コモン・センス 完全版
トマス・ペイン(著)
,佐藤健志(訳)
/PHP研究所
作品情報
1776年の新大陸で、独立戦争の起爆剤となった大ベストセラー『コモン・センス』。アメリカについても戦後日本についても、本書を知らずに語ることはできない。それどころか、本書には面白い特徴が見られる。イギリスに対するアメリカの従属ぶりを批判し「自由のために決起せよ」と叫んだトマス・ペインの議論は、「イギリス」を「アメリカ」に置き換え、「アメリカ」を「日本」に置き換えるだけで、「真の独立のために決起せよ」と叫ぶ日本の反米保守の議論とそっくりなのだ。『コモン・センス』は新大陸の人々に対して「独立アメリカはかくあるべし」というイメージを説いた書だが、そのイメージには「原理主義的な宗教性」「合理主義・啓蒙主義的な虚構性」という二つの大きな柱がある。この二つが結びついた結果、理想と矛盾を孕む国となった・・・・・・。これまで日本では不完全版でしか読めなかった歴史的名著が、華麗な訳文のもと全面復活!
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この作品のレビュー
平均 3.5 (2件のレビュー)
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トマス・ペイン「Common Sense コモンセンス―アメリカを生んだ「過激な聖書」」(佐藤健志訳)を読む。
もともとアメリカの歴史にあまり興味はなかったのだが、独立の背景となる本書を読んで…、目からウロコが落ちた!と云えるかも知れない。この「コモンセンス」、アメリカとイギリスが武力紛争に突入した1年後に発行され、発刊より3か月で12万部とも1年で50万部とも云われる。当時の新大陸アメリカの人口が250万人だったのを思えば、まさに空前の大ヒット。この書によってアメリカの民衆がイギリスからの独立へ決起したと云っても過言ではないのだろう。まさに歴史を作った一冊と云うことになる。
しがないイギリスの職人が新大陸に渡って雑誌編集者となり、そこで才能が開花して本書が出来上がる。本来イギリス人でありながら、イギリスのジョージ3世を痛烈に罵倒し、新大陸の民衆を独立に向けて扇動するという背景には、当時のイギリスの事情、混乱もあったのに違いない。新大陸こそは、自由・平等のまったく新しい国家を樹立するに相応しいとの主張は、世界に普遍の国家を樹立することでもあったわけで、それ故に人々の共鳴を読んだのだろう。直後に出された独立宣言とも軌を一つにするものと云える。
思えば、その時の思想は現在のアメリカに脈々と生きていると云ってもよい。世界に普遍の国家を作るとの考えは、かつてのイラクにせよ今のイスラム国にせよ、それらに対処する際の指針でもあったわけで、そういう意味では今なお、アメリカと云う国は純粋とも云えるのかも知れない。本書の日本訳は少し踊り過ぎているきらいはあるものの、色々と示唆に富んだ本と云えそうだ。続きを読む投稿日:2015.02.12
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レキシントンの戦いから八ヶ月以上が過ぎた十七七六年一月の時点においても、独立を積極的に主張するアメリカ人は少数派だったのだ!
