はだしのゲン わたしの遺書
中沢啓治(著)
/朝日学生新聞社
作品情報
自身の被爆体験をもとにしたまんが『はだしのゲン』で知られ、原爆の恐ろしさを訴え続けてきた著者が、73年の人生の幕を閉じる直前に力をふりしぼり「遺書」の代わりに残した作品です。「戦争のおろかさ」「原爆の恐ろしさ」、そして「人間のたくましさ」を自身の半生をふり返りながら語りつくした自伝。すべての子どもたちと、彼らを見守る大人たちに残したかった平和への思いが224ページの中に込められています。
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この作品のレビュー
平均 4.8 (12件のレビュー)
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昨年12月に中沢啓治さんが亡くなった。白内障で視力がおとろえ、数年前に漫画家を引退されたが、原爆の経験を伝える講演活動はずっと続けておられたという。
『はだしのゲン』を最初に読んだのは小学校のとき…。学童の本棚だったか、学校の図書室か、学級文庫か、どこにあった本だったかは忘れたが、こわくてこわくて、でも何度も読んだ。小学校の3年ぐらいのときには、市民ホールかどこかで、映画の「はだしのゲン」を見た。漫画で、ピカドンのあと、ゲンの父と姉と弟が家の下敷きになって火につつまれて死んでいくことは知っていたが、それが実写版の映画で描かれていて、倒壊した家が火につつまれる場面では、見たあとで「もう、お姉ちゃんは死んでたのかなあ」と言ったことをおぼえている。
ゲンは中沢さん自身だという。
この本には、表紙カバーにも、中の見開きにも、『はだしのゲン』から、いくつかの場面が掲載されている。ゲンの物語を思い出しながら、そこにうつしだされている中沢さん自身の「あの日」からの経験を読む。
▼ぼくは、小学一年生のときの原爆が落ちた日の情景を、いまでもありありと覚えています。恐怖心が吹き飛んで、ありのままをじーっと目に焼き付けていましたから、映画のセットをつくれと言われればつくれるほど、ここに死体がこんなふうにあって、うめいていたとか、そういうことが客観的に頭の中に入っている。左右にどういう死体が並んでいたとか、即座にぱーっと浮かんできます。
六歳のぼくの網膜に焼き付いている原爆の姿を『はだしのゲン』で徹底的にかいてやろうと思ったのです。戦争で、原爆で、人間がどういうふうになるかということを徹底的に書いてやるぞ、とね。
『はだしのゲン』は、被爆のシーンがリアルだとよく言われますが、本当は、もっともっとリアルにかきたかったのです。けれど、回を追うごとに読者から「気持ち悪い」という声が出だし、ぼくは本当は心外なんだけど、読者にそっぽを向かれては意味がないと思い、かなり表現をゆるめ、極力残酷さを薄めるようにしてかきました。
原爆の悲惨さを見てくれて、本当に感じてくれたら、作者冥利につきると思います。だから描写をゆるめてかくことは本当はしたくなかったのです。
こんな甘い表現が真に迫っているだろうか。原爆というのは本当はああいうものじゃない。ものすごいんだと。そういう気持ちが離れないのです。(pp.178-179)
あんなものじゃない、もっとすごいんだという経験を、そのとき、そこにいなかった人間はどう感じることができるだろう。経験者はいなくなっていく。二度とこんな経験をする人がないようにというその思いが、その人がこの世からいなくなることで消えないようにと思う。それには、どういうすべがあるだろう。
こないだ、児玉隆也の『君は天皇を見たか』を読んだせいもあって、昭和天皇が広島へ来た時の話が印象に残った。昭和22年の12月、焼け跡の沿道に市民と寒風にさらされた児童が並ばされ、手製の旗を無心に振った、という。
天皇が来る前に、学校では半紙が一枚ずつ配られ、真ん中に円をかいて赤で塗り、山で竹を採ってきて、その半紙を巻いてもってこいと先生に言われた、と中沢さんは書いている。
▼天皇陛下が広島においでになるから、全校児童が国旗を持って、歓迎すると言うのです。ぼくはそれをきいたときに、冗談じゃないと思いました。天皇の命令で戦争が始まり、その結果、原爆を落とされ、おやじたちは死んだのだ。なんで、その張本人に旗をふらなくちゃいけないんだと。翌日は、旗をつくらずに登校しました。
…(略)…
