言論抑圧 矢内原事件の構図
将基面貴巳(著)
/ボイジャー
作品情報
言論はどのように封じ込められてしまうのか?
1937年、東京帝国大学教授の矢内原忠雄は、論文「国家の理想」が引き金となり、職を辞した。日中戦争勃発直後に起きたこの矢内原事件は、言論や思想が弾圧された時代の一コマとして名高い。本書は、出版界の状況や大学の内部抗争、政治の圧力といった複雑な構図をマイクロヒストリーの手法で読み解き、その実態を抉り出す。そこからは愛国心や学問の自由など、現代に通じる思想的な課題が浮かび上がる。
【目次】
序章 矢内原事件とマイクロヒストリー
第一章 言論人としての矢内原忠雄
1 戦前・戦中の活動と生活
2 政府批判とその真意
第二章 出版界と言論抑圧
1 舞台となった総合雑誌
2 政府当局の介入
3 非難キャンペーンと蓑田胸喜
4 周辺への捜査
第三章 東京帝国大学経済学部をめぐる抗争
1 揺れる経済学部
2 教授会前後の駆け引き
3 東京帝大総長の日記
第四章 辞職の日
1 情勢急転
2 大学の自治と政治の圧力
第五章 事件の波紋
1 知識人やメディアの受け止め方
2 矢内原事件が意味したもの
終章 矢内原事件に見る思想的諸問題
1 ふたつの愛国心
2 学問の自由と大学の自治
3 言論抑圧をどう捉えるか
あとがき
復刊にあたってのあとがき
主要参考文献
矢内原事件関連年表
【著者】
将基面貴巳
1967年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。シェフィールド大学大学院歴史学博士課程修了(Ph.D.) 。研究領域は政治思想史。現在はオタゴ大学人文学部歴史学教授。英国王立歴史学会フェロー。『ヨーロッパ政治思想の誕生』(名古屋大学出版会2013年)で第35回サントリー学芸賞受賞。著作に『政治診断学への招待』(講談社選書メチエ2006年)、『反「暴君」の思想史』(平凡社新書2002年)がある。最新刊は『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房)、『愛国の構造』(岩波書店)。
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商品情報
- シリーズ
- 言論抑圧 矢内原事件の構図
- 著者
- 将基面貴巳
- 出版社
- ボイジャー
- 書籍発売日
- 2014.09.24
- Reader Store発売日
- 2019.08.08
- ファイルサイズ
- 8.1MB
- ページ数
- 238ページ
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この作品のレビュー
平均 3.6 (6件のレビュー)
-
将基面貴巳『言論抑圧 矢内原事件の構図』中公新書読了。
『中央公論』掲載の「国家の理想」が反戦的とされ辞任に追い込まれた矢内原忠雄事件は戦前日本を代表する政治弾圧の一つだ。本書は歴史を複眼的に見る「…マイクロヒストリー」の手法から、言論抑圧事件に関与した人物や機関を徹底的に洗い直し、その複雑な構造を明らかにする一冊。
戦前の言論抑圧事件の構造とは、権力からのプレッシャーを軸に、右派国家主義者からの踏み込んだ攻撃と過剰なまでに遠慮する大学というもので、そのデジャブ感にくらくらしてしまう。
矢内原失脚の要因には、当局の抑圧と国家主義者からの批判だけではない。すなわち、学部内の権力闘争や大学総長のリーダーシップの欠如も大きく関わっている。著者は大学の自治能力の欠如に、権力の過剰な介入を招いたと指摘する。
矢内原事件の発端は、「国家の理想」という論考だ。キリスト者としての「永遠」の視座から現状を「撃つ」理想主義の立場から「現在」の国家を鋭く批判した。当時は日中戦争勃発直後で、大学人にも国家への貢献が強要されていた。矢内原事件は起こるべくして起こり、大学内からも「批判」をあびることとなる。
弾圧のきっかけをつくったのは言うまでもなく蓑田胸喜だ。蓑田は通常、狂信的右翼で済まされるが(蓑田研究も少ないという)、著者は蓑田のロジックも丁寧に点検する。蓑田によれば矢内原の立場とは、新約聖書より旧約聖書を重視する「エセ・クリスチャン」(そして蓑田こそが真のキリスト教認識という立場)というもので、この論旨には驚いた。
愛国という軸において矢内原も蓑田も一致する。しかし両者の違いは、蓑田が「あるがままの日本」を礼賛することであったのに対し、矢内原の場合は、現在を理想に近づけることとされた。二人の眼差しの違いは、キリスト者ならずとも、「あるがまま」を否定する度に「売国奴」連呼される現在が交差する。
矢内原事件はこれまで矢内原の立場からのみ「事件」として認識されてきた。事件は事件である。しかしその豊かな背景と思惑を腑分けする本書は、およそ80年前の事件を現在に接続する。「身体ばかり太って魂の痩せた人間を軽蔑する。諸君はそのような人間にならないように……」(矢内原忠雄の最終講義)
蛇足:矢内原事件に関連して、無教会キリスト者たちも一斉に摘発を受ける。しかしながら、矢内原の東大辞職に関しては、矢内原が伝道に専念できるとして歓迎的ムードであったというのは、ちょと「抉られる」ようであった。これこそ、「●●教は××」という通俗的認識を脱構築するものなのであろう。続きを読む投稿日:2015.03.20
我が愛する桐生悠々は「関東防空大演習を嗤ふ」という社説を
書いて、信濃毎日新聞を追われた。
ただの温泉旅行の写真が共産主義者の集まりだとされたのは
横浜事件。
美濃部達吉の天皇機関説は国体に反する…とされ、不敬罪で
告発された。
国が戦争へと向かった時代。言論・出版・集会の自由は
幾重もの鎖で絡めとられ、国が向かう方向に異を唱える
者には厳しい視線が向けられた。
1937年。東京帝国大学経済学部のひとりの教授がその職を
辞した。矢内原忠雄。戦後、強く請われて東京大学の総長
となった人物だが、彼は雑誌に掲載した論文と講演での
発言を問題視され象牙の塔を追われた。
無教会主義キリスト教の内村鑑三に師事した矢内原は信仰
に根差した平和主義者だった。日に日に軍靴の響きが高く
なる日本に警鐘を鳴らそうとした。「ひとまずこの国を
葬って下さい」と。
右翼の論客・蓑田胸喜に批判されたばかりか、同じ東京帝大
経済学部の教授たちのなかからも矢内原に批判的な意見が
続出する。
矢内原が教授会で陳謝することでことは収まるはずだった。
それが一転、辞職となったのは何故か。
周辺の人々が書き残したこと等の資料を引き、俗に矢内原
事件と呼ばれる一教授の辞職へ至る経緯を追っているのが
本書。
大学の自治vs国家権力だけではな。東京帝大内部の派閥
抗争、理想主義者と国家主義者の愛国心の軸足の違い。
それらが重なって事件は起こったのかと思える。
興味深い題材ではあるのだが、文章の読み難さで文脈を
理解するのに時間がかかった。
戦時下での出来事を現在に置いて語ることは無意味かも
しれない。しかし、シンクロする部分もあるのではないか。
安倍政権になってから、政府のやることに異論を唱えると
「日本人じゃないだろう」「左翼か」との雑言を見かける
ことが多くなった。
何度も引用しているクロンカイトの言葉じゃないが、国の
やることを無条件で受け入れるだけが愛国心じゃないと
思うんだよね。
言葉を封じ込めようとするのは、何も戦時下だけじゃない
のだよなぁ。続きを読む投稿日:2017.08.20
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