イギリスの…態度に不満はある、けれども戦争に訴えてでも独立をめざすのは行き過ぎではないか――多くの人々はこんな葛藤を抱え、態度を決めかねていた。
『コモン・センス』は、この状況を一変させた。
もはや流れは決まった。独立戦争の遂行はアメリカの常識となったのだ。13
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『コモン・センス』はまずもって、「イギリスとの全面対決をためらうアメリカ人にたいし、新大陸にやってきたばかりのイギリス人が、独立を目指して決起せよ!と激烈にアジった本」ではないか。同書は「あるイギリス人の著作」と銘打たれていたのだから、アメリカ人はこれから戦おうとしている人間に鼓舞されて、戦場へと向かったことになる。42
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二つの国の違いはどこにあるか?フランスでは王の意思が、勅令や布告としてストレートに下達される。ひきかえイギリスでは、議会によって決められた法律という、より手ごわい形を取って下達される。
「横暴な真似をするときは、そうっとバレないように巧妙にやらねばならない」と悟ったのだ。86
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王たちのプライドこそ、人類を争いに陥れたきた元凶なのである。オランダを見るがいい。王を持たぬ同国は、ここ一世紀ほどの間、ヨーロッパのいかなる王国も及ばぬ平和を享受してきた。91
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ギデオンや預言者サムエルを想起せよ。「王によって国を治めるべからず」というのが神の意志だと、彼らは宣言しているではないか。92
ギデオンは王になる栄誉を辞退したのではない。誰かを王に祭り上げる資格など、人間には与えられていないと言い切ったのだ。95
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答えは三種類しかありえない。神、ないし神意を代弁する者から任命されたか、選挙の結果か、力ずくで王位を手に入れたかだ。
初代の王が任命によって即位したとすれば、それは「次の王も任命で選ばれるべきだ」という前例をつくったにひとしく、世襲は否定される。
人々が王を選挙することで、王朝が始まった場合もしかり。そのこと自体が、「以後の王も選挙で決まられるべし」という前例をつくる。107
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独立を勝ちとらないかぎり、デメリットがなくなる日はない。
一部の者は、こんな主張を展開する。アメリカはこれまで、イギリスとのつながりのもとで繁栄してきた。ゆえに将来の幸福も、この縁なしにはありえない。イギリスの植民地であることこそ、変わらぬ繁栄のカギである。122
イギリスはわれわれを守ってきてくれたではないか、こう抗弁する者もいる。なるほど、同国がアメリカを縄張りとしてきたのは事実だ、新大陸の植民地を外敵から防衛する費用も、大半をアメリカ人に出させたとはいえ、多少自腹を切ったことは認めよう。
だとしても、向こうの動機は何だ?アメリカ人に物を売りつけて利益を得ることと、新大陸の支配権を確保すること。利益と支配権が伴うなら、イギリスはトルコのことだって「守る」に違いない。123
親方イギリスと自慢してきたものの、向こうはこちらに愛着など持っていない。ソロバンを弾いているだけである。
アメリカの利益を守るべく、アメリカの敵を抑え込む――そんなことをイギリスがしてくれたことはない。あの国がやってきたのは、イギリスの利益を守るべく、新大陸においてもイギリスの敵を抑え込むことなのだ。124
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独立をめぐる真の不安材料は、あるとしても一つだけ。国の体制、言いかえれば国体をどうするか、具体案が固まっていない点だ。156
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これぞ潮時と言える。国力が現在のレベルに達する前に独立を試みるのはもとより、現在のレベルを上回ったあとで独立を試みるのも、致命的な結果をもたらしかねない。173
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アメリカは独立を勝ちとるに十分なだけの人口を有する。かりに人口がもっと多かったら、今度は人々の団結が弱まってしまうことだろう。
人口が増えれば、商業や交易が盛んになる。経済活動にとらわれた人々は、他の事柄に感心を持たなくなるのである。191
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良い習慣は、若いうちに身につけておくのが望ましい。個人の場合でも、国家の場合でも、この真理に変わりはない。
今から五十年も経ってしまったら、新大陸に統一政府つくりあげるのは非常に難しくなるだろう。不可能になるとさえ言えるのではあるまいか。192
五十年後のアメリカは、商業がいっそう発達し、人口も増えているだろう。人々の関心や利害は、こうして多種多様なものとなる。193
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偉大なるモンテスキューを知っているかね。彼はこう述べている。いわく、自分たちの国体を維持したいのであれば、宗教、法律、慣習、すべてにおいて大きく異なる国とだけ同盟関係を結ぶこと。アメリカがジョージ三世に尻尾を振りつづければ、イギリス国民にとってプラスどころかマイナスとなる。王の権力や影響力が強まってしまうからだ。270
――――――――――――――――――――――――――――――続きを読む投稿日:2015.09.23
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