ユートピア
トマス・モア(著)
,平井正穂(訳)
/岩波文庫
この作品のレビュー
平均 4.1 (46件のレビュー)
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どこにも無い国
著者トマス・モアが、船乗りラファエル・ヒスロディに語らせたユートピアというところは、自由な精神と自己規律でもって正しく生きている人々の国でした。
都市は国中に均等に散らばって存在し、都市間はわざと間…隔が開けられています。それは、農村部を配置し、自給が可能なようにと配慮されているようです。
農村部の農場に、都市部から人が2年ごとに交代で集められ、農耕が営まれています。これは旧ソ連時代の集団農場を想起されますが、旧ソ連の指導者たちがユートピアをモデルにしていたとしても不思議なことではないと思いました。
ユートピアは島国であるが、他国との貿易によって莫大な利益を上げています。しかし、ユートピア人は財産の私有制を取っていないため、特定の個人に財が集中することは無く、またそういう野心を抱くものもいません。貿易で得られた利益は、金として国内に蓄えられるが、一部については他国へ借款として与えられ戦時の交渉材料として使われます。
金銀に対して国民が野心や邪心を抱かないように、金銀を汚らわしいものとして扱う、つまり金は便器として使われたり、奴隷を現す印に使われたりしている。
現実と理想の折り合いをつけようと真剣に考えていたことは、戦争に対する嫌悪感や戦争に対する現実的な対応方法の記述に強く感じられます。戦争による名誉こそ不名誉なことは無いのである。従って戦争は可能な限り回避されるように試みられますし、戦争が始まったときでも流血なしで解決されるように策が打たれます。貿易によって得られた莫大な資金を使って、敵対国と戦争回避の交渉が行われます。あるいは、敵対国の叛乱分子に資金を提供して、相手国を混乱に陥れます。いざ、戦いが始まると、初めに前線に向かうのは、お金に物を言わせて集めた傭兵たちです。ユートピア人の損害をできる限り最小化しようという思惑が働いています。しかし、傭兵をしても相手を打ち倒すことができない場合に、ユートピア人は戦争に嫌悪を感じつつも逃亡という不名誉は考えず、自らが相手との白兵戦に勇気を持って立ち向かうのです。それは家族とて同じで、前線での戦いに家族も同行し、戦士と生死を共にするのです。
ユートピアとは、ラテン語を使ったトマス・モアの造語で、どこにも無い国という意味だそうです。西暦1500年前後のヨーロッパの実情を見て危機感を抱いていたトマス・モアが、理想の国として描いたものだそうです。最小限の法律で国が円滑に運営される国、徳が非常に重んじられている国、物が共有されているためにあらゆる人が物を豊富に有している国、それがユートピアであした。トマス・モアが現実世界を直視して問題の根源を洞察したとき、財産の私有が認められ金銭が絶大な勢力・権力を振るうようなところには、正しい治世と社会的な繁栄はありえないという意見に辿り着いたのでしょう。
続きを読む投稿日:2014.06.08
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このレビューはネタバレを含みます
【不人情な近代国家】
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大航海の時代に、アメリゴ・ベスプッチの率いる船にも乗って世界探検を経験したというラファエル・ヒロスディさんが訪れたユートピア国について、全体としては、国家制度の在り方に関する自論…みたいなのが語られる。聞いているのは、この小説の語りのトマス・モアさんと、ラファエルを紹介してくれたピエールさんで聞いている、スタイル。
はじめの章は、イギリスの国家としての矛盾を指摘するラファエルさん、合意できない点について問われ、さらに論を深める。
金を盗んだら死刑になる制度を批判。
「人間には自殺する力も他人を殺す力もありません。」
人が窃盗をする環境設定を国家自体が作っていると指摘。つまり、貧者を生む仕組み。生きるために窃盗するしかなくなる状況。貨幣の流通が生む不平等。
「…平等ということは、すべての人が銘銘自分の私有財産を持っている限り、決して行われるべくもないと私は考えています。」(本文より)
そこからユートピア国の制度や暮らしをどんどん深堀していく。
・・・
当時から貨幣経済の弊害は強く感じられていたのだなーと思う。
でも私たちはさらにその後、資本主義経済を深めていく。
共産主義のいわゆる失敗も経て、経済資本に基づく利益の支配する社会は強固なものになった。
地球環境をぎりぎりまで脅かすまでにもなっている資本制度は、さらに限られた地球資源までも経済価値に置き換えようとする動きが進んでいる。
ユートピア国のしくみでは、偏重した金至上主義みたいなものを克服するために、金を便器などに使っている。
「金なら金、銀なら銀というものの本性にふさわしいように、 本来の価値以上に評価しないで用いているだけの話」とのこと。
労働は6時間。一方で、みんなが同じ服だったり、仕事も割り当てられたり、皆を同じぐらい載せ勝レベルにしようとすると、面白みに欠ける部分もあるのかもしれない。思考実験なので本当のところは分からない。
『#人新世の資本論』でも論じられていたような、コモンズ的なしくみと重なる部分が多々あり、興味深かった。
近代国家が確立していくという時代に、この本はどのように受け止められていたのかな... すでに「理想」であったのか。でもこのような思想を基に、その後、共産主義の思想が発展したし、いったん消えかけたけれども今にもたぶんつながっているのだろうと思う。
ギリシャ哲学なども引用されつつ、
ストア派よりも快楽主義派だとされるユートピア国。
ユートピア国が最も尊重するのは心の快楽は、主として「徳を行うこととよき生活の自覚から生ずる」とのこと。
徳を高める、という点では共通している。
人はどのように生きるべきか、何をもって良い人生と言われるのか、
その視点は、どのように社会を運営するか、という議論には欠かせない。
国家制度や貨幣制度が暴走し始める中で、その国家の在り方を不正な、不人情な国家とし、
本来追求すべきは人間一人ひとりの幸せであったり、人生の質である、と釘を指すよう、手段が目的化していることに警鐘を鳴らす。500年も前の本だけれども現代的にも通づる、考えさせられる本だった。続きを読む投稿日:2024.05.07
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