質問する,問い返す-主体的に学ぶということ
名古谷隆彦(著)
/岩波ジュニア新書
この作品のレビュー
平均 4.1 (14件のレビュー)
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主体的に学ぶとはどういうことか。
今までよりも色んな視点で物事を考えるきっかけを与えてくれた本でした。
子どもの中学受験過去問 国語で出題され、面白かったので図書館で借り読みました。再度読みたくなる、…手元に欲しい一冊です。続きを読む投稿日:2023.10.20
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名古谷隆彦
東京都出身。同志社大学法学部卒。1994年共同通信社入社。本社社会部、福島支局、旭川支局を経て本社社会部。警視庁捜査一課や文部科学省を担当。大阪支社社会部デスクを経て、現在、本社…社会部で教育担当デスク
「問う」という行為は、簡単なように見えてとても奥の深いものです。用意した質問 に順番に答えてもらうだけなら単純ですが、こちらが問えば相手から逆に質問を受け ることもあります。返ってきた言葉の真意を探りつつ、やり取りは続いていきます。 人間というのは複雑で、矛盾に満ちた生き物です。その本質に易々と近づくことはで きません。話を聞く、疑問に思う、尋ねる、もっと知りたいと思う、また尋ねる。 頭の中は常にフル回転しています。その積み重ねが、記者で言えば原稿の厚みとなって 現れてきます。
日本では、小さいころから健常者と障害者が日常的に机を並べる経験がほとんどありません。障害を持つ子どもを特別支援学級などに振り分けてしまうからです。欧米では障害児が特別支援学級ではなく、健常児と同じ教室で学ぶ共生(インクルーシブ)教 育が進んでいますが、日本では両者が共に学ぶことへの抵抗感が根強く残っていま す。幼少期から多様性に触れる機会を奪われ続けていることが、声かけを阻む原因に なっているのではないかという見方は、この問題に新たな視座を示してくれるもので した。
私は学齢期に視覚障害者と接する機会が一度もなく、先輩との出会いが人生で初めての経験でした。もちろん、彼一人に出会ったからといって、視覚障害者への見識が深まったとは思いません。ただ、生身の人間を具体的にイメージできるようになったことで、遠い存在ではなくなりました。
新しい発想の多くは、何もないところから創出されるのではなく、すでにあるものを足がかりとして生まれます。引用自体は恥ずかしいことではなく、先人の知恵を借りて新たな価値を生み出す手助けとなるものです。出典部分の責任を外部に委ねること で、知的な活動を効率化できる利点もあります。
若者の新聞離れが進んでいるので、少し宣伝をさせてもらいますと、新聞を読む行為は「嫌でも多様な情報に触れる」という点で、パクリレポートの作成と共通する部分があります。自分の興味のある記事を読んでいる時、少し視線を移せばすぐ隣に気になる見出しを見つけることがあります。それまで見向きもしなかった分野に、関心を持つチャンスが常に待ち構えているのです。ごった煮が新聞の最大の魅力であり、 クリッピングニュースのように、自分の関心のあるニュースだけを集めて読んでいて も、世界の幅は広がりません。
試験には歴史や文学など多くの科目がありますが、とりわけ哲学は難関と言われています。二〇一五年には「人は自らの過去が形作ったものなのか」というわずか一文の問題が出題されました。受験生は四時間かけてこの問いに答えます。バカロレアは国民的行事であり、哲学の出題は国民の関心事でもあります。担当の国民教育大臣の記者会見では、記者から「今回の哲学の問題にはどのような感想を持たれましたか」と所感を求める質問が出るそうです。
ところが、日本の高校では社会科の倫理で哲学者の言葉や歴史に触れることはあっても、哲学の考え方にまで踏み込む授業はほとんどありません。高校で倫理を教える五十代の教員は「学校教育では倫理が軽視され、約三十年にわたって専門の教員が採用されていない。地理歴史の専門教員が代行するケースもあるが、倫理を開講できななげい学校もある」と嘆きます。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が出している哲学に関する報告書にも「日本の哲学教育の日的は、生徒の批判的思考力や課題に対する合理的な議論をこしらえる能力の育成に置かれていない」と批判的に記されています。誰もが必要だと認める力なのに、日本ではその育成の場がなかなか見当たりません。
