- 最新巻
[新版]競争戦略論II
マイケルE.ポーター(著)
,竹内弘高(著)
,DIAMONDハーバードビジネスレビュー編集部(著)
/ダイヤモンド社
この作品のレビュー
平均 3.3 (3件のレビュー)
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現代においても、地理的要因は企業にとって極めて重要である。かつては安い人件費やインフラの整備状況といった比較優位をもたらす要素が重要だったが、現代は、イノベーションを促す良好な競争環境が重要であり、競…合の存在、先進的なニーズを持った市場の存在、関連産業と支援産業の充実が揃った地域において事業活動のコアな部分を展開することが、競争優位の確立に不可欠になってきている。
産業ごとに、適した地域が存在し、産業クラスターが形成され、地域の経済発展の原動力にもなる。
企業は、競争を忌避して規制強化を求めるロビー活動を行うよりも適切な競争の中に身を置くことで競争優位の獲得につながり、地方政府も、主力企業を保護する政策をとるよりも、競争を促進する誘致に力を入れる方が経済成長を実現できる。
グローバルに活動する企業でも、優位の源泉は経営資源を地理的に集中させることで確立するものである。続きを読む投稿日:2020.11.10
『[新版]競争戦略論』の第二巻。ここでは、国の競争優位やクラスターなどいわゆる立地(Location)の競争戦略が主に取り上げられる。さらに、環境対応、インナーシティー(都市のスラム街)、医療制度、に…ついて競争戦略の観点から論じられる。ポーターが提唱する競争の原理は、営利企業においてだけ必要なのではなく、この本の中でも出てくるように、非営利団体、財団、政府、そして国にも適用される。
「今日、あらゆる次元のすべての組織が、価値を提供するために競争しなければならない。「価値」とは、顧客のニーズ(もしくはニーズ以上のもの)を効率的に満たす能力のことである。企業は顧客に価値を提供しなければならない」
そしてこの宣言に続けられるのが次の文章である。
「国は事業を行う企業に立地(Location)の価値を提供しなければならない」
ここで言われる「価値」は古典的な考えでは天然資源や労働力、金利などであったが、グローバル化した世界にあってはそういったものの重要性は薄れていっている。特に知識集約型の産業においては、天然資源についてはほとんど問題にならないし、港湾や鉄道などの輸送能力についても大きな要素にはならない。
こういった多様な状況を踏まえて、ポーターは「ダイヤモンド・フレーム」という立地の競争環境を定めるフレームワークを提案する。このフレームは、ファイブフォースやバリューチェーンほどには広まらなかったので、知っている人も少ないと思うが、①生産要素条件、②需要条件、③関連産業・支援産業、④企業戦略・構造・競合関係、の4つの要因を軸に競争環境を論じるものである。
このような立地の競争理論から生まれたのが、クラスター理論である。現在でいうとシリコンバレーが最も典型的なクラスターと呼べるのではないだろうか。本書でも米国中心に大小さまざまなクラスターが紹介されているが、産業ごとに探せばクラスターはいくつも見つけることができる。日本では豊田市周辺が自動車産業のクラスターと呼べるだろうし、京都や浜松そして眼鏡の鯖江もそう呼べるかもしれない。また、本書以降に成立したクラスターとしては中国の深センが第一に挙げられるだろう。なお、日本における東京一極集中はこの時点でも非効率を招くものとして問題を指摘されている。米国におけるクラスターの地域多様性やポルトガルのそれと比べても規模の面でも特異なのである。
ポーターにより、クラスターという視点から競争を見ることが提言されたが、それは国際競争の本質が企業単位というよりもクラスター単位で行われるとみる方が都合がよいからである。そうなると、国の競争戦略やもっと限定化された立地の競争戦略が重要となってくるのである。特に、コスト競争から差別化競争、模倣からイノベーションへと移行するにあたりクラスターが果たす役割が非常に重要となるという指摘は結果としても正しかった。特に中国におけるクラスター形成に関しては政府の関与も含めて興味深く、今後とも分析が必要な領域であるように思われる。
また、グローバル企業を念頭においた機能の配置と調整、ホームベースの概念もまた国の競争優位性と関連付けられる。一時的に安い労働力を求めて中国に生産拠点が作られたが、そのことはよいとして、配置と調整において正しい選択ができていたのかは振り返って分析するべきだと思われる。
本書では書かれた時代背景もあり、日本の自動車メーカーや家電産業が成功事例として大きく取り上げられている。日本の天然資源の少なさについても、そのことが工夫につながり、ジャスト・イン・タイム製造というイノベーションが生まれたとプラスに働いたと評価する。また、日本の消費者の品質への要求条件の厳しさや狭い住宅環境、夏の高温多湿と冬の厳寒降雪といった悪い気候条件などが、需要条件としてグローバルな競争優位につながることになったと論じられている。日本で顕著な各産業における国内での競合企業の多さも、今から見るとその是非を問うべきだと思われるが、グローバルで競争を行う上でのプラスになっていたと解説する。
競争環境がさらに進んだ現在、日本は他の国との競争において、企業に価値を提供できているのだろうか。そして、おそらくそこに住む人(顧客)に対して価値提供を行っているのだろうか。GAFAなどのインターネットジャイアントやスマートフォンなどの高度にグローバル化されたエコシステムが作り上げられた通信産業には、本書で論じられた国の競争戦略論では通用しなくなっているようにも思う。
「国レベルでの競争力という場合、唯一意味のある概念は生産性である」と書かれたとき、日本は生産性の高い国の代表として想起されていたはずだ。現在、日本の一人当たり生産性は先進国でも低位に沈む。
最後の三つの章は、旧版では省略されていた章である。都市部の貧困世帯が集まるインナーシティを扱った章や、アメリカの事情に特有な議論が多い医療制度を扱った章が、日本に向けた版においてかつて省略されたのは理解できる。
一方、環境については今日的にはさらに価値がある論考となっている。環境への対応がコストではなく、結果として競争力の向上につながるというものだが、日本企業の省エネへの取組が競争力となっていったことが描かれている。地球温暖化問題や産業廃棄物の削減はグローバルに取り組む課題となっている。この領域においては、政府が適切な「よい」規制を行うことが重要であるとしている。「環境戦略を総合的な経営課題の一つとして扱わなくてはならない」とするのはSDGsの先取りとも言えるかもしれない。
国の競争優位を論じた章の初出は1990年、クラスターおよび複数の立地にまたがる競争を論じた二つの章の初出は1998年。ここで言われたことが、その後のこの20年においてどこまで当てはまっているか、特に日本経済の停滞をどの程度よく説明しているかを考えながら読むべきだと思う。その意味でも、時代を超えて有効な書籍であると言うことができるのではないだろうか。
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『[新版]競争戦略論I』(マイケル・ポーター)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4478008426続きを読む投稿日:2020.02.11
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