この作品のレビュー
平均 3.2 (8件のレビュー)
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日本では,「冷戦終了によって社会主義は終った」みたいな誤解があるが,欧州などでは社会主義は健在。19世紀中ごろから20世紀中ごろまでの社会主義の歴史を見ながら,誤解を正し,誤解の原因を探っていく。
… 筆者は社会主義を「生産活動が私的なカネ儲けの手段と化さないよう、それを理性的な意思決定の下に統制すること」と説く。私有を制限するのは,あくまでも「生産手段」についてであって,「生活手段」ではないとこがポイント。ポルポト政権による惨劇などはここを誤解したために起こった。
純然たる資本主義は,実際に生産活動を行なう人間を脇役に追いやってしまう。これをマルクスは「疎外」と呼んだ。産業革命後の19世紀欧州では,非熟練の工場労働者がまさにそのような境遇に置かれていた。これを見かねて社会主義の思想が発展してゆく。
1830年代にイギリスやフランスで社会主義思想は生まれた。初期のものはマルクスやエンゲルスから「空想的」と批判されたが,本質的に異なっていたわけではない。別に私有財産制の否定を夢見る共産主義も出てきたが,こちらは物欲を不道徳として糾弾する非現実的なユートピア思想だった。
アメリカの奴隷制は悪名高いが,実はイギリスの工場労働者の方が不遇だったといえなくもない。奴隷は個人の財産であるから大事に使わなくてはならないが,労働者は市場で売り買いされる労働力にすぎない。資本家としては,酷使することが合理的であった。
しかしやはり労働者の貧窮は社会問題となり,資本家に主役を取って代わられていた旧支配層は,工場規制や公的な扶助を画策する。資本家としては国家の介入は好ましくない。そこで哀れな貧乏人たちに施しをしてやろうというチャリティのしくみが生まれ,広がっていく。
慈善・チャリティというと良いイメージしかなかったが,その起源は公権力の介入を防ぐための偽善っぽいとこにあったりするのね…。ともあれ,19世紀半ばには,資本家と労働者の対立関係が成立していくが,労働者も熟練・非熟練・移民など様々で,単一の「労働者階級」ではなかった。
実際の社会主義運動は,決して単純なイデオロギーに基づいて行なわれてきたものではない。現実は複雑で,様々な紆余曲折があった。普仏戦争後のパリコミューンは,マルクスが絶賛して「神話」が作られた。社会主義の大義のために自己を犠牲にした英雄たちという神話。
パリコミューンは,72日間パリを支配するが,結局は政府軍に殲滅されてしまう。初等教育も受けられなかった庶民たちが,学識エリートたちに乗せられて政府に抵抗し,最後には弾圧され殺されてしまったというのが実相に近い。その上偉大な英雄として長い間宣伝材料にされてしまう…。
19世紀後半,社会主義者たちは労働運動を指導したり,次第に影響力を増していく。世紀末までには,イギリスで帝国主義と社会主義的福祉政策が結びついた国の運営が確立してきた。本来の社会主義は,国境を否定するものだが,人々に受け入れられやすい愛国心の方がより現実を動かす。
社会民主主義と共産主義は,前者が穏健なフェビアン流の改良主義,後者が急進的なマルクス流の革命主義と思って大きな間違いではないようだ。そのマルクス主義的革命は,最初に労働問題が起こったイギリスでも,二月革命やパリコミューンのフランスでもなく,遅れたロシアで起こった。
日本はどうか。明治維新から間もない日本にも,社会主義思想が流入してきていたが,やはりその理解は薄っぺらだった。社会主義者も政府側も,社会主義の中身を深く知ることもなく,消化不良の舶来思想に振り回されていただけだった。当然のこと,一般の民衆にはもっとチンプンカンプン。
1922年に日本共産党が発足するが,これも良く事情がわからないので,コミンテルンという権威についておけば良いだろうという考えの産物だったようだ。そしてこういった経緯が敗戦を超えて尾を引き,日本の社会主義勢力は単なる抵抗勢力に堕してしまい,雲散霧消してしまった。
著者は,日本に社会主義が根づかなかったのは,それを消化するだけの土壌がなかったためだと言う。確かにそうかもしれない。ただ,思想というものはそれが生まれた国の環境と密接不可分だから,これは仕方のないことなんだろう。でも今から誤解を正すことはできるし,それは有意義だと思う。続きを読む投稿日:2011.10.26
社会主義。人間の生産活動を、私的自由や市場原理にゆだねることを拒絶する。正当な国家権力が公正な生産活動を指導する。生産手段の社会化を目指す。所有一般の廃止ではなく、ブルジョワ的な所有を廃止する。
投稿日:2024.05.16
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