この作品のレビュー
平均 4.3 (3件のレビュー)
-
800年来の誤解をいま解く!というキャッチコピー。正岡子規、小林秀雄、斎藤茂吉といった錚々たる面々による、天才詩人であるが文弱な悲劇の将軍という評価に対し、歴史学と文学の両面より実朝の真実に迫る。
と…いうことなのだが、本書の論旨は実は自分にはあまり意外性は感じられなかった。もとより右大臣正二位にまで達する職位は幕府内そして朝廷での安定した地位確立のためのはずだし、そもそも後鳥羽への接近は雅な世界の憧れはあるにせよ、むしろ幕府の相対化をもたらし、従属的であるにせよ東西2極化をさらに推進するものと考えるからだ。(後鳥羽にしてみれば権門体制への一層の取り込みかもしれないが・・・。)将軍親裁指向と執権北条義時ら北条勢力とのせめぎ合いもこの文脈の背景として首肯できるものだろう。将軍としては孤独だったかもしれないが、実際、幕府内での主導権・権威確立を考えた場合、実朝のとるべき道であったといえる。
一方、父・頼朝の構想を引き継ぎ、実朝や政子、そして義時、大江広元らをはじめとした幕府首脳が一丸となって、鎌倉に後鳥羽の皇子を迎え入れようとしていた事実は、ことここに至っては「幕府」にとって「源氏」の「血」もそれほど重要なものでなかったともいえる。官位の急激な上昇は、親王補佐の役割を目指した後鳥羽側からの家格上昇策と著者は考えるが、何よりも著者も触れるように幕府に対しての何の実績もない実朝にしてみても、「源氏」の貴種性を上げるための家格上昇は当然の選択であったことだろう。
そのような中で『金塊和歌集』に向けて没頭していく姿は、ある意味、趣味と実益を両立するものだったのではないだろうか。(笑)著者は特に『金塊和歌集』での様々な和歌を通じて実朝の心情を読み解いていくのだが、歴史的背景に対してパラレルに跡付ける新味があってなかなか興味深かった。
次にお約束の実朝暗殺についてだが、自分も従来の有力説通り三浦義村黒幕説を単純に思っていたが、確かに経緯を考えると直接的には公暁の妄念のみが生んだ犯行であったかもしれない。実際はどうであるにせよ現時点でそこに黒幕を考えるには、少々ミステリーチックに過ぎるのかもしれない。また、事件後に阿野全成の息子どもや頼家の息子が次々と殺されている事実は、「源氏」の「血」は「御輿」にはなり得る存在だが、今となっては幕府首脳にはその「血」自体、邪魔なものでしかなく、「幕府」存在としても必須のものでもなかったということなのだろう。何よりその後の摂家将軍・親王将軍がそれを証明しており、対朝廷対策という意味において頼朝時代から断続的に要請されてきたという親王下向の願いは、後世の「幕府」条件を考えると歴史の皮肉ともいえる。
さて、実朝の死で後鳥羽の構想も頓挫したわけだが、幕府首脳の「源氏」断絶策はむしろチャンスでもあったはずなのだが、その後の流れはパワーバランスを見誤ったというほかはない。実朝喪失は後鳥羽の王権をも大きく覆すこととなりこれも歴史の皮肉であったともいえる。
かように存在自体が微妙なバランスを取り持っていた実朝であるが、今回著者は「たくましい」政治家としての側面をも併せ持つ新実朝像を提示したのだと思うが、ひたむきな将軍親裁といい、後鳥羽、そして和歌への傾倒といい、かなり純真で孤独な人物だったのだろうという基本イメージそのものは未だ変わらないといっても良いのではないか。
文学の素材を何とか使えないものかと自分ももったいなく感じていたので(笑)、今後も著者には、文学面などのアプローチから人物の心情面にまで踏み込んだ歴史論述を行い、歴史学に新風を吹かし続けてもらいたい。続きを読む投稿日:2014.08.15
このレビューはネタバレを含みます
源実朝の歌集「金槐和歌集」から実朝とその名付け親である後鳥羽上皇との友好関係、踏み込んで言えば、早くに父の頼朝を亡くした実朝が後鳥羽上皇に父性を感じた、との話がとても面白かった。実子を儲けずに後鳥羽上…皇の親王を次期将軍に据えることも、源氏の血統よりも「父」たる後鳥羽上皇の関係者を重視したわけだと。一時はその路線で進みかけた。しかし実朝の将軍親政は北条氏、特に北条義時から反感を買った。
レビューの続きを読む
そして鶴岡八幡宮での右大臣拝賀の儀で甥の公暁に暗殺される。その黒幕を義時や三浦義村とする説もあるが、本書では若い公暁の単独犯行というフツーの結論に追いついている。そして親王の将軍を、との路線は後見人たる実朝不在により王権東西分裂に繋がりかねないとして撤回される。後鳥羽上皇と義時と、つまりは朝廷と幕府との関係が悪化してゆき、承久の乱へ至ることになる。
「幕府政治に背を向け、公家文化に耽溺して和歌や蹴鞠に没頭した文弱な正宮、源氏と北条氏、幕府と朝廷との狭間で懊悩しつつも、個性的で雄大な『万葉調』の和歌を詠んだ孤独な天才歌人、こうした従来の実朝像をくつがえすことができたのではないかと考える。(エピローグp. 265)
歴史にあまり詳しくないわたしには、この「従来の実朝像」が無かった。そのために著者の論はとても飲み込みやすかった。しかも従来説や他の研究者の説なども随時取り上げている点も、本書を信頼できるものとして読み進めることができた。
今年(2022年)のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証担当者でもある著者は、本書や中公新書「承久の乱」などで描いた鎌倉時代初期のリアリティーを上げるのに大いに貢献していることと思われる。(が、2月下旬の現時点で私はまだ未見である…w続きを読む投稿日:2022.02.22
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。