ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて
長谷川博隆(著)
/講談社学術文庫
作品情報
エブロ河を越えアルプスを越え、南イタリアの地カンナエでローマ軍団を打ち砕いたハンニバル。戦いに勝ちながら、最終的にローマという果実を刈り取らなかったのは何故なのか――。地中海世界の覇権をかけて大国ローマを屈服寸前まで追いつめたカルタゴの勇将、アレクサンドロス・カエサル・ナポレオンに比肩する天才の戦略と悲劇的な生涯を描く。(講談社学術文庫)
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商品情報
- シリーズ
- ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて
- 著者
- 長谷川博隆
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社学術文庫
- 書籍発売日
- 2005.08.10
- Reader Store発売日
- 2014.10.24
- ファイルサイズ
- 5.2MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (5件のレビュー)
-
共和制ローマを苦しめたカルタゴの名将ハンニバル。冬のアルプスを越えたローマ本土強襲や、カンネーの戦いでの包囲殲滅戦術など、彼がローマに与えた影響は余りにも大きい。ザマの戦いでスキピオに敗れたとはいえ、…彼が傑出した戦術家であることは疑いようないし、戦略家、あるいは政治家としての才は、スキピオを大きく凌いでいた。つまり、ハンニバルは、単なるカルタゴの名将などではなく、マケドニアのヤンキー王子やローマの禿げの借金王と同じ次元で評価されるべき人物なのである。それなのに、彼の功績を知るのは一部の軍事マニアと歴史マニアくらいで、普通の人にとっては、彼の名前が元になった映画の猟奇殺人犯の方が、いくらかメジャーだ。
それは、ハンニバルが取りも直さず敗者側の人間であり、現代に伝わる彼の人物像が、勝者ローマによって残忍で陰湿なものに歪められているからである。残忍で陰湿なだけの将軍が敵地イタリアで何年にも渡って兵の士気を保ち続けられるわけがない。彼が人心を掌握できた理由は、現代には正確な形では伝わっていないが、何かしら魅力的な人物であったのは間違いないだろう。
本書では、彼のローマに対する戦いが、時代を追って描かれる。相手の裏をかき、虚を突き、あらゆる手段で本土を荒らしまくったポエニ戦争。カルタゴ祖国に戻り、外交交渉と内政に奔走した日々。亡命を重ねながらローマの膨張主義を封じ込めようと各国に働き掛けた晩年。彼の一生は、膨張主義を続けるローマから、祖国カルタゴを護ることに費やされたと言っても過言ではない。皮肉にも、その戦いが、結果的にローマを更に強大な国家へと育て上げてしまったのだが……
『ローマ人の物語』読者にとってはスキピオの引き立て役になってしまいがちなハンニバルだが、カルタゴ側から彼を知ると、歴史は更に面白くなる。ただ、ポエニ戦争の趨勢を知るには、少々分量が少ないのと、ハンニバルの呆れるほどの名将ぶりが伝わりにくいのが難点といえば難点かも知れない。魅力的だけれども創作であることが明らかな逸話が割愛されているのも、一般読者にとっては残念だが、本書は歴史物語ではなく歴史の啓蒙書であるから、文句は言えない。むしろ、学者の手による割には読みやすいくらいかもしれない。読者を選ぶけれど、面白い人には面白い。そんな本だ。続きを読む投稿日:2010.10.04
このレビューはネタバレを含みます
軍人・将軍としてのハンニバル像だけでなく、"大"政治家としてのハンニバル像を描くことを目指す。
レビューの続きを読む
カルタゴの歴史を貫くのは、政府当局と将軍の対立である。BC241年まで続いた第一次ポエニ戦争後(シチリア…喪失)、ハンニバルの父である将軍ハミルカルは政府当局のハンノと対立。政府に賃金の支払いを求める傭兵たちの反乱がきっかけであった。両者の確執は深まり、ハミルカルはスペインに向かう。
したがって、のちにハンニバルが将軍位についたのも、スペインでのことである。彼はイベリア半島南部を次々と平定。とりわけサグントゥムはスペイン中枢部への入口であり、ローマに譲るわけにはいかなかった。が、交渉はうまくいかず、西地中海の覇権を争う戦いが始まる。
そこでは有名なアルプス超えやカンネーの戦いがあるのだが、その後でシチリア、サルデーニャ、スペインを一体と捉えたイタリア方位策を筆者は評価する。
BC202年、スキピオが北アフリカに上陸。ハンニバルも本国に戻り、ザマの戦いとなるが、敗北。カルタゴは賠償金を背負うが、有産者層への課税や輸出ルートの確保は彼の高い政治的資質を示している。
彼は失脚後もマケドニアの敗北やエジプトの弱体化に目をつけ、シリアと組むことでローマ包囲を狙っていた。続きを読む投稿日:2023.12.10
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