平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析
野口悠紀雄(著)
/幻冬舎単行本
作品情報
平成経済史が一気にわかる。
「平成」という時代の失敗の検証なしに、日本は前進できない!
日本人が遅れを取り続ける原因を徹底解明。
平成の30年間を一言で言えば、世界経済の大きな変化に日本経済が取り残された時代でした。平成時代を通じて、日本経済の国際的な地位は継続的に低下したのです。
ここで重要なのは、「努力したけれども取り残された」のではなく、「大きな変化が生じていることに気がつかなかったために取り残された」ということです。改革が必要だということが意識されず、条件の変化に対応しなかったのです。
平成の時代が終わることから、平成回顧ブームが起き、多くのメディアが「平成を振り返る」という特集を組んでいます。
振り返るのであれば、過去を懐かしむだけでなく、なぜこの時代が日本にとっての失敗の時代になってしまったのか、その原因を明らかにすることが重要です。そうすることによって、平成回顧ブームを意味あるものにすることができるはずです。
本書は、このような観点から、平成時代の経済を分析し、重要な選択の局面において、本当はどうすべきだったかを考えます。
それらを、いまの日本経済が抱える問題との関連で取り上げ、将来に向かって日本が何をなすべきかを検証します。主として日本の経済について述べますが、それだけでなく、世界経済についても言及します。とくに中国の変貌と成長が重要な関心事です。
本書が平成のつぎの時代において少しでも役に立つことができれば幸いです。
(「はじめに」より)
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この作品のレビュー
平均 3.7 (19件のレビュー)
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バブル崩壊後の平成時代の日本経済の低迷の原因は何なのか、というテーマに関しての本を続けて何冊か読んでいる。
本書も、そのようなテーマに関しての本である。世界経済は、1990年頃を境に大きく構造を変えて…いるが、日本はその構造変化に対応することが出来なかった。ばかりではなく、古い産業構造を温存することになる経済政策を続けてしまい、古い、競争力のない産業を保護し存続させてしまっていることを筆者は指摘している。古い産業構造を温存することになる経済政策とは、例えば、金融緩和や円安誘導、さらには例えばエコカー減税のような支援策や、雇用調整助成金のように競争力のなくなった産業での雇用を継続させるような施策を指している。すなわち、目の前の現状(例えば目の前の競争力のない産業の雇用)を守る、要するに現状維持を図るために色々なことをやり、現状維持は図れたが、世界の変化から取り残されてしまった、ということだ。この議論は、非常に説得力のある議論のように感じた。
バブル崩壊後、かつ、リーマンショック前の2004年頃、一時的に為替が円安に振れて輸出企業、特に電機会社の業績が回復したことがある。その際に、電機会社のいくつかは、日本に大型の工場をつくることを選択した。例えば、シャープ亀山工場であり、パナソニック茨木工場である。よく覚えているが、その当時、「亀山ブランド」という言葉があった。シャープの亀山工場は液晶テレビを製造する工場であったが、品質の良さ(すなわち不良率の低さ)を誇っていた。円安はいつまで続くか分からない中での国内工場建設への大型投資を正当化する(為替にかかわらず品質の良さで勝っていける)ためのスローガンであったと思うが、当時、この「亀山ブランド」という言葉に違和感を覚えた(電機産業以外の)サラリーマンは非常に多かったと思う。電機製品はどんな製品であれ、コモディティ化していくはずであり、早晩、日本以外の国も品質面では簡単に追いつくこととなり、更に円高方向に為替が振れた時に、亀山工場は立ちいかなくなるはずであると、割と多くのサラリーマンが感じていたはずである。結果はその懸念の通りとなった。シャープは経営破綻し、台湾の鴻海に買収された。鴻海はフォックスコンの親会社であるが、フォックスコンはアップル製品、iPhoneやiPadの製造を受託する会社である。すなわち、時代はアップルのように自社で製造工場を持たずに開発に特化する会社と、フォックスコンのようにそういった会社の製品を受託生産する会社の水平分業の時代に入ったのであるが、それにシャープやパナソニックは気がついていなかったということだ。整理して言えば、製造業においてすら、もはや製造すること自体は競争力の源泉にならず(フォックスコンのように、それを、これまでとは全く異なるレベル・規模で徹底すれば別だが)、製品企画力・開発力にしか競争の源泉は存在しないにもかかわらず、古いタイプの産業モデル(製造すること自体を競争力として、輸出で稼ぐ)に固執した結果、日本の企業は競争力を失っていった、という議論である。
日本経済の不調は構造的な問題であるというのが筆者の主張であるが、それに対して、筆者は次の3つの課題を解決することが必要であると主張している。
1) 人口の高齢化によってもたらされる問題に対処すること。とりわけ、労働力不足の問題と、将来の社会保障支出の問題に対処すること
2) 変化する世界の条件、とくに中国の急速な成長に対処すること
3) 改革の遅れを取り戻すこと。とりわけ、企業のビジネスモデルを転換させ、生産性の高い新しい産業を作りだすこと
現在の政府・日銀の政策の考え方は、「日本の衰退の原因は物価の下落だから、金融を緩和して物価を引き上げれば解決する」というものであり、それが現在の異次元金融緩和政策のベースとなっている。実はこの政策を取り始めたのは2013年であり、もうすぐ10年になる。この間、日本経済は好転の兆しを見せておらず、そもそも、金融緩和策によって(今年に入ってからを別にすれば)物価は上がらなかった。
私自身は、筆者の主張(日本が構造的に立ち遅れている)の方が合理性があると感じる。
最後に本書は2019年の発行であり、コロナ前の状況をベースに執筆されている。コロナ禍によって、また、ロシアのウクライナ侵攻によって世界の状況は更に変化しているが、その間に日本の産業競争力は世界に追いつこうとしているかと言われれば、全くそんなことはなくて、むしろ差は開きつつあるように思える。
引き続き、バブル崩壊後の平成日本経済の低迷の原因を探った本を読み続けるつもり。続きを読む投稿日:2022.07.24
大蔵官僚出身の学者が、「失われた30年」をわかりやすい言葉で分析している。
他の書籍などでも繰り返し語られているのと同じく、「既得権益」「問題の先送り」といったキーワードが出てくる。
過去の成功体…験が転じて、日本が「安心安全」を追及し、ある程度それが実現した(してしまった)のが日本からチャレンジや革新の気概を失わせてしまった根本的な問題なのかと思える。見方によっては「緩やかな衰退」が幸せなのかもしれない。SFモノで時々出てくる価値観だ。
中国や米国と日本の留学生の数の差が大きいというくだりでそれを感じた。中国も米国も、自分の国や通貨に頼らない(信用していない)がゆえにチャレンジするしかないという土壌の違いがあるのだと。続きを読む投稿日:2024.02.22
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