日本軍と日本兵 米軍報告書は語る
一ノ瀬俊也(著)
/講談社現代新書
作品情報
日本軍というと、空疎な精神論ばかりを振り回したり、兵士たちを「玉砕」させた組織というイメージがあります。しかし日本軍=玉砕というイメージにとらわれると、なぜ戦争があれだけ長引いたのかという問いへの答えはむしろ見えづらくなってしまうおそれがあります。本書は、戦争のもう一方の当事者である米軍が軍内部で出していた広報誌を用いて、彼らが日本軍、そして日本人をどうとらえていたかを探ります。(講談社現代新書)
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商品情報
- シリーズ
- 日本軍と日本兵 米軍報告書は語る
- 著者
- 一ノ瀬俊也
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2014.01.20
- Reader Store発売日
- 2014.02.28
- ファイルサイズ
- 3.1MB
- ページ数
- 272ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (29件のレビュー)
-
戦争に勝つためには敵を正確に知る必要がある。責任をもたない立場から他国を罵るならいざ知らず、国を左右するための情報収集とあっては感情的な判断に流されて評価を誤るわけにはいかない。だからこそ軍の情報部が…まっとうに機能していれば、敵対国に関する情報は自然とバイアスが低く純度の高いものになるずである。本書の試みの面白さは、このような前提に支えられている。
1942から1946年まで、米陸軍軍事情報部が部内向けに提供していた戦訓広報誌に掲載されたの情報をもとに、戦闘組織としての日本陸軍の姿や能力を明かすことをテーマとしている。タイトルはわかりやすく「日本軍」としているが、正確には「日本陸軍」が対象である。当時の日本陸軍を外部からの目で検証することで当時の日本人のあり方を知るとともに、顧みてはそこに連なる私たちがどのような存在かを知ることも広義としての狙いに含まれるだろう。
全4章で、前半は日本陸軍の備える各種の属性について、後半は戦地ごとの情報に分類できる。前半の1・2章ではそれぞれが物質的な属性と精神的な属性に触れる。後半の3・4章は時系列上の前後半に分かれる。また本書の特色は、敵側からの視点を導入することで日本側を相対化することだけでない。自虐的な視点から日本陸軍の決定や行動を「ファナティック」で「不合理」だとする安易に断ずる批判を許さず、その背景にある合理性を知るための努力を惜しまない公正さも特筆すべき基本姿勢として挙げられる。
全体の流れとしては、各章で新たな情報が続々と開陳されるというよりも、実際の日本陸軍と戦った米兵の体験談やさまざまな具体例から同様の見解が示されることで日本陸軍の特性が浮き彫りになるという印象を受けた。その特徴を示す情報としては、実は本書の帯分に羅列されているフレーズが(一部は正確ではないことが明かされるにせよ)端的に表している。そのままを引用すると「規律は良好」「準備された防御体制下では死ぬまで戦う」「射撃下手」「予想外の事態が起きるとパニックに」がこれにあたる。そして、そのような特徴から導き出されるのは、兵士たちだけでなく日本人全体の置かれた状況こそが彼らの行動の鍵を握っていたといえる。
すなわちそれは、戦争を主導した政府や軍によってではなく、村的な共同体の相互扶助の仕組みによって戦時下の生活が支えられていたという事実に多くを負っていたということだ。だからこそ食うにも食えず、激しい体罰が横行し、どんなに勝ち目がなかろうとも逃げ出すわけにはいかない。兵士が逃げ出すことは、日本に残した家族が共同体での立場を失うという現実的な不幸を意味する。ほとんどの兵士たちはいわば、人質を取られた状態で派兵され、理不尽な命令にもただ従うほかなかった。そのような背景を知れば、多くの米兵たちが指摘した日本兵の集団志向および個人としての判断力・行動力の欠如は事実だろうと頷くことができるとともに、「ファナティック」で「不合理」なバンザイ突撃や特攻を可能にした「合理性」にも納得せざるをえない。
