日米開戦の正体
孫崎享(著)
/祥伝社
作品情報
それは日露戦争勝利の時から運命付けられていた?!・・・・・・。なぜ、日本は勝てる見込みのない戦いを仕掛けたのか? 「史上最悪の愚策」―真珠湾攻撃はどのように決断されたのか? いつ、開戦回避が不可能となったのか? ベストセラー『戦後史の正体』の著者(元外務省国際情報局長)が、膨大な資料と当時の人々の証言から解き明かした歴史の真相!この教訓が岐路に立つ現代日本に何をもたらすのか。戦後70年特別企画、話題の書を同時電子化!
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この作品のレビュー
平均 3.8 (13件のレビュー)
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数年前位から自分で始めた企画ですが、年度が改まって8月の終戦記念日を迎えるまでに、先の戦争について解説された本を読もうを思っています。
この本は、以前に読んで私にとっては「目からウロコ」であった、「…戦後史の正体」を書かれた孫崎氏によって書かれたものです。日米開戦=真珠湾攻撃になぜ踏み切ることになったのかについて解説されています。
私がこの本から得た結論は、株式市場がいくら好調のように見えても、ある程度を超えたところから上昇することが宿命となって無理をするために、いずれバブルが弾けなければならない、という自然法則に従ったためと思いました。どこかで弾ける運命にあったのだと思いました。
本の中では、夏目漱石の文章を使って上手に説明しています。牛(米国)と競争する蛙(日本)と同じことで、お腹がさけるよ(p150)
本の中では、遠い原因としては、日本軍の日露戦争の勝利によって締結したポーツマス条約違反、直接的な原因としては、日中戦争の発端となった「盧溝橋事件」辺りになるのでしょうか。この分厚い本ですが、終戦の日までに読むことができて良かったです。
最後に書かれていますが、根本的な原因として、今にも通じるものらしいですが、「おかしいと思ったことを、圧力を受けて発言できない社会になっていたこと」が、真の要因のようです。心に残るフレーズでした。
以下は気になったポイントです。
・いまなぜこの本を書こうという気持ちになったのは、今の日本が、日露戦争から真珠湾降べきに至る「いつか来た道」を歩んでいると考えるから(p4)
・具体的には、原発再稼働、TPP参加(外国企業の利益を確保する)、消費税増税、集団的自衛権、特定秘密保護法、これらは日本の生き方を根本的に変えるもの(p5)
・歴史とは、「なぜその選択をしたのか」「他に選択の余地はなかったのか」を問う学問である(p20)
・日本では最高裁の判決が最上位だが、TPPのISD条項は、この法律を裁くもの(p27)
・ドイツは米国への挑発にのらない、三国同盟の一つ、日本が米国に攻撃すれば、自動的にドイツと戦争ができると米国は考えた(p56)
・海軍省は内閣に従属して軍政・人事を担当するが、軍令部は天皇に直属し、その統帥を輔翼する立場から、海軍全体の作戦指揮を統括する。ひとたび戦争計画が作成されたら、必要な装備と人員を揃えるのが海軍大臣の任務である(p72)
・日米戦争が決定的になるのは、1941年7月2日御前会議において、正式に認可された日本軍の南部仏印(仏領インドシナ:ベトナム、ラオス、カンボジア)進駐が、7月28日に実行されてから(p89)
・陸軍は、ロシアとの戦争は考えていたが、米国と戦うことは全く考えていなかった(p106)
・天皇の命令を出す最高司令部が大本営、その決定には首相など政府が参画しない、決定は御前会議だが、基本的にはその前の連絡会議(大本営と政府の主要メンバーの協議体)で行われる(p107)
・日本は真珠湾攻撃と当時に、マレー、香港、グアム、フィリピン、ウェイク島、ミッドウェイ島を、2日間で攻撃した(p144)
・米国は日露戦争の勃発時に世界の主要国と戦争する「カラープラン」を作成、ドイツは黒、フランスは金、英国はレッド、日本はオレンジ、日本は米国を仮想敵国ナンバー2とする国防方針を、1907年に作成(p172)
・日米開戦への道を決定的引き金となったのは、日露戦争後の中国問題、ポーツマス条約で獲得したのは、南満州鉄道だけ。満州権益は列強各国と共有するという選択をすべきだった、伊藤博文はその方針であった(p177)
・1930年のロンドン海軍軍縮会議では、主力艦建造禁止の更に5年延長、ワシントン条約で除外された補助艦(巡洋艦、駆逐艦、潜水艦)の保有量が決められた、参加国は、米英仏伊および日本だが、フランス・イタリアは途中で脱退(p237)
・大阪毎日は、東京紙の「東京日々新聞(三菱財閥)」を買収したので、朝日と異なって、政府擁護、軍部擁護の姿勢が強い(p277)
・英国は当初は中国への直接統治を目指したが、中国が力をつけるにつれて、中国の自治を認めて、通商で利益を図る方針に変更した(p333)
・1939年9月1日、ドイツはポーランド侵攻、3日にイギリス、フランスは宣戦布告、1940年にドイツの快進撃は続いた、ノルウェイ、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクを制覇、6月にはフランスのパリを無血占領した(p368)
・日支事変から2年目の1939年7月26日、米国は日米通常条約(1911年締結)の破棄を通告した、最恵国待遇があるので日本だけに輸出禁止はできなかったが、条約破棄により、経済制裁を課すことが可能になり、1941年の石油全面禁輸につながる(p396)
・ポーツマス条約においては、1)遼東半島以外から、日本およびロシアは軍隊撤退、2)満州全域は中国に返還、3)満州市場には列国に共通の政策を採用する、とあるので、日本軍が満州を権益とするのは、条約違反であり米国の反発は根拠がある(p405)
