この作品のレビュー
平均 4.3 (5件のレビュー)
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1975年から1981年のオリコンヒットチャートを辿っているだけなのに、そこには日本の社会の変容の物語が投影されている、という本です。なぜ、この時期か?たぶん1960年生まれの著者が人格形成し社会と向…き合い始めた時期であろうし、また、歌謡曲というジャンルの終わりの始まりの時期だったから、なのだと思います。時代の歌としての歌謡曲の可能性を切り開こうとし、それに成功した阿久悠と、時代の歌ということを信じずに歌謡曲を個人の歌としてのニューミュージック化していくことに成功した松本隆、ふたりの作詞家の軌跡が補助線となります。それは、山口百恵という存在を強烈に意識し、しかもそれに触れず山口百恵包囲網というシーンを作り出したプロデューサーと、松田聖子を得て自分の個人活動時代の質的挑戦を商業的に大成功させたプロデューサーの対比の物語でもあります。それにしてもこの時代のヒットチャートにおけるふたりの占有率、ハンパないです。わかっていたけど歌謡曲って商品だったんだな、と改めて。つまり、歌謡曲という商品マーケティングの歴史なのでもありました。古い思い出話だけど80年代前半、スキーに行くクルマの中で、洋楽に負けないくらい聴いていたのがユーミン、山達であり、それと同等な存在であったのが聖子ちゃんのカセットだったのに気づいたことがあります。誰のクルマにも積んであったなぁ。そういうシーンに入れたことが松本隆の歌詞の力であり、彼の「はっぴいえんど」時代の仲間の力なのだったのですね。Jポップスが現れ、チャートという意味が最後の輝きを放ち、i Tuneによってアルバムという表現が解体される前夜の歴史についての本でした。続きを読む
投稿日:2018.03.18
のっけからオモロいのよ。予想はしてたけど。
阿久悠と松本隆を軸に辿る歌謡曲歴史本。
「百恵と昌子はそんなに仲が良くない」とか断言しちゃうし、昌子のデビュー以降の下降と淳子百恵の初期デットヒート(冬…色vsはじ出来)もデータを使ってシンプルかつデジタルに表現してていい。
ところどころ挟まれる阿久悠及び松本隆のコメントもその時期によってニュアンスがかなり異なるものを併記してあったり、事実を丁寧に拾うことで逆に幅というかボカシが入って読みやすい。
「とてもテレビに出られるようなルックスではなかった」小坂明子の才能「のみ」を大衆が受け入れたこと、バラとパンジーと子犬とあなたが同格に扱われ男の矮小化暗示を読み取った阿久悠はさすが。
静岡の二人組がスタ誕東京予選に潜り込むカラクリも詳しい。「当時の歌の教師の友人が日テレ池田Pの嫁の親戚」つまり「赤の他人」をコネとツテと考え入院中の池田に直談判。こないだ1968紅白観てる時も思ったけど昔の芸能人は美貌や才能のみならず、メンタルからしてバケモノ揃い。クッキーもやはりヤバいよね。
世間で広く言われている「スタ誕のきっかけ」が日テレとナベプロの仲違いではないと詳しく解説。
確かにこの本の通りであれば両者の決裂は71年ではなく73年となるし、当初ナベプロがスタ誕に参加していたことも辻褄が合う。そこまでしてやって得られたのがあいざき進也だけなら目も当てられないが、後続番組で太田裕美を得たのであれば事務所としても業界としてもまぁうん。
1976年初頭、およたいのせいで3週連続2位だった白い約束。その後横須賀で1位を5週続け秋にはおよたいの作曲家を迎えてパルゆれで1位(これも5週)。続く赤衝も同じ佐瀬寿一。そして彼は1982年イマ翳や銀伝も。(後ろから前からも)
およたいの作曲家をその年に使ってくるのはさすが酒井and川瀬。
77-78年を百恵vs阿久悠(百恵より上位のピンク沢田、同世代ライバルの淳子岩崎石川)と評する。なるほど。さゆりを入れるのはちと無理があるけれどホリプロ3人娘だし昌子の代わりか。
阿久悠がジュリーに託したハンフリーボガードの痩せ我慢の美学、松本隆が原田真二に託したジェームスディーンの傷つきやすさ、とはまぁうまいこといいますね。てか70歳オーバーの方々って原田真二が美少年だったって仰いますけど。うーん。そうね、うん。うーーーん。でもそれまでにも小林旭とか三田明とか草刈正雄とかいたでしょう?美のホンモノが。
松本隆の「花しぐれ」「リップスティック」「パープルシャドウ」全て1978年。(リだけ筒美、あとは都倉)この3曲はどれも心鷲掴みソングだけどそりゃそうだよなって感じ。
