつまでも負けてはいなかったんだね。……いつか勃発するかもしれない第三次世界大戦、地球というこの悲惨な集合体、こんなことで、絶望がわたしを誘惑しに戻ってくる。……だが、まさしくね、わたしはこれに抵抗し、自分ではわかっているのだが、希望のなかで死んでいくだろう。
対談の最後を希望という言葉で締めたサルトル。あと5年で何を書くつもりでいただろうか。続きを読む投稿日:2022.04.09
晩年のサルトルと秘書のベニィ・レビィとの対談記録である。対談編ということで、読みやすくはなっている一方で、哲学的な基本概念を理解していないとなかなか追いつけないだろう。特に「8.政治よりももっと根本的…な」以降は、「友愛」と倫理や暴力の関係性の話がメインとなっており、「友愛」の概念をある程度知識がないと理解が難しいだろう。やはり「希望」を語るには、過去の革命や、当時起きていた植民地解放運動の話を抜きには進めることはできない。現代は場所が変わっただけで、世界情勢はサルトルがいた時代と近くなってきているような気がする。仮にサルトルが今も生きていたら、技術や経済だけが発展したような、今日の世界に対してどのような見解を示すのだろうか、ということを考えざるを得ない。短い対談だが、これだけでもサルトルが20世紀の知識人を代表する存在だということを改めて感じとることができる。果たして現代においても「希望の中で生きている」と言えるのか。
訳者による解説が充実しているので、サルトルがどんな人かあまり知らない方は、まず本編ではなく解説から読んだ方がよい気がする。文学・思想に興味がある人やサルトルという人間に興味がある人にももちろんおすすめだ。続きを読む投稿日:2022.12.17
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