・戦中は、ほとんどの文学者は戦争協力者になっていた、軍部に協力することで徴兵されず、軍需工場に徴用されず、配給物質の「紙」も協力することで作家活動が続けられた(p445)
・伊藤博文の暗殺の影響は、1)翌年、韓国併合、2)満州について清国の主権尊重、英米と協調することの重要性を主張していたがその主張者を失った(p475)
・年々70-80万人の人口増加に苦しんでいる日本としては、産業立国によって国民経済生活の調整をする以外に施策はない、とされていた(p485)
・昭和天皇が、軍部や右翼に暗殺される危機を感じていたとすれば、戦前史の見方は大きく変わる。昭和天皇独白録によれば、主戦論を抑えたならば、国内世論は沸騰し、クーデターが起きただろう、と述べている(p486、488)
・現代では、暗殺という手段の代わりに、ポストから外す、発言の場を奪う、人物破壊(世間的な評判、人物像に致命的な打撃を与える)がある(p491)
・真珠湾攻撃に突き進んだのは軍部の強引さであるが、特定の勢力の横暴を許したのは国民側にある(p497)
・日米開戦はおかしいという考え方を持っていた人は、軍部にも、外務省にも、政治家にも、新聞社にも、ほぼすべての分野に存在したが、それが圧力を受けて発言できない社会になっていたのが、真珠湾への道の最大の要因である(p498)
2015年8月16日作成続きを読む投稿日:2015.08.16
このレビューはネタバレを含みます
本作のテーマは「日米開戦」「真珠湾攻撃」。
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若者から面倒臭っ、古臭っ、みたいな反応がありそうです。ただし、氏のテーマ設定の背景は深遠です。『日本は今、「あのとき」と同じ歴史的曲がり角にいます』、と冒…頭で述べます。
・・・
今、TPP、原発はじめエネルギー問題、消費税増税、国の借金等問題がありながら、正論が叩き潰され、言論が密かに封殺されるような現代社会。
今なら無謀な戦いだと理解できる約80年前にも、正論が覆され、自己の保身から統治責任を放棄した政治家や軍人たち、そして現状をあおったマスコミや論壇があった、という話です。
現代を危機と捉えるものの問題には直接触れず、逆に80年前の状況を渉猟し、多くの歴史上の人物に当時を語らせることにより、どのようにして日本が破滅の道へたどったかを示します。正確には、1941年の真珠湾攻撃から遡り、満州事変、さらには日露戦争辺りまで事象の連関を探ります。
当然ながら、これは反面教師的効果を狙っています。
・・・
まず、日本は流れを読めなかった。
俗に、第二次世界大戦は、欧米に「追い込まれた」上で日本は突入したと言われることがあります。一部には正しいと思います。自国が不平等条約で酷い目に遭い、過剰適応の末、同様の事を韓国や中国でも展開しようとしたのかもしれません。また兄貴分たる欧米のやり方を踏襲しただけということなのかもしれません。
ところが辛亥革命以降、民族自決の萌芽は顕在化しつつあったわけです。中国を狙う米国すら、その民族意識や反発・またそれと対峙するコストについては勘案できていた節があるようです。日本にはそこまで読む力はなかったようです。で、石橋湛山など、こうした流れを読める言論人は世間から排斥されてしまったわけです。
現代で正論を言う人が排斥されていることはないでしょうか?
・・・
次にお偉方の監督責任です。
五・一五事件や二・二六事件は一般に若手将校の先走りと解されていると思います。ひいては満州国設立の差し金たる関東軍の横暴です。で、そういう暴挙に対して、偉い人たちは何をやっていたのかって思いませんか。
結論から言えば、傍観・責任放棄です。ただいるだけ。半藤一利氏の著作からの引用でこうあります。
『二・二六事件はひと言でいえば「恐怖の梃子」ですよ。(略)何かといえば陸軍の上に立つ人は「わたしはいいが、部下の方がどうでるか」と脅すんです。(『日米開戦の正体』P.489)』
今であればどうでしょう? 「いや部下のマネジメントこそあなたの仕事でしょう? できないんだったらとっとと辞めてください」って言いたくありませんか? もちろんこの場合は文字通り拳銃を持った部下であり、御しがたいところはあろうかと思います。内心で部下の横暴を応援していた向きも多かったと思います。ただ、政治家・軍人にはあまりにマネジメントに適さない人が多かったと思えてなりません。
現状の政界・財界はどうでしょうか。
・・・
これ以外にも、テロ(武力)をもとにした言論封殺は興味深かったです。辛くも生き延びた幣原喜重郎氏や、どう見ても陰謀の下に殺害されたとしか思えない佐分利中国公使の話など。
また、我が身を守るために世間と迎合した文学人(斎藤茂吉、山岡荘八、川端康成等多数)の責任問題など、有名人・芸能人の立場の厳しさを突き付けられた気がします。もちろん、メディアや有名人の発言をあるがまま嬉々として吸収してしまう民度の低さは言わずもがなです。
・・・
ということで孫崎氏による戦前戦中史についての作品でした。
多くの軍人・政治家・外交官の発言から、当時の空気を再構成しています。感じ取れるのは、近視眼的(よく言えば?戦略より戦術)、上層部の責任放棄、長いものに巻かれろ主義、異論を許さない不寛容、でしょうか。
今、こうした国民性に変化が無いとすれば、やはり同類同規模の悲劇が再発する恐れがあるのかもしれません。
本作、戦中史に興味がある方、外交史に興味のある方、政治に興味のある方、現代日本はおかしいんじゃないかと感じる方、等々にはお勧めできる作品かと思います。続きを読む投稿日:2023.07.15
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