ぼくの目の前を、昭和天皇が乗った車が通りすぎました。白いマフラーをして、黒いコートを着て、座っている姿が見えました。
みんなが「万歳! 万歳!」と言っている中で、寒さの中、体中が怒りで火のように燃え上がり、かーっと熱くなりました。飛びかかっていって、天皇の首にかみついてやりたいような気持ちになって、下駄で足元にあった瓦の破片をけりました。その破片は、天皇が乗った車のタイヤにあたって、ぴーんと跳ね返りました。
原爆を受けた広島市民の慰問という形で天皇は来たわけですが、ぼくは、「慰問なら、イモの一つもくれりゃあいい」と思っていました。(pp.124-125)
中沢さんの母は、原爆で夫と子ども3人、自分の妹と弟、それにご両親を亡くしているということをこの本で知った。原爆のことなんか絶対に思い出したくもなかったし、漫画にもかきたくなかったという中沢さんが、原爆のことを漫画にかくきっかけとなったのは、母の死だった。火葬場で焼いたあと、灰ばかりで母の骨がなかった、のど仏の骨どころか頭蓋骨さえなかった、それは放射能が母の骨をくいつくしてスカスカのもろいものにしていたからだと中沢さんは書いている。「おふくろの骨を返せ!!」「絶対に許さんぞ!!」の思いが、中沢さんの原爆漫画の第一作『黒い雨にうたれて』になったのだという。
6歳の眼に焼き付いた被爆の光景。その中沢さんが亡くなって、『はだしのゲン』を久しぶりに読もうと思った。
(3/21了)続きを読む投稿日:2013.03.23
実を言うと、私は『はだしのゲン』が読めていない。最初に読んだ時の原爆を被爆した姿が恐ろしかったので続けて読むのをさけた。私は、ホラー系の映画なども嫌いだ。怖がりなのだ。原爆被害をテーマにして、漫画に…するってすごいことだと思う。でも、詠めない。
自伝として、本書は書かれている。中沢啓治のことをほとんど知らなかった。1939年広島市生まれ。1945年8月6日、小学1年生の時に被爆する。中沢啓治の家は、爆心地から1km余、離れているところにある。投下された原爆で、父親、姉、弟を亡くした。そして、原爆の衝撃で、8月6日に早産で生まれた妹も、4ヶ月で亡くした。中沢啓治は、通学途中で、壁と樹木があったので奇跡的に生き残った。そして、原爆症の症状も出て、苦しむ。原爆投下の後の街の風景が、真っ黒こげの死体がゴロゴロしていた。小学1年生の目には地獄絵のような有様が、焼き付けられた。そして、手塚治虫の漫画を読んで、漫画家になろうと決意するのだった。中学卒業後、母親の細腕で支えられている貧しい家庭だったので、中学を卒業して、看板屋に就職する。漫画を投稿し続け、22歳の時に、漫画家のアシスタントとして状況。原爆症であることを同僚に打ち明けると、白い目で見られる。原爆症が伝染するという誤った情報があった。そのため、一切原爆や原爆症のことを語らなかった。母親が脳溢血で倒れた。しかし、原爆症の指定病に該当しないと言われた。兄弟で捻出して、母親の病院代を負担する。1966年著者27歳の時に母親の死なれる。そして焼かれた遺骨がほとんどなかった。原爆は母親から骨まで破壊した。その時に感じた原爆への怒りが、原爆について漫画で表現しようとする。『黒い雨にうたれて』と言う漫画を書いたが、どの漫画会社も採用してくれなかった。
1973年から、週刊少年ジャンプで『はだしのゲン』の連載を始める。その頃の漫画は『ハレンチ学園』『ど根性ガエル』が人気だった。『はだしのゲン』の連載が始まると、漫画家仲間からは、「お前の漫画は邪道だ。子供にああいう残酷なものを見せるな」と批判された。
そうか。週刊少年ジャンプで読んでいたのだ。そのころは青年になっているのに、怖くて読めなかった。その原爆の投下後の残酷なシーンは、自らの体験であり、その中でも家族思いで前向きの漫画を書こうとしていたのだ。
ふーむ。この本を読みながら、はだしのゲンは著者の自分の体験だったことを知った。原爆の持つ恐ろしさ、そして人体実験のようなアメリカによる調査など、怒りはアメリカに向けられ、原爆に向けられ、平和を願う。至極真っ当な生き方であり、表現だったのだ。本書も、最初の頃の説明は、実に原爆の悲惨さを描いている。それが、原爆被害の事実なのだ。続きを読む投稿日:2022.08.06
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