歌詞に勝手にもシンドバッドも出てこない。天才ってこういう角度と速度でふらふらっと来るんですよねぇ。一方たそがれマイラブも歌詞に一切出てこないけどこちらは阿久悠の「思い出せない」がタイトル変更させられたと。色々ありますね。
1978レコ大での百恵の後ろ姿を阿久悠は「喪服のような黒いドレス、凍てつく気配、受賞者を道化にしてしまうほどの矜持の証明」と回顧。百恵も事前インタビューで「もらえるなら欲しい。歌わされる歌手から歌う歌手になったならファンやスタッフのおかげ、そのためにも」と。
なんなんだよ百恵。これ以上好きにさせないでくれよ。
ただピンク紅白ボイコットに対する紅白側の防御?予防的報復?はいくらなんでも言い過ぎなのでは?「この年の新人はなんと11組!」ってアンタ。1977も1979も10組だし。言いがかりでしょこれは。結果日テレは惨敗してるし。
1979年1月のカメアミがピンクと阿久悠にとっての最後の1位。その年の5月にはTop20に阿久悠の歌がゼロの週を迎える。知らなんだ。阿久悠の名曲はこの後も続くけれど(舟唄とか雨の慕情とか)これまで時代そのものを作ってきた彼の歌詞も文字通り70年代で終わるんだなぁ。本人も「全力スイングしてるのに空気を切る音しかしない」と。
著者が言うように80年代以降の作曲家と組まなかったからというのが敗因のひとつか。ニューミュージックやシンガーソングライターの台頭もあったとはいえ、松本隆はその後もずっとトップな訳だし。やはり作曲家の方がコントロールを持ってんだろか。その曲が売れるには作曲家、残るには作詞家なのかな。
松本隆の初1位がセクバイなのも驚き。阿久悠の最後の1位と同じ年なのね。CMタイアップのためセクバイNo1は変えられないフレーズ当初ダサいフレーズに拒否反応を示し最後に1回しか入れてなかったのを連呼する。「ダサさを恐れないことを学んだ」と松本隆。
ダンディズムの表現に際し大掛かりな舞台装置を必要としたフィクションの阿久悠(カサダン)、女々しい都会的な男の日常の松本隆(ルビ指)
最後の章では聖子とマッチ、時々ひろ子キョンキョンの顔ぶれで松本隆の1位曲列挙で始まる。
12歳差の天才作詞家の頂点をパラレルに紹介してんのかなと思いきや、自身編纂のベストアルバムに話が移る。年代順やカテゴリー別になっている阿久悠と発売日よテーマもわざとバラバラの松本隆。(どう考えてもこっちの方が面倒)
著者は「自分の作品は時代とかテーマとか関係ない」という松本隆の主張を感じ取る。まるで聖子が80年代を代表するアイドルと言われながらも永遠のアイドルとなることでその時代を無意味化するように。と。作詞の仕事がなくなってからの晩年、阿久悠は自身が間違っていなかった確認するかのように執筆、翻って松本隆は自叙伝や回顧録など出していない。
ここもグッとくる分析だなー。阿久悠は自身の15ヶ条にあるようにひばりで完成されたとする歌謡曲の新しい形を模索して「歌謡曲っぽくないもの」を作っていったんだけど、結局その時代を作って、時代を反映してみたいな感じなんでしょうね。ところが松本隆は「すみれひまわりフリージア」「ディンギー」と訳の分からない意味不明羅列や誰も知らない単語でなんとなく行っちゃう。
光り輝く歌手や歌は「その時代」の代表者と言われるけども、その時代が過ぎてもまだ光っていれば「あれ?時代関係なくない?」となる。これは阿久悠のもそうなんだけど、作り手にその気持ちがあるかないかはやはり最後の角度が違ってくるような。
歌と時代が密接な関係にあった70年代までと、売れたかどうかの相対的関係の80年代以降。
なるほどね。
なんだけども。
やはり組む作曲家、もっというとジャニーズと近いかどうかは大きな意味を持つような。
松本隆の歌詞だって今から24年前、2000年であっても「古めかしい」のが味だったわけで。阿久悠と筒美京平でキンキやSMAPに提供すれば充分にミリオン出せたと思うけども。
もちろんところどころ「違いますよそれ」というのもあるので、私がびっくりしたポイントも間違いなのかも知れない。でも当時のタレント本人だけでなく事務所やレコード会社などの思惑を想像出来て楽しかった。出来ることなら大物作詞家作曲家やトップアイドル同士の売上戦争に挟まれてキュウキュウ言いたい。「その週は百恵が出してきますよ」みたいな。10日だと血尿出るだろうから1週間で。続きを読む投稿日:2024.04.15
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