源氏物語 巻三
瀬戸内寂聴(訳)
/講談社文庫
作品情報
謀反の咎めを受け須磨へと都落ちした光源氏は、わびしい流謫の地で明石の君と逢い、結ばれる。晴れて帰京の後、源氏と藤壺の不倫の子・冷泉帝が即位し故六条御息所の娘・前斎宮が妃として入内。明石の君との間には姫が誕生し、栄華の絶頂へと向かう源氏31歳までのドラマを描く。第3巻は、須磨・明石・澪標・蓬生・関屋・絵合・松風を収録。
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商品情報
- シリーズ
- 源氏物語
- 著者
- 瀬戸内寂聴
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社文庫
- 書籍発売日
- 2007.03.15
- Reader Store発売日
- 2014.12.12
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 392ページ
- シリーズ情報
- 全10巻
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この作品のレビュー
平均 4.4 (17件のレビュー)
-
巻三は、26才~31才までの源氏を描いており、ここにきて、ようやく自己を見つめ直す機会も頂いたかに思えた彼が、ここから心機一転やり直していこうとするのかと思いきや・・・。
「須磨(すま)」
須…磨とは今で言う、神戸市須磨区と思われ、前回、見事なしくじりをしでかした源氏は、早速、「弘徽殿の大后」の策略により、彼が謀反を企んでいるとして、まずは官位を剥奪された後、次は流罪だと予想し自ら須磨へ都落ちする。と、こう書くと、ついに覚悟を決めた、堂々たるさっぱりとした姿を予想されるかもしれないが、実際は、「ああ、なんか最近嫌なことばっかりだなあ。もうこんな所いたくないよー。でも、だからといって、女の子たちと会えなくなるのも嫌だしなあ~」と、こんな感じで未練たらたらな姿を見せる中、思ったのは、この人よく泣くなあということであり、瀬戸内寂聴さんの訳だと、一人一人の女性に対して多少の優先順位はあるものの、基本的には、ほぼ全員に毎回一途な愛を抱いているかのような泣きっぷりであり、彼の中でのその瞬間瞬間は本気なのだろうけど、結果として、それが本人にも彼女たちの為にもなっていないことに気付いていないことの悲劇を滑稽に描いている中でも、彼のこの本質的な部分の変わらなさは、ある意味凄いとも思い、こんな状況でも、「花散里」のお邸の修理を命じていく、その女性の為を思った心配りだけは流石である。
また物語としては、これまでの華やかな都の景色から、素朴な海と山が綺麗な須磨の景色へと舞台転換した流れも、読み手には新鮮に感じられ面白く、そのひっそりと佇む自然の美しさも印象的な中、突然降り出した肘掛雨から、たちまち未曾有の暴風雨へと変わる様に、私はまるで未来の暗雲を予見しているようにも思われたのが印象的だった。馬鹿なこと歌ってんじゃないよって。
「明石(あかし)」
一向に止まぬ嵐の中、お供のものたちは源氏の為に必死に神に祈り続け、「さまざまの快楽をほしいままにされ、得意になられたとは言え~」と、正直に言ったのが幸いしたのか、やがて嵐は収まるが、今度は源氏の夢枕に、父である「桐壷院」の霊が現れ、「どうして、このようにむさくるしいところにいるのか」と仰せになる、これには驚き、この世からいなくなった後もこうして息子の人生に介入してくる、その思いの強さは最早呪いとも感じられ、そこには子への愛情よりも、血統の高貴さを大事にするような当時の時代性を感じさせられた一方で、「明石の君」とその父の「入道」の親子の情も、また印象的で、特に入道の娘の為に自らの人生を投げ打ったような献身さには、当時のこの道しか娘の幸せは無いんだといった哀しみもあったが、そこには入道自身、かつて都にいたけれども、そこが合わずに、遠くに逃げ出してしまったという後悔の念があったからこそ、娘にだけはそんな侘しい思いをして欲しくない気持ちの強さは、いつの時代も変わらぬ親が子を思う愛の気高さであり、そんな献身さは、明石の君の歌からも感じさせられて、私の目にはとても感動的に映った。
『寄る波に立ちかさねたる旅衣
しほどけしとや人のいとはむ』
「澪標(みおつくし)」
まるで、昔から決められていたかのような謀により、都に帰られるようになった源氏だが、もうこうなってくると何でもありだよね。これでいいのかとは思ったが、これが後々の伏線になりそうな気もして、取りあえずそっとしておく一方で、これらのショックもあったのか、源氏の兄「朱雀帝」は「東宮」に帝を譲る。