著者は「真に批判されるべき日本軍上級司令部の冷酷な統帥ぶり」として、日本がおこした戦争の失敗の核心とする。たしかにその通りだろうが、その一方で一般国民は純然たる被害者だったのか。戦争にいたるまでの過程において、それを押しとどめる選択は不可能だったのだろうか。本書を読んでいて思い返したのは、東日本大震災による津波の被害に迫った『津波の霊たち』だった。日本在住の外国人記者である筆者は、海外からも多くの賞賛を浴びた被災下における日本人の「我慢強さ」に対し、最終的には嫌悪に近い感情を抱くまでになる。不満や怒りや悲しみに対して行動に移さず声をあげないことが、本来あるべき解決をみすみす遠ざけてしまう。それこそが本質ではないかということ。本書が描きだした70年以上前の日本の兵士たちの置かれた状況は、現代のわたしたちにとっても見慣れた光景ではないだろうか。続きを読む投稿日:2021.09.01
従来色々な戦記物などを読んできて思い描いていた日本兵の姿とは、飢えに苦しみ貧弱な火器しか持たされず、だが一方では勇敢に最後の一兵まで敵に立ち向かう様な勇ましい姿が多かったように思える。実際は野火に見ら…れる様に、とても天皇陛下の臣下とは感じられない、汚く卑怯かつ味方をも騙す様な狡猾さ(生き延びる為に仕方ない面があろうとも)を持ち合わせるものも多かったであろうが。兵士と言えど人は人だ。恐怖心も空腹も絶望感も虚無感も持ったただの人間である。特に職業軍人でもなく令状一枚で召集された様な民間人であれば尚更、兵士としての心構えや国、上官に対する揺るぎない忠誠心を全員がもっていたかどうかは疑わしい。というかあり得ないだろう。一人一人の異なる教育や生活環境で育った人間の集まりであるから、必ずしも「日本兵はこういうものだ」と言い切るのは難しいまでも、本書の様な、戦った相手側であるアメリカによる分析は面白い。
開戦当初は海軍の奇襲攻撃に始まり、東南アジアを銀輪部隊が神速で諸外国の軍を撤退させるなど確かに強く勇ましく感じられる側面が多かったであろう。またドイツの様に全体主義に駆られた日本が、個人の自由に溢れたアメリカよりも遥かに統制が効いて怖いもの知らずという憶測もあっただろう。だからアメリカ兵は見た目も考え方も言葉もわからない日本兵を極端に恐れた可能性も十分にある。だからこそ早くからアメリカは日本兵の実態を調査し、戦線に伝える事で、兵士の不要な不安を払拭し、士気を上げる事は重要だ。その点筆者が言う様に誇張された(実際よりも弱く描かれた)可能性はある。
だが、前述したように兵士と言えどただの人間である。どんなに精神力が強くても肉体の強さはそれほど大きく変わらない。そこに圧倒的な火力を有するアメリカ兵が強いと言うのは当たり前である。強いて言うなら孫子の兵法にあるように終始追い詰められ死地に陣する日本兵が「死に物狂い」「火事場のクソ力」を発揮していた可能性があるぐらいなものだろう。
本書で新しさを感じたのはそうしたアメリカが見た日本の視点だけでなく、「学ばない軍隊」と言われる日本軍もサイパン、テニアン、グアムの敗戦を機にその後の硫黄島や沖縄戦に戦術を変えて改善を加えてきている点である。水際作戦を採らない事はよく言われる事だが、もっと多くのことを学び改善を図ろうとした姿は他の書籍ではあまり見かけない。失敗を活かさない面だけがやたらと強調される日本軍ではあるが、こうした改善が図られていた点は感心した。ただし時既に遅しという想いは残る。
現代社会に於いても経済、外交の中では諸外国と物理的な火力を用いないまでも戦闘は繰り広げられている。形を変えながらも考え方や技術、判断力などの違いはビジネスの中にもしばしば現れてくる。こうした書籍を読み我々の前の世代がどの様に相手を分析して行動に活かしてきたか。それを知る事は今後を生きるヒントになるかもしれない。続きを読む投稿日:2024.03.03
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