世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか
岡田芳郎(著)
/講談社文庫
この作品のレビュー
平均 4.4 (8件のレビュー)
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この1冊との出会いは、わたしにとっておとんを知る、おとんを知ることで自分を知ることとなりました。
うちの両親、実はどちらもルーツは山形県です。
おかんの母、いわゆるおばばは鶴岡の出身だったようだ…が、おとんはこの本に出てくる「佐藤久一」と同じ酒田の出身。もっと言うと、おとんはもうすこし田舎の出身ですが。
いずれにしても酒田の人、しかも同年代。しいて違いを言えば、佐藤久一はいいとこ出身のお金持ち。しかしながら30くらいで北海道へ出てくるまでは、おとんも酒田で生活していたわけで、ちょうど佐藤久一がつくりあげた「世界一の映画館」と称された「グリーンハウス」をリアルタイムで知っているばかりか、そこへ通っていたという。そんな時代があったなんて。それだけでテンションあがったことは言うまでもなく。
この本を読んで、実は聴いたことがない、おとんの若かりし頃を少しばかり垣間見たような、そんでこれがいちばん発見だったのだが、憶測だがなんでおとんは北に向かって来たのかということも。
うちのおとんもおかんも、いいお年の割にはとても洋画好きです。
こうなると、おかんの洋画好きはさておき、おとんの洋画好きも納得。
当時、山形には5館ほど映画館があって、そのうち「グリーンハウス」は洋画専門で、とにかく当時の映画館としては、それが山形という地方にあるのが信じられないくらいすごい映画館だったらしく、今のシネコンなんかめじゃないくらい先駆けだったようです。あの、淀川長治が絶賛したくらいだから、相当でしょう。
そんなグリーンハウスも、これもまた運命というか、何かの「縁」なのか、
わたしが生まれた1年後、1976年の「酒田大火」で焼失し、その後閉館しているとのとこ。しかもこの著書によると、その火元が「グリーンハウス」の漏電によるものとのこと。この時点で佐藤久一は「グリーンハウス」のオーナーではなかったものの、こんな運命のいたずらって。
既に父はこのとき稚内で、そのことをリアルに体験はしていないだろうけど、酒田大火のことはよく知っていました。
そんな火事があったこともさることながら、自分も稚内中央商店街が1夜かけて焼失した「大火」をリアルタイムに知っているだけに、これまた深い「縁」を感じつつ。(街が燃えるって、どんな感じか、これってきっと、経験した人にしかわからないような気がする。)
前後して、佐藤久一という人は、いろいろあってフランス料理を確立していくのですが、このフランス料理に関するくだりを読んでいて、はっとされさられるわけです。
わたしは今まで、父の実家が米農家だということもあって、そこに結びつくことがなかったのですが、酒田はどうやらおいしいお魚にも恵まれるらしく、それを知って「はっ」としました。
おかん曰く「なぜ北海道に渡ってきたか」との問いに「乗る汽車を間違えた」とよく言っていたそうですが、そうじゃないって。
最も、おとんの実姉が先だって稚内へ嫁いでいたという事実も大きいだろうけど、北海道の、しかも当時漁業が全盛期だった稚内へ結果的にたどり着いたのは、きっとそんな背景があったからなのでは、と思うんです。
おとんは佐藤久一がつくったフランス料理店「ル・ポットフー」には、おそらく来店したことはないだろうし、実際佐藤久一も既にこの世を去っており、当時の料理を本人自ら作ったものを食べることは叶わないけど、幸いまだお店はあるらしく、小学校6年生のとき、1度だけおとんと二人だけで酒田を訪れた時以来、私自身も酒田へ久しく足を運んでおらず、もし近いうちにできるなら、酒田を訪れ「ル・ポットフー」で料理を食べるのが、できれば父も、せっかくだから母も一緒に、しゃーないからだんなもついでに(苦笑)、ちょっとした夢になりつつあります。
余談だが、佐藤久一という人の人生だけで言うと、晩年はどういう思いでいたんだろう、女のわたしから見たら、なんとも寂しい人生の幕引きを感じないわけでもなく、心中複雑でしたが、いずれにしても彼の功績はたしかに大きく、父が酒田というきっかけで手にした本でしたが、こんな人いたんだ、と知れてよかった。
そんな父と母の子であるわたしも、やっぱり映画好きで(苦笑)
DNAって、間違いない感じ(笑)
ああ「グリーンハウス」で観てみたかったなあ。続きを読む投稿日:2011.07.26
2008年に講談社から出版され、2010年に文庫化されました。というのは後から知ったことで、ネットでたまたま見つけ、ものすごく興味を惹かれて入手。著者は岡田芳郎さんという方で、電通を定年退職後、エッセ…イストに。
1949(昭和24)年、山形県酒田市に開業した映画館“グリーン・ハウス”は、あの淀川長治氏が「世界一の映画館」と絶賛したという伝説の映画館。同じく酒田市にあったフランス料理店“ル・ポットフー”は、開高健、丸谷才一、山口瞳など、食通の作家や著名人が通いつめた店でした。映画館とフランス料理店、双方の支配人を務めたのが佐藤久一なる男。
佐藤久一は酒田の造り酒屋、金久酒造の息子。父親は地元の名士として知られ、久一は筋金入りのボンボン。醸造の仕事に関わる気はまるでない久一は日大芸術学部へ進学。ところが、そんな久一を父親は酒田へ呼び戻し、映画館をやってみないかと言います。
20歳にして映画館の支配人となった久一。観客が快適に過ごせる映画館を第一に考え、清潔感を重視。女性客がなかなか寄りつかないのは、トイレのせいにちがいないと、まだトイレが汲み取り式だった時代、清掃を徹底して悪臭を根絶。映画を観ずにトイレに立ち寄る客まで出たそうな。座席数を減らしてゆったり座れるようにすると、VIPルームも設置。少人数のグループや家族連れがほかの客に気兼ねなく映画鑑賞できます。ロビーには喫茶店を併設して、淹れたてのコーヒーも評判に。
また、ただならぬ本数の映画を観ていた久一は、お薦め映画について自ら執筆、無料の冊子を配布しました。前売り券の販売や割引制度などのアイデアも久一から生まれたもの。東京の有名映画館と同じ映画を同時期に呼ぶ手配に成功します。しかし、女がらみでグリーン・ハウスに居づらくなり、あっさりグリーン・ハウスを人に任せて出て行くと、次の興味はレストラン経営。実のところ、映画館の話よりもフランス料理店の話のほうがおもしろく、書き並べられた数々の料理も食べてみたいと思わせるものばかりです。
客に最高のもてなしを。これしか頭にない久一は、原価率70%(一般的には30%)の料理を提供し、みるみる赤字が膨らんでゆきます。そんなときに起きた1976(昭和51)年の酒田大火。この火事の火元がグリーン・ハウスであったことから、人びとの口に久一の名前がのぼることはなくなってしまいました。
67歳で食道癌で亡くなった久一。映画とフランス料理、華やかな世界で客を楽しませながら、自身がくつろぐことは知らなかったようで、晩年の記述には胸が痛みます。
正直言って、読んでいるときは著者がお年を召しているせいなのか、文体がいささか古めかしく、おもしろみには欠けるなぁと思っていました。読み終わってしばらくすると、あの淡々とした雰囲気こそが偽りないノンフィクションだと思えて、ちょっと印象深い1冊です。
映画『世界一と言われた映画館』の感想はこちら→https://blog.goo.ne.jp/minoes3128/e/b41e95722f5d35d374c2d25377192ec6続きを読む投稿日:2017.04.23
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