サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠
ジリアン・テット(著)
,土方奈美(訳)
/文春文庫
作品情報
1999年のラスベガス。ソニーは絶頂期にあるように見えた。しかし、舞台上でCEOの出井伸之がお披露目した「ウォークマン」の次世代商品は、2つの部門がそれぞれ別個に開発した、2つの互換性のない商品だった。それはソニーの後の凋落を予告するものだった。
世界の金融システムがメルトダウンし、デジタル版ウォークマンの覇権をめぐる戦いでソニーがアップルに完敗し、ニューヨーク市役所が効率的に市民サービスを提供できない背景には、共通の原因がある。それは何か――。謎かけのようなこの問いに、文化人類学者という特異な経歴を持つ、FT紙きってのジャーナリストが挑む。
企業であれ自治体であれ、あらゆる組織は「サイロ化」という罠に陥りがちである。分業化したそれぞれの部門が、それぞれの持つ情報や技術を部署の中だけでとどめてしまい、隣の部署とのあいだに壁を作ってしまう。日本語では「タコツボ化」と呼ばれるこの現象は、どんな組織でも普遍的に存在する。
経済学的な観点からすれば、身内での競争を生むような「サイロ」は無駄であるから、トップが「サイロ撲滅」の掛け声をかければ解決に向かう、と思いがちだ。ソニーの新しい経営者・ストリンガーも最初はそう考えた。しかし、彼は失敗した。壁は極めて強固で、一度できたサイロは容易には壊れない。
文化人類学者の視点を持つ著者は、「サイロ」が出来るのは人間に普遍な原因がある、と説く。人間に求められる技術が高度で専門的になればなるほど、サイロはむしろ必要とされるからだ。
人間は必ずサイロを作る、ならば、その利点を活用しつつ、その弊害を軽減する方法を探ろうとする画期的な論考が、本書である。
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商品情報
- シリーズ
- サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2019.05.09
- Reader Store発売日
- 2019.05.09
- ファイルサイズ
- 3MB
- ページ数
- 464ページ
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この作品のレビュー
平均 4.6 (6件のレビュー)
-
ちょっと仕事で使えそうだったので、さーっとつまみ読み。
評判通りの知的好奇心のくすぐられる良書だった。
サイロとは、会社で言えば、専門性が発達し過ぎて、
部署・部門間の連携・交流がなくなり、
結果、…会社や組織が衰退してしまうという事象。
まさしく多くの企業が多かれ少なかれ、サイロに陥っていると思います。
この問題を文化人類学者である著者が分析した本。
興味深かったのは、企業がサイロ化(専門化)することを著者は否定していなかったこと。
すなわち、今のビジネスや事業を進めていく上で、
専門化は必要なことだが、交流や情報共有がなくならない
仕掛け作り・仕組みづくりが重要というスタンスに妙に納得してしまった。
最近、至る所で言われている「多様性」とも本質的には同じことかなという印象。
事例が豊富な反面、ちょっと冗長なので、
読み物として楽しむ分には良いが、
サクッと結論を知りたいせっかちさんは、
サイロ化に陥ったソニーの章と、
サイロ化を防ぐべく奮闘したFacebookno章、
そして最後の著者のまとめだけでも読むだけで、
著者の主張の大枠は理解できると思われます。続きを読む投稿日:2022.03.03
企業だけでなくあらゆる組織が大きくなるにつれて、組織間の交流が減り、日本語でいうところの「タコつぼ」(英語ではサイロ)が構築されていきます。これは高度に分業・専門職化が進んだ現代社会では避けられない事…象ですが、サイロがあまりに強固すぎるとチャンスやリスクを見逃し、場合によっては組織の存亡を揺るがすような事態に陥ることがあるわけです。本書では、サイロが弊害をもたらした事例として、ソニー、UBS、世界金融危機時の経済学者を第1部で紹介し、第2部では、サイロの弊害をいかに克服するかという「サイロバスターズ」の事例として、シカゴ警察、フェイスブック、クリーブランド・クリニックをとりあげ、さらに他社のサイロから儲けを得ているブルーマウンテン・キャピタルが紹介されています。日本人読者からすれば、ソニーがデジタル音楽プレイヤーでアップルに惨敗した例はとてもわかりやすいのではないでしょうか。本書ではソニーでCEOを勤めたストリンガー氏のコメントも掲載されているなど、この章だけでも興味深く読めました。
著者は人類学というバックグラウンドを持ちながらフィナンシャルタイムズの編集長をつとめている人ですが、翻訳の質の高さもあって、非常に読みやすい文章でした。また事例もそれぞれ興味深く、シカゴ警察の「殺人予報マップ」作成の話や、クリーブランド・クリニックが外科と内科の壁を取り払ったことなどは、サイロに関係なく衝撃的な読み物でした。サイロは近代社会では絶対生まれるが、サイロの弊害に気をつけよ、そのためには本書でも紹介されている稀代の人類学者兼社会学者であるピエール・プルデューのような「インサイダー兼アウトサイダー的視点」を持った人が各組織に存在している必要がある(全員がそうなる必要はないが)、という終章の主張も大いに共感できました。非常に面白い本でした。続きを読む投稿日:2023.05.08
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