中央教育審議会の委員などを歴任した梶田叡一氏が示した「確かな学力の氷山モデ ル」は、海面から姿を現している氷の部分を「知識・技能」と定義し、これを見える 学力と呼びました。水面下には見えにくい学力として「思考力」があり、さらに氷山 の下部には、ほとんど見えない学力として「関心・意欲」が眠っています。思考力は 論述問題等で測定することはできますが、関心・意欲は計測できない力とされていま す。
文部科学省は、これからの時代を見据えた学力観として「学力の三要素」を掲げています。三要素というのは、①「基礎的・基本的な知識・技能の習得」、②「これらを活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力」、 ③「主体的に学習に取 り組む態度や人間性」と定義されています。暗記を中心とした受験学力は①に該当 し、その中でも思考力や判断力を必要とする問題に対処できる力は②、テストでは測りにくく、対人関係を円滑に結べる力や学習に向かう意欲のような力が③の主体的な態度に当てはまります。
それでは、少し想像力を膨らませてみましょうか。東内で物を食べる行為だったらいかがですか。食べこぼしやにおいがなければ「人に迷惑をかけてはいない」と強弁できるかもしれませんが、隣の座席で飲食されて気にならない人はほとんどいないはずです。同様に考えていくと、車内での化粧に多くの人が抵抗を感じるのは理解できるでしょう。年齢の高い方の中には「東内で化粧なんてとんでもない。議論の余地などまったくない」と、切って捨てる人もいるかもしれません。鉄道会社も、東内での化粧は道徳的に正しくない行為として利用者に理解を求めたのです。
「本を読んでいる時は筆者に対していろんな自分をさらけ出している気がする。筆者と対話している感じと言えば分かってもらえるだろうか。自分が読書好きなのは、そういう時間を大切にしているからだ と思う」
女子大に通う学生に、どうして哲学カフェに来るのか尋ねてみました。「大学の友達とはいつも軽い話しかしない。生産性のないことを言うと、迷惑がられるような雰囲気があるから。本当は真剣な話をしてみたいけど、つまらない人だと思われるのが怖くて、なかなか踏み込めない」。どうやら周囲の友人の感情にずいぶん気を遣っているようです。 参加する他の学生たちも「本当は友達やいろんな大人と語り合って、物事を深く考えてみたかった。でも、これまでの人生では突き詰めて一つのことを考える場がどこにもなかった」と口をそろえます。育ってきた環境にどこか不全感を抱えているような学生たちにとって、哲学カフェは自らの考えを表現できる数少ない場なのかもしれません。
かつては「教育の成果なんて、すぐに現れるものではないし、先生のよさもずっと後になって分かる」という学校へのおおらかな見方がありました。私の両親も、教育の本当の価値は、大人になってから分かると考えていました。評判の悪い先生が担任になった時も決して見放すことはなく、保護者が一緒になって育てていこうという。 雰囲気がありました。折り合いの悪い先生について私が愚痴を言うと、「反面教師と言ってね、どんな先生でも学ぶべきところはあるのよ」と言いくるめられた覚えもあります。
教室で行われている日々の教育活動は、きちんと検証される必要があります。しかし、限られた時間で成果を求められれば、安易に数値を上げる方向になびいてしまうのが人間というものです。学力テストで不正をした教員たちの動機を思い起こしてみてください。子どもの十年後、二十年後の成長よりも、日先の成果ばかりを追い求めるのは、一体誰のためなのでしょうか。誰に対する説明責任を果たそうとした結果、 ゆがみが生じ、過ちが繰り返されてきたのでしょうか。 企業の場合、それでも成果が上がれば多少のゆがみは利益が吸収してくれるのかもしれません。しかし、教育現場では、わずかであっても子どもたちの人間形成に暗い影を落とします。続きを読む投稿日:2023.10.20
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