この作品のレビュー
平均 3.9 (8件のレビュー)
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1929年に発生した未曾有の大恐慌を庶民の目線から捉え、再現した作品。取っつきにくいテーマであるが、難解な専門用語や数式を用いることなく、かつ忠実に当時の経済状況・政策を解説している。
世界大恐慌が…発生した基となるのは「第一次世界大戦が主要大国間の力関係を変えてしまった」こと。イギリスの経済力の低下とそれに関わるアメリカ合衆国の台頭が、資本主義システム全体を不安定にしたなかで、世界の農業問題が深刻化し、アメリカの内需が限界を迎えつつあった1920年代末に大恐慌は発生した。
本書は大変分かりやすく記されてるが、分からない部分もあった。特に第3章市場崩壊のメカニズムは、知識不足からかなり流し読みしてしまった。経済学を基本的なところから学ばなければならないと痛感した次第。
米国が本書の中心舞台になっていることは仕方ないが、日本や欧州、ソ連などでの状況をもう少し記載してほしかった点が唯一の物足りないところ。
もう少し学び直してから再読したい一冊。続きを読む投稿日:2020.11.13
神保町の古本屋で偶然見つけた本。日経平均が最高値を記録したこともあり、1929年に起きた大恐慌を知りたいと思い読んでみました。
大恐慌が始まったのは1929年10月24日。この日からニューヨーク株式…市場は暴落を続け、株価は7分の1に下落しました。
本書は世界を巻き込んだ大恐慌を、当時の新聞記事や証言から、経済破綻と様々な経済政策をいきいきとわかりやすく描写しています。
この機会に本書に記述されている大恐慌のメカニズムをまとめてみました。
○第一次大戦ショックによる金本位制の機能不全
第一次大戦によって、ヨーロッパ、とくにイギリスの経済力の低下と、それに代わるアメリカ合衆国の台頭が、資本主義システム全体に不安定要因を加えた。
各国政府や中央銀行は第一次大戦が19世紀的国際金本位制のスムーズな運行を保障する前提を機能不全にしてしまった状況に気がつかなかった。
そのため、まがりなりにも機能していた賠償戦債循環(アメリカがドイツに資金を供給し、ドイツはその資金で経済復興をとげると同時に、賠償金をフランス、イギリスに支払い、フランス、イギリスはその資金で復興しながら、アメリカにたいして戦債の元金と利子を返済した)もアメリカの証券市場の過熱によって資金がヨーロッパに行かなくなると断ち切られてしまった。
○農業所得の停滞
機械化の進展などによって、農産物の供給側余力が増した。他方で、需要側がさほどの伸びなかったことを原因とするアメリカ農業所得の停滞は、1920年代の繁栄の足をひっぱる要素をはらんでいた。農業問題未解決のまま、1920年代末期には開発途上国から国際収支危機が広まっていった。また、農業拡大のために土地や機械を1920年代前半までに購入した農業経営者たちの債務も累積しつつあった。こうした債務構造は、いったん景気が悪化してくると、不況の進行を加速させる傾向があった。
○消費の飽和
アメリカでは第一次大戦後の世界経済にあって、新たな耐久消費財、自動車、住宅によって景気を牽引してきたが、そうした新産業を支えた内需も、生産性の伸びにはるかに遅れた賃金の伸び悩みや、農業の不振によって1920年代末期には限界を迎えつつあった。大量生産体制に変わった巨大企業の工場機械設備が過剰化してきた一方では、消費が飽和状態になっていた。耐久財支出はこのころ本格化した信用販売によって加速されていたので、都市住民の債務残高はやや遅れて増大していた。
○金利の引き上げ
アメリカの連邦準備理事会や各連邦準備銀行は1928~29年の局面で、ニューヨーク証券市場の「投機」に目を奪われてしまったために、景気が後退しかねない時期に利子率を引き上げるという間違った政策をとってしまった。
そのため、減速懸念のあった住宅や自動車の販売にブレーキをかける結果となった。さらに、1929年半ば以降の公定歩合引き上げは、10月の株価暴落の引き金になった可能性がある。
○連銀、政権の失策
①1920年代の生産性向上が、労働者の数を減らし、機械化、自動化をともなってすすんでいたことを、当時の政策担当者は見抜けなかった。好景気の中、旧来の製造業から解雇された労働者は新産業やサービス職に再雇用ていた。株価暴落を機に解雇が始まってもいずれ、これまでのように別の産業に失業者が吸収されるはずだと政策担当者が見ていた可能性はあった。したがい、深刻な不況になりつつあるとの認識が政権のエリートたちにはなかった。
②1930年秋から銀行倒産の第一波が中西部と東部で起きたときは、ニューヨークのマネーマーケットを揺るがすような広がりはもたなかった。もしも連銀関係者が、株価の下落と銀行資産の不良化に因果関係を見出し、大規模な買いオペレーションが行われていれば、恐慌がデフレ・スパイラルに転化することを防げたかもしれない。
③債務が累積し、国際収支危機に陥っている開発途上国に対する何らかの協調融資でも行われていれば、それらが他の途上国やヨーロッパ諸国に伝染するのを防ぎ、あるいは遅らせることができたかもしれない。
以上のメカニズムをみると1997年のアジア金融危機、2008年のリーマンショックが発生した際に各国が取った方策は理にかなっていたものだったというのが理解できます。
著者の秋元英一さんは経済学博士で、専攻はアメリカ経済史。したがい専門的な用語は使わず、豊富な資料を使った歴史の描写にはリアリティがあり、世界大恐慌の理解を助けてくれています。
1929年の大恐慌は金本位制が大きく関係した事件であり、これから先、同じような恐慌が起きることは考えられません。大恐慌発生を理解することは、日経平均が最高値を更新していく昨今、重要と思います。
本書は学術書ですが、関係者の証言、新聞記事が豊富に引用されている面白い歴史書でもあります。読んで損はないです。続きを読む投稿日:2024.03.30
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