そして、更に驚いたのが、「藤壺の尼宮」であり、ここでの彼女の発言には、いくら源氏の考えが元とはいえ、明らかに彼の背中を後押しする意図が感じられて、ここまで生きてきた苦しみが彼女を変えてしまったのか、それとも、それを超えた先に見出した達観なのか、この辺は表向きからは感じられない倫理的な問題が絡んでいるだけに、その強かさの裏にある生々しい感情は、いけないこととは思いながらも考えさせられるものもある。
それから、源氏に見られたちょっとした変化として、「紫の上」に他の女のことを色々と正直に報告するようになった事が、却って、彼女に嫉妬心を抱かせ、関係がこじれるきっかけとなっていく一方で、忙しくて自重していたお忍び歩きも再開する中、久しぶりに京に帰ってきた「六条の御息所」のあの台詞は強烈で、巻二でも見られた彼女同様に、他の女とはまた違う彼女自身の在り方を見せられた気がして、そこに幸せな思いは無かったとしても、その意志を貫き通す姿には、何か尊いものを感じさせられた。
「蓬生(よもぎう)」
「末摘花」のお話で、お付きの者も次第に出て行ってしまい、荒れ果てる一方の彼女の家に於いても、決して変わらぬ源氏への一途で燃えるような思いには心を打たれ、花散里を訪ねる途中で、そこを偶然見つけた源氏が訪れた時には、ひたすら恥ずかしそうにしている気品のある様子も印象的でありながら、『何につけても人並みでさえない』ナレーションに、ここまでコメディタッチにしなくてもいいだろと思ったものの、ここでの痛烈な皮肉が、手のひらを返したように豹変する人間の心の浅ましさであったことを実感し、末摘花に対するそれも、単に作者が、物事の一つの在り方として冷静に捉えていただけなのかもしれないと思うと、この作品に対する作者の決して妥協することのない思いも痛感させられたようで、改めてエンタテインメントという言葉の意味を頭に思い描くのであった。
「関屋(せきや)」
久しぶりの「空蟬」のエピソードに、彼女の弟の「小君」こと、「右衛門の佐」も登場し、源氏の新たな一面も感じさせられる中、最も印象的だったのは、登場する女性一人一人の個性が、より明確に見えてきたことで、作者が大事にしている彼女への思い入れも感じさせられるようだった。
「絵合(えあわせ)」
ここでの二組に分かれて、どちらの絵が素晴らしいのかを論じ合う様子には、まるで、どちらの小説が素晴らしい作品であるかをディスカッションしているようで興味深く、そこには、物語の元祖とも呼ばれている『竹取の翁の物語』をお互いに異なる視点で論じ合ったり、『宇津保物語』の現代風な面白さに加えて、『伊勢物語』は古風ではあるけれども、『在原業平』の名声を台無しにしてよいものかといった語りに、何とも言えない可笑しみがあり、こうしたメインストーリーの間にそっと入れた、ちょっとひと息入れましょう的なサブストーリーは、いい気分転換にもなって、紫式部は何でも出来るんだなと改めて感心しきりでした。
「松風(まつかぜ)」
自分の気になる女性を近くに置いておこうと、二条の院を次々と造営していく源氏に、いよいよ、やりたい放題の感が芽生える中、彼の思惑も徐々に顔を覗かせてくるようになり、ここに来て、彼の純情バカとは異なる新たな裏の一面を認識させられそうである。
寂聴さんの『源氏のしおり』にも書かれていたように、源氏が自ら都落ちしたのは、実は東宮の為であったことや、藤壺の尼宮との密談の野心の強さに加えて、これまで、どんなに機嫌を損ねられても変わらぬ愛を貫いてきた、彼女に対する接し方も変わってきたように思われ、これはいよいよ、風雲急を告げるというか、嵐の前の静けさというか、ちょっと怖くなってきたぞー。
というわけで、次回から、サスペンススリラーにジャンルが変わっているかもしれませんので、紫式部の物語の舵取りから、さらに目が離せない展開になりそうでドキドキしてきました(違った意味で)。
ちなみに、巻一の裏表紙に書かれていた、
『すべての恋する人に贈る最高のラブストーリー』が、いつ訪れるのか、それも楽しみです。続きを読む投稿日:2023.08.16
須磨・明石・澪標・蓬生・関屋・絵合・松風までの7帖が収録.危機回避のため自ら須磨に落ちるが,結局行動理念は不変で,この点が全く理解できないし,周囲の源氏への対応姿勢も理解の範囲外.常に最上敬語である二…重敬語で各行動が表現されるので,皇族(神)という立ち位置である行動理念に理解など求めてはいけないのかも知れない.そもそも須磨から松風まで一気に物語が流れていくので,読んでいて素っ気なさがつきまとう.その間にあった各人の心の機微が物語られるとまた異なるのかも知れない.続きを読む
投稿日:2024